戦争が終わって
『神姫』の巨腕が瓦礫の中から、何人目ともしれない死体を引きずり出した。
四肢の欠損したそれらを集めた場所に置いてから、ハルトは一つ溜息をつく。
「ハルト、終わった?」
空を自由に動く神姫を地上から見上げる少女が居た。
山稜の向こうへと沈む夕陽が照らす白銀の髪は美しく、年相応に幼い顔ながら、彼女の持つ白磁の美貌は芸術品のようだ。
「さあね。死体を探せばキリがないから、そろそろ切り上げようとは思っているよ」
世界最大の大陸、『オラリア』の中央に位置するオラリア連邦。遥か彼方に見えるグランジュテ山脈に囲まれた平野に作られた巨大国家。
その連邦とハルトの所属するレウィシア共和国の戦争、その戦場と化したそこは、一夜の内に廃墟と化した。
原型の残った死体が4つも残っているのは奇跡と言ってもいい。
辺り一面を埋め尽くした瓦礫群、建造物は殆ど残っておらず、荒廃しつくしたそこを照らす夕陽も山稜の向こうへと沈みかけている。
『アンデッド』にならないようにと、死体を集めはするが、これだけ荒れ放題かつ、光源も失せ掛けているとなると、やる気も出ない。
それに、
「どうせ、後で国のお役人が勝手に開拓するし、アンデッド処理なんて奴らに任せてもいいしな」
「それやると、生き残りが居た場合とか、ね」
言いながら、少女の指差した先にはよろよろと歩いて来る人影があった。
瓦礫の下にでも隠れていたのだろうか、しかし、あんな戦闘の中生き残ったというのは、途轍も無い幸運だ。
「神姫の人体実験、数が足りないらしいし、あんなに幼い子なら使いやすそうよね」
「やっぱうちの国ってクソだな」
「拾うの?」
「・・・責任だろ。殺されたって文句は言えない」
その言葉の頭、「この現状を作り出した」という言葉を付けるか否か、迷った挙句にハルトは何も言わなかった。