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~8~
照り付ける太陽の下、三毛猫は一人ある街へと足を運んでいた。
「あと何キロあんだよこの道は…」
そう言いながら、その辺で拾った木の棒を杖代わりにして歩いていく。
「まさか自分で装備を作ることに限界があったとわ、もう少し早く聞きたかったな」
数日前、三毛猫は以前会話をしたレビィーとばったり出会っていた。その時にレビィーからドゾンについての話をいくつか聞かれた。
「あの話の後に装備の作り方を聞かなかったら永遠とやっていただろうなぁ」
その時、後ろから馬車が走ってきて、三毛猫の横を少し過ぎてから止まった。
「おーいなんで歩いてんだ?」
馬車の中から男が顔を出した。
「なんでって、馬車がないからだよ」
三毛猫がそう答えると。
「こいこい、乗せてやるよ。その代わりと言っちゃなんだが、お前…飯作れるか?」
「一応作れますけど…」
「そうか!なら乗ってくれ」
そう言われ、馬車の中へと入る。
「お邪魔します」
「さ、座ってくれ」
三毛猫は男の正面に座る。
「俺の名はノル。槍術師をやってる」
そう言い、三毛猫の前に槍を見せる。
「そんでこいつが一緒に旅をしている」
「エンです…よろしく」
ザ・魔法使いと言わんばかりな装備の女の子が小さな声で名乗る。
「あ、どうも。俺は三毛猫という。罠師をやっている」
そう三毛猫が言うとノルとエンが笑い出した。
「お前まじかそれ!ハズレじゃんww」
「ダメよノル笑っちゃ…ㇷ゚」
ひとしきり笑ったところでノルが話してきた。
「いやー悪かった、まさかあの職業を選ぶ奴が本当にいるとは思わなかったからな」
「いや、大丈夫だ」
「ところで三毛猫はどこに向かっていたんだ?」
「ああ、ちょっと装備の作成をお願いしたくて、[ハーマ]ってとこに行こうとしてたんだよ」
「なんだそれならラッキーじゃねえか」
そう言いノルは馬車のカーテンを開く。
「もうすぐ着くからな」
「な、なんで!?早すぎる!まだ数分しか経ってないのに」
動揺する三毛猫、そんな彼にノルは
「ま、うちにはちょっと変わった馬使いがいるからな」
「馬じゃないわよ」
ベシッとエンがノルの頭をたたく。
「ほい到着」
「送ってもらってすまないな。もともと飯を作る約束だったから…ほいっ、二人で食べてくれ」
そう言いながら三毛猫は、昼ご飯用にと取っていたイノシシのステーキを渡した。
「おお!サンキューー!」
「感謝するわ」
喜ぶ二人に手を振りながら、[ハーマ]へ向かっていった。
(やべ、あの肉下処理もなんもしていなかったな…まいっか)
「凄いな、まるでお祭りみたいだな」
そうつぶやいた三毛猫の視線の先には屋台や吟遊詩人、大道芸をしている人などで活気づいていた。
「鍛冶師のことを聞く前にまずは腹ごしらえかな」
さっきから鳴りっぱなしのおなかを抑えながら近くの近くの店に行く。
「いらっしゃい!お好きな席へどうぞー」
元気いっぱいの声でこちらに向かって声をかける少女。
「注文は何にしますか?」
「この店のおススメを頼む」
「かしこまりましたー」
そう言って少女は厨房の方へと消えていった。
しばらくして
「はいお待ち同様」
そう言われ机の上にスライム?のようなものが入った器が乗せられた。
「え…あの、これは?」
「これ?うちの店おススメのスライムの活き造りだよ」
にっこりと笑いながら説明をする少女。
そんな少女とは打って変わって三毛猫の表情はどんどん暗くなっていく。
「これはどうやって食べれば」
「ああ、それはこうするの」
少女は器の横にあったレモンをスライムに振り絞った。
「ギィギィー!」
と器の中にいたスライムが呻きだした。
(まじかこいつら、見た感じ目とかないくせにレモンの汁でもだえ苦しんでいやがる)
「さぁどうぞ!おいしいですよ!」
「あ、ありがとう…」
(ええい男は度胸だ!)
そして三毛猫はスライムを口の中に入れ噛んでいく。
(以外に弾力があってグミみたいな触感だな。それに思っていたよりも甘い)
そう思いながら食べ続けていく三毛猫。
「ふう…ご馳走様でした」
「あら、よく全部食べれたわね。そこらの冒険者だったら見た目でギブアップするのに」
食べ終えると同時に狐耳がはえている女性が三毛猫の前に座った。
(さっきの少女の姉かな)
目の前に座っている女性を見ながらそう思う三毛猫。
「この国には何しに来たの?」
「装備を作ってもらえる人を探しにきましてね。ほらこの国って、鍛冶国って呼ばれるくらい鍛冶が盛んじゃないですか」
「へえ、なるほどねぇ」
三毛猫の言葉を聞いた女性がニヤリと笑う。
「ところでお兄さんはフレンドになっている人いる?」
「いやいないけど」
「じゃあこれ」
そう言われて女性からフレンド申請のカードをもらった。
このカードをどちらか片方が登録するとフレンド登録されるシステムだ。
「あたしの名前はジェシカ。あなたとはまたすぐに会えると思うわ」
「えっ?あっちょ!」
そう言ってジェシカは颯爽と店を出て行った。
「なんだったんだ…」
謎の女性ジェシカと別れた後、三毛猫は鍛冶師について再び聞きまわっていた。
「ああ、腕のいい鍛冶師ならそこがいいよ」
「ほんとか?」
「腕はいいんだが…おそらくあんたは無理だろうな」
屋台のおっさんからの突然の一言に驚く。
「なんで?」
「そりゃお前さんが最弱の職業だからさ」
「またそれか…」
この数分前にも、三毛猫は[罠師]という職業のせいでいくつもの鍛冶屋から追い出されていた。
「そもそもお前さんの職業は非戦闘職、鍛冶師にとっては自分の作った武器を最大限生かせる奴にその力をふるうもんなんだよ」
「くっ」
下唇を噛みながらうつむく三毛猫。
それをみたおっさんは神のない頭を掻きながら
「まぁ他に心当たりがないことはないこともないが…」
「本当か!?」
「ああ、そこの大道りに[焼き蛇]って店と[揚げトンボ]って店の間に細い路地がある、そこを進んでいけばそいつがいるよ」
「ありがとな」
指示された方に進みながら礼を言う。
屋台のおっさんに言われたとおりその店はあった。
「ほ、ほんとうにここか?」
三毛猫の前にあったのは、みすぼらしい外観の店だった。
「騙されたかなぁ」
ため息を吐いていると後ろから声をかけられた
「いらっしゃい」
ジェシカだった。
「なんでここにいる?」
「あら?自分の家に帰ることは普通のことでしょう」
「は?ここ!?」
おんぼろの店を指さしながら三毛猫はジェシカを見る。
「そうよ、ついてきなさい」
「えっちょっ」
振り返りもしないジェシカの後ろを慌ててついていく。
「お茶を入れるから少し待っていなさい」
「いや、結構だ。それよりもジェシカ、お前はなんなんだ?」
ヤカンを持ったままこちらを見るジェシカ。
「とりあえず座りましょう」
「自己紹介をさせてもらうわ。ちょっと人付き合いが苦手な腕のいい鍛冶師よ。腕のいい」
なぜ二回言った。
「そうか、その腕のいい鍛冶師さんがなぜ俺にもう一度会えると分かっていたんだ?」
「分かってはいないわよ、これで屋台の店主に頼んだのよ」
胸の前で¥ポーズをするジェシカ。
「どの店で?」
「あなたが最後に寄った店よ」
「あれかぁ」
「それで?武器はどうするの?私としては早くそのバッグに入っているレアアイテムを使わしてもらいたいのだけれども」
三毛猫の目つきが変わった。
「…どこで知った?」
「ふふ、そう警戒しないでちょうだい。私のスキルよ」
「スキル?これが?」
自身のスータスを確認する。
「お前から何か探知魔法を受けた覚えはないが」
「このスキルは周囲にいるプレイヤーの所持するアイテムに勝手に反応するのよ」
「なるほどな」
(だがこいつがこの素材を使えるのか…)
そんなことをしばし考える。
「考え事はまとまったかしら?」
「ああ、大丈夫だ」
「それじゃあ」
席を立ち、近くに置いてあった巻物をとるジェシカ。
「これを見てちょうだい」
そう言って巻物を広げる。
「<第30回バトルロワイアル>?」
「そう、それに一緒に出てほしいの」
「なぜ?」
すぐさま聞き返す。
「単純に優勝賞金が欲しいだけよ」
さきほどの巻物を見返す三毛猫。
そこには大々的に50億Gと書かれていた。
「まじか…」
「ちなみにもし勝ったら5:5じゃなくて4:6にしてあげるわ」
「それはおいしいな…ん?この名前」
三毛猫が見ていたのは前回の優勝者の欄に書かれた名前だった。
「ノルとエン…」
「どうしたの?」
「ああ!!思い出した」
ジェシカが突然の大声にビクリと肩を震わす。
「ジェシカ、出よう」
「え?何よ突然?」
「さあ、目指すは優勝だ!!」
困惑するジェシカをよそに、優勝?のために張り切りだす三毛猫であった。