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42.甘くみてはいけない


 顔面蒼白な私に、クリストフは人差し指をピンと立ててにっこり笑った。

 

「経済活動は情報が命なんで」

 

 イケメンだ。

 イケメンな笑顔だ。

 だが私はそれどころではない。

 

 レイヤードと個人的に会っていることは、誰にも…ポプリにも言っていないことなのだ。

 図書準備室への出入りも人がいないのを見計らっているし、レイヤードやルイ先輩はなんと隠し扉から出入りしている。

 

 レイヤードは、ルイ先輩は別として特定の友人は作っていない。

 王子であるがために将来的なことを考え、誰に対しても平等な態度を取り、一線を引いて接しているのだ。

 正直、私はかなりイレギュラーな立場なのである。

 それ故に密かに会っていることを知られるのは、自分だけじゃなくレイヤード的にもまずい。

 

「何が、目的ですか…?」

 

 クリストフは飄々としているけど中々に強かでやり手である。

 私を…いや、ひょっとしたらレイヤードを脅すつもりかもしれない。

 レイヤードが王子だと知っているかは定かではないが、彼のことだから知っている可能性は低くない。

 

 思わず身構えた私に、クリストフは宥める様にひらひらと両手を振った。

 

「大丈夫、別に脅そうなんて思ってないですよ~」

 

「じゃあどうして…」

 

「単純に気になっただけです。最近クレナ嬢が準備室に出入りしていないのもですけど、何より物言いたげにクレナ嬢を見てるんですよね~、ウォールジャーマンダー先輩が」

 

「えっ?」

 

 ルイ先輩が?


 レイヤードが、ではなくて少し心が沈んだけれど、それよりもルイ先輩が私に何か言いたいことがあるのかが気になった。

 

「あの、それって…」

 

「ねぇー、いつまで油売ってるのー!」

 

 真偽を確かめようと口を開いたのだが、背後から飛んできた不機嫌な声に慌てて口をつぐむ。 

 若草色の髪の毛をふわふわさせながら、コリンくんが走り寄ってきた。

 

「もうっ、皆食べ終わったよ!あんたがいないとデザート食べらんないんだから早く来て!」

 

 ぐいぐいと腕を引っ張られながらも未練がましく振り返った私に、クリストフは悪戯っぽくウィンクを一つ寄越したのだった。

 


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