4.これはフラグ?
「あの、先ほどは失礼いたしました…まさか目の前にレイヤード様がいらっしゃるとは露ほども思わず…」
「さっき、王子って言った?」
「…え?」
レイヤードの一言に、私の脳内にハブガプレイ画面が駆け巡る。
そう、たしかレイヤードがこの国の王子、ディル=レイヤード=ラヴァンドラだと判明するのは夏休みイベント…今から約二ヶ月後、である。
しかもそれはあくまでポプリとの恋愛イベントなわけで、ポプリ以外その時それを知っているのは、彼の護衛であり、ハブガの攻略対象でもある寡黙キャラ、ルイ=ウォールジャーマンダーだけだ。
つまり、今この瞬間、レイヤードの身内以外で彼が王子だと知っている人間はいるはずがない。私のようなモブが知っているはずがないのだ。
し、ししししまったああああ!!!
「いえあの、あのー、これにはわけがありましてー、そう、寡黙、いえ、ルイ様とですね、お話されてたのをですね…」
「ルイと学内でそんな話はしたことがないけど」
「えー、あれ?じゃああのー、気のせい?ですかね?あ!気のせいですね!」
「気のせいだと思う?」
そう言うと、レイヤードは煌めくサファイアの瞳でじっと見つめてきた。
え、なにこれ、ひょっとしてフラグ!?まさか、クーデレとのフラグ立てた!?
あまりのことに混乱し、頬がカァッと熱くなる。
いや、私はあくまでモブ!モブなのよ!そんな美味しいことが…でも、まさか、そんな…!
「ぶふっ」
「……ふぁ?」
この場で聴こえそうにない音がして、私は思わず間の抜けた声を上げてしまった。
目の前では音の発生源であろう銀髪美少年が俯いて肩を震わせている。
「レ、レイヤード様…?」
「ふ、ふはは、ごめ、ごめん、ちょ、キモい…っ」
「キモい!?」
「あ、違う、僕がね」
ようやく笑いが収まったらしいレイヤードが、涙を拭く。
涙が出るほど笑ってたの!?クーデレが!?
口をあんぐり開けてる私に向かって、レイヤードはクーデレとは思えないほどキラキラした笑顔を向ける。
「ごめんね、僕元がただの一般人だから、こういうイケメンの行動って慣れなくて。やってみたんだけど笑っちゃってだめだなー」
レイヤード=ソロモンシールから出るはずのない言葉と親しげな声音に、私はただただ目を見開くばかりだ。
頭がまったく回らない。
そんな私に、レイヤードは更なる爆弾発言をかました。
「ね、君も転生した人じゃない?」