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後処理に追われる者達


 「『レギンレイヴ』の調整、終了しました」


 整備班長ミヒロ・ユウリの言葉と共に指輪型のデバイスが返却される。『神姫』を起動する為のキーであるそれを見てから、彼女の背後で佇む威容に目をやる。

 『神姫』ーー使用者の魔力を食らって動く鋼の機動兵器。流麗なフォルムは鋼の武骨さが殆ど見られず、兵器というには些か芸術品めいたものがある。

 

 「毎度言いますが、レギンレイヴは人間の耐えうるG限界に掛けられるリミットを全部外してあります。ハルト大尉の技量は信じていますが」

 「皆まで言うなっての。分かってるよ」


 工場内でハルトが訪れる度に行われるそんなやり取り。既に聞き慣れたそれに態々聞き耳を立てる者などおらず、整備士達はいつもの事か、と聞き流しながら作業を続ける。


 「反抗期の子供ですか、あなたは。全く、あなたの身体だけじゃなくて、レギンレイヴにも負担が掛かっているって言うんです。駆動系に負担が大きいように見えましたが、まさか、空での機動力が強いこの子で、陸戦なんてやってませんよね?」

 「あー、うん。以後気をつけるわ」

 「やったんですね・・・」


 最早何も言うまいとばかりに頭を振ったミヒロ、ハルトは苦笑いで誤魔化そうとするが、やたらと恨みがましい視線を向けられてしまった。


 「量産品のヴァルキュリアと比べて、専用機であるレギンレイヴは欠損を潰れた機体から賄えません。予備パーツまで戦場で使い切ったらどうするつもりなんですか」

 「そんときゃ、素手で・・・善処するっての」


 冗談では済まない、そんな空気を感じ取ったハルトは、珍しくしっかりと頭を下げた。

 



 

 レウィシア共和国の街並みは美しい。

 水の都、という異名の代名詞とも言える街中を蜘蛛の巣の様に走る川、それを際立たせる白亜の建物、精緻に、一切の無駄なく計算されて作られた街並みは、石畳の一枚とてズレも隙間もない。

 また、街の風紀や、外観を崩す要素を極限まで廃棄したこの国は、そういった行為への罰が非常に重たいので、世界中を見渡してもトップクラスの治安の良さを誇る。

 街を走り回る子供達の姿と、それを見守らずに談笑を交わす親達の姿は、それを如実に表していた。


 「で?」

 「何が?」


 白磁の美貌、芸術品めいた美しさ。

 だらしなく着崩された黒い軍服には、少佐の証である金色の二本ラインと一つ星がある。

 ハルトが隊長を務める部隊『ストラトス』の副隊長、その見た目とは似つかぬ物々しいその称号を持つ少女リザ・リーリスは惚けたようなハルトの向う脛を蹴り飛ばした。


 「ったぁ!?」


 膝で持ち上がったテーブルがタップダンスを踊る。恋人達の憩いの場、優美な店の雰囲気と静寂で成り立つその場をかき乱す机の足音に、冷ややかな視線が向けられた。

 冷や汗を流しながら周囲に頭を下げてから向直れば、リザの不機嫌そうな顔があった。


 「何すんだよ」

 「こっちのセリフよ。あの子、カナンの事よ!自分で拾っといて私に預けっぱなしな事について、何か弁明は無いの?」


 因みにカナンとは、2ヶ月前にオラリア連邦でハルト達が保護した少女の事である。


 「痛いよ?君の力、半端なく強いんだから、指が折れちゃう」


 ハルトの人差し指を握りしめる細っこい少女の手、軽く握っているように見えるが、実際には握力70キロを超える彼女の万力が込められているため、鬱血してしまっている。


 「千切ってやろうかしら」

 「いや、というか拾ったの女の子だし、流石に男の俺が預かるわけにもいかんでしょ」

 「責任って言ったのはあんたでしょ」


 ハルトは言葉に詰まる。

 非常にバツの悪そうな顔をしてから、「まあ、今のは冗談半分、本当はこれを準備してた」と言いながら、鞄からいくつかの書類を取り出した。


 「ん?これって」


 ハルトが取り出したのは、この国の身分証明書と、士官学校の入学書であった。

 顔写真や、オラリア連邦で拾った為、ハルトの養子として引き取った経緯など、この国で暮らす為に必要な書類が全部揃っている。


 「ふーん、珍しく仕事してるじゃない」

 「でしょ?じゃあ、離してくれないかな」

 「・・・養子引き取り証人が私になってるんだけど?」

 「頼れる人他に居なかったから、許して?」


 リザの小さなため息。項垂れるような仕草をしてから指を離すと、


 「後で『minimani』のケーキ」

 

 超高級ケーキ店の名前である。

 まあ、身元の知れない子供の身請け証人となってくれた割には随分と安い報酬だろう。


 「喜んで奢らせてもらうよ」

 「感謝しなさい」


 言いながら頼んでから、一切口を付けてなかった紅茶を飲む。

 長く喋っていた気がしたが、


 「アチっ」


 猫舌のハルトが飲むには、少しばかり早過ぎた。

 その様子を見たリザは楽しそうに口元を緩めて同じく紅茶に口をつける。貴族もかくやといった具合に流麗な仕草で飲む彼女の姿には、気品が漂う。


 「そういえば、あの子を入学させるなら、士官学校用の制服とか準備しないとじゃないの?」


 カップを置いてから、思い出したようにリザが呟いた。

 

 「あー、そっか。そういうとこもちゃんとしないとだよな。俺はほら、叩き上げでの特殊昇級だったから、一応士官ではあるんだけど」


 呆れたようにリザはもう一度項垂れる。


 「しょうがないわね。私のお下がりで良ければあげる」

 「まじ?サンキュー」

 「サンキュー、って・・・今時中々聞かない言葉を」

 「そうか?じゃあ、今時はなんて言うんだ?」

 「んー、普通にありがとう?」

 「適当だなー」


 言ってから、ハルトはお金をテーブルに置きつつ立ち上がる。


 「奢るよ」

 「あら、どうも。あんたは?」

 「士官学校編入は俺の推薦枠使うから、学長に話通してくる。夜にはカナンを預かりにそっち行くよ」

 「了解」


 頼んだ物より、少し多いお金はサービス料か。

 立ち去っていったハルトを尻目にリザは料金ギリギリまでケーキを追加注文した。



 


 




 

 

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