戦士の章
敵なんていなかった。
大人だって、魔物だって、拳と武器さえあればなんとかなった。
怪我もしたことがなかった。
楽しいことなんてひとつもなかったし、これからもつまらない人生を送るんだと思っていた。
あの日までは。
「ぐぁ!」
「おい、さっさとそこを退けよ!」
「そうだそうだ!」
「ひ、ひかねぇぞ......寄って集って弱者を虐める奴らには絶対負けない!」
「君の言う通りだ。集団で囲って弱い者を虐めるのは悪だ」
「全く持ってその通りだとも。だが、勇者よ。このような些事に気をかける必要は無い。さっさと次へ行こうではないか」
「......」
俺は......俺はどうすりゃいいんだ......
「まぁまぁ、魔法使い。そう言わない。折角彼が頑張っているんだ。俺達が見捨てたらそれは違うだろ?」
「それは......そうだが」
「てめぇら、何呑気に話なんぞしていやがる!」
「お前ら、コイツらから先にやっちまえ!」
俺は見ていることしか出来なかった。
強いと思っていた。
自分が一番強いと思っていた。
大人にも魔物にも負けたことがなかったから。
つまらねぇ、つまらねぇ。
そう言いながら歩いていただけ。
なのにコイツらが虐めているのを見て、身体が勝手に動き出しやがった。
護るつもりなんてなかったのに。
勝手に身体が動いちまったし、言葉もスラスラでてきた。
なんだよ、この気持ち......
「ふぃー......こんなもんかな」
「全く......このような些事に首を突っ込むなとあれほど言っただろうに」
「あ、あのよ!」
「うん? あぁ、大丈夫かい? 怪我は?」
「あ、いや......それは大丈夫だ。身体だけは頑丈だからな」
「それならよかった。君もそこの君も無事で何より」
上手く言葉に出来ねぇ......
「では我らは先を行く」
「だな。じゃ、元気でな」
「ま、待ってくれ!」
歩き始めていた2人に声をかける。
「俺も......俺もあんたらみたいに強くなりたい! だから......その、一緒に連れて行ってくれねぇか?」
「いいのか?俺たちの旅は果てしないし、とんでもなく危険だけど」
「強くなりたいのは結構だが......わざわざ着いてくる必要性はどこにもないと思うがね」
「俺はあんたらみたいに弱いものを助ける強さが欲しいんだ! だから......泣き言なんて言わねぇし、心も折れねぇようにする! だから、この通りだ!」
地面に頭を擦り付ける。
これが今俺が見せることが出来る最大限の誠意だから。
「魔法使い」
「それ以上言うな。私は責任を持たん。全ては勇者に任せる」
「それじゃ、決定だ。君も俺たちの仲間入りだ。名前はなんて言うんだ?」
「俺の名前は」
『どうだ勇者! 俺は強くなっただろう!』
『前を見ろ、バカ!』
『は? どぅえっふ!!!』
『戦士さん!?』
『全く君という男は油断しすぎなのだよ。ゴーレム如きに吹き飛ばされるとはとんだお笑い草だね』
『い、今のはまぐれだ! 次は上手くやるとも!』
『ではアレの相手は君がしたまえ』
『えぇ......ドラゴンかよ......』
『どうした? その程度かね?』
『戦士、不安なら俺も闘うけど?』
『いや、大丈夫だ。アレを1人で倒せるくらいには成長しないとな!』
『その前に怪我をしないようにしてくださいよ』
『はっはぁ! この俺様と力比べができる人間がいたとはな!』
『んだよ......このバカ力......!』
『おぉん? その程度か? 勇者一行の戦士とやらはその程度の力しかだせないのか?』
『はん! 精々油断してることだな! 俺は、俺たちはこの程度で終わらねぇんだからよ!!!』
「勇者、俺はお前の道を切り開くから。お前が前に進めるように俺はお前の道を切り開くから。俺はお前の道を切り開く。俺はお前の道を。俺はお前の。俺は、俺は俺は俺は、俺は俺は俺は俺は、オレオレオレ、ははははは、おまおまおまおま、のの、道道道道、ををを」
「壊れたか。おい、誰か精神魔法を掛けてやれ」
「はっ!」
「斬れる。確かに斬れる。この我を常に斬ることが出来るのはお前だけだとも、戦士。だが、それだけだ。斬ることができる、ただそれだけだとも。あの時お前の相手が我でなくて助かったなぁ?」
ひとつ斬られ。
ふたつ斬られ。
「が、飽きてきたな。おい、次の武器を持たせろ」
「はっ!」
みっつ斬っては、
武器を変え、
「まぁ、これはこれで存外気持ちがいいものだ。我も凝るところは凝る。存分に斬るがよい。壊れるまでな」
よっつ斬っては、
「俺がお前の道になるから。憧れの勇者に近づくために頑張るから」
武器を変え、
「お前も諦めるなよ、勇者」
いつつ斬っては、
憧れて。
あともう少し