5.クーデレの秘密
「じゃあクレナさんは前世だと年上なんですね」
唐突に敬語になったレイヤードに、私は慌てて胸の前で両手を振った。
「敬語やめてください!今は同い年ですし、何より身分がありますから!それに、何かの拍子にレイヤード様が私に敬語使っちゃったら、かなりまずいですし…!」
王子を隠しているとはいえ、レイヤードは公爵家子息という、もはや大して隠してないような肩書きを持っているのだ。
そんな彼が男爵家の人間に敬語など…あり得なさ過ぎてその後の展開が想像できない。
「そうですか?…じゃあ。でも変な感じだね、今さら身分なんて」
「まあ、そうですよね…」
図書準備室に置いてあるビロード張りの椅子に腰をおろし、二人で不可思議な現状に思いを馳せる。
レイヤードの前世は日本の大学生だったそうだ。しかもどうやら自分と同じ時代で世界。
彼の記憶が戻ったのはゴールデンロッド入学直前だという。
ちなみに、なぜ私が転生者だと分かったのかというと、実は下駄箱スルメ事件を隠れて見ていたらしく。
あの場で出ていった私に、もしかしたらと思い軽く接触を試みようとしたところ「王子」発言プラス正拳突きをくらって確信したそうだ。
そうだよね、令嬢は普通正拳突きしないもんね。
「僕、ゲーム好きで…ハブガも結構やりこんでたんだよね」
「ハブガ、男性ファンも多かったですもんね」
「だからイベントやゲームの流れも知ってたし…でもまさか自分が攻略対象キャラになるとは思わなかったな」
たしかに。攻略対象キャラなんて中々なれるもんじゃない。
しかも、かつては自分が攻略する側だったわけで……
「そういえば、レイヤード様は誰推しだったんですか?」
「え?」
「ハブガです!ちなみに私、ルイ先輩でした!」
実はレイヤードも好きなんだけど、中身が元お仲間とは言え本人の前で言うのはさすがに照れる。
「えーと、僕は…僕も、ル、ルイ…かな」
一瞬言い淀んだレイヤードを見て、私の中で何かが閃いた。
反らした目、ほんのりピンクに染まった頬…これは、もしや。
あー、そっ、あー、おっけーおっけーそう言うことね!ハイハイハイハイ、わかるわかる。私腐ってるのもイケるっていうかどっちかって言うと好きなんで!
どうりで下駄箱スルメ事件の時来なかったわけだ。繋がったわ!
モゾモゾと人差し指を動かしてるレイヤードを見ながら、私は一人うんうんと頷くのだった。