47.亀裂
ルイ先輩が私を呼び出したのは、どうやら上履き隠し事件以降、嫌がらせなどにあっていないか確認する為だったようだ。
近況を一通り訊ねられ、おかげさまでアンゼリカやコリンくんと仲良く?なれたことを報告した。
一瞬クリストフのことが頭を過ったけれど…話すにはレイヤードの名前を出さなければならない。
報告が必要かもしれないけど、どうしても口にすることができなかった。
そして落ちる、沈黙。
いくら推しとの空間とはいえ、その端整な顔面を真正面から眺めるのは憚られるし、どちらかというと私が眺められている方だ。
早々に退出しよう…と、口を開こうとした時だった。
「レイヤードのことなんだが」
唐突に出された名前に、口から心臓が飛び出るかと思った。
変な声が出なかったことを褒めてほしい。
ドキドキと騒がしい鼓動を抑えることに必死で返事をするのもままならなかったのだけれど、ルイ先輩はそんな私に気付くことなく話を進める。
「あの方は普段は周りの者に対して等しく一線を引いて振る舞われている」
「はい、存じてます」
「だが一度懐に入れてしまうと、その、なんというか…」
歯切れの悪いルイ先輩の言わんとすることが何となく分かってしまった。
「なんというか、距離感が近くなりますよね」
「そうだ。…やはり、君も感じていたのか」
言葉を引き取って言った私に、ルイ先輩は重々しく頷いた。
「特に境遇が同じ君にはそれが顕著だ。それ故、あの時君は大変戸惑っただろう」
ルイ先輩の言葉にカァッと頬が熱くなる。
あの瞬間を──私がレイヤードに恋をしたあの瞬間をルイ先輩は見ていた。
そして、私の心の揺らぎに気付いたのだ。
恥ずかしさのあまり、視界が滲む。
「すまない、やはりショックを受けていたのだな…友人とはいえ軽々しく淑女の手を握るなど、許される行為ではなかった」
え?そっち?
と、一瞬目が点になってしまったのだが。
「レイヤードは君を励ます為に考えなしに握ってしまったのだろう。他意はないのだ」
そう続いた言葉に、私は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
心臓が握り潰されたように痛い。
息が苦しい。
ルイ先輩はレイヤードの想い人で。
そんな彼から、レイヤードの行動に他意はないと。
ただ励ますためのものだったと…
先輩は私に対して気を遣ってくれたのだ。
けれど、今の私にはその言葉は残酷以外の何物でもなかった。
口を開いたら、何かとんでもない言葉が出てきそうで。
でも口を閉じていることもできず。
「──ルイ先輩だって私の頭を撫でたじゃないですか」
思わず口にしたのは何の返事にもならない、ただの揚げ足とりな言葉だった。




