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〜2〜
「…あれ、ここどこ?」
アバター作成を終え、始まりの街へと転移させられるはずだった少年。なぜか一人、森の中にいた。
「人の気配もないし、ここが街ってわけじゃないよな」
木々の隙間から光が差し、夜中ではない事が確認できる。
「まぁここで突っ立っていたって仕方がないしな」
そう言って少年はおもむろに歩き出す。
近くにあった大木を触りながら言う。
「にしてもさすがVRMMO、匂いや質感までリアルだな…」
ふと横を見ると、白くて丸い大きな大福があった。
「何だこれ…!?」
手が沈んだ。
「やわらけーー!しかもフカフカじゃん!」
少年は大福みたいなものを、伸ばしたり、軽く殴ったり、抱きしめたり…とにかく堪能していた。
「…フゴ」
するとどこからともなく何かの鳴き声が聞こえた。
「ん?なんかいるのか?」
少年は周囲を見渡したが何もいない。
「気のせい、か」
そんな事を言っていると。
ゴゴゴゴゴ!
「な、なんだ!?地面が揺れている!」
急に起こった揺れに足を取られる。現実で経験したことがある地震よりも遥かに大きい。
しばらく経って揺れがおさまってきた。
「なんだったんだろな…」
先程の揺れのことを考えていると、手に違和感があることに気づいた。
「ん?なんか動いてね…」
自分の手の方向に視線をやると。
イノシシがいた。
それもただのイノシシでは無い、大きさは見るからにしてクマよりもでかい。いや、もしかしたらそれ以上ある。
「や、やばい!」
少年が口にした瞬間。
「フギャーーーーーー!」
イノシシと目が合ってしまった。
そこからの少年の行動は早かった。
(逃げる!それしかない!)
少年は走り出した。
だがそれを見たイノシシは一目散に追いかけてきた。
「ウッソだろお前!?走れるんかい!」
迫ってくる巨体に驚きを隠せない。
「やべっ!アイツ速い」
先程から逃げているが全く突き放せない、むしろ距離が縮まっている。
「な、なんかねーか」
少年はひたすら逃げ続けながら考えた。
「そうだ!スキルがあった!」
ズサ!
「な、なんとかまけた…」
木の裏に隠れ、そう口にするとステータスを開きスキル欄を見る。
「どれだどれだ俺のスキル…!あった!」
自分のスキルにめちゃくちゃ期待していた少年だったが…
[素材加工EX]
「ちくしょー!そうだった!戦闘関係なかったー!」
自分の当てたスキルを見て嘆いてしまう。
「こんなん一体なんに使えんだよ…」
スキル欄を閉じようとした時、少年はなぜか気になった。
「“素材”ってどれだ?」
ふと、そう口にした。
「単純に考えると素材って材料みたいなもんだよな…じゃあこの森の中にある“木”って使えるんじゃないのか?」
少年はそう言うとおもむろに隠れていた木に手を当て。
「形状、筒状。長さ1メートルほど。[素材加工]実行。」
木の一部がひかりだし、先程言った物に変わっていく。
「出来ちゃったよ…」
あっけに取られた少年は、またすぐに考え始めた。
(このスキル強くね。だってあれだろ?最悪、土でも空気でも考えようによっちゃ“素材”みたいなもんだろ?)
しばらくブツブツと呟いていると。
ピロンッ♪
「ん?」
メッセージ欄に「スキル初使用おめでとう!」というメールが送られてきた。何やらプレゼントも付いていた。
「なんだこれ?」
メールに付属していたプレゼントを開けると[初心者でも出来る罠]というタイトルの本が出てきた。
「これはあれか?読めってことか?」
少年は本を手に取り、パラパラとめくり出す。
そして突然。
「スキル[初級罠設置]を入手しました。」
そんな音声とともにスキル欄に[初級罠設置]が追加されていた。
「これで、あのイノシシ倒せるんじゃないか…」
ここから、街に行くわけでもなく人に会うわけでもなく、ただあのイノシシを倒すための計画が始まった。