39.まさかの公開…
本日も晴天なり。
噴水広場に植えられた紫陽花の青さが目に染みるようだ。
「まあ、こんなところでランチですの?テーブルもなく?」
「別に呼んでないんですけど」
「令嬢としてはどうかと思いますけど、仕方ないので付き合って差し上げますわ!」
「いえだから別にいいですって!お取り巻き二人と食べたらいいじゃないですか」
「ポプリさんのいじわる!」
「ちょっとクレナ=ローゼル!僕とアンゼリカ様の会話つないでよ!」
なんとも賑やかだ。
アンゼリカとポプリは相変わらず仲良く喧嘩しているし、何故かいるコリンくんは私の影に隠れつつも仲を取り持てとせっついてくる。
まあそんなコリンくんはスルーして、私は売店で購入したクリームチーズとスモークサーモンのベーグルサンドを黙々と頬張りながら、今朝のことを思い返していた。
今日は、アンゼリカとコリンくん、二人の謹慎が明けて初めての登校日だ。
ポプリと並んで玄関をくぐると、下駄箱の前にアンゼリカが仁王立ちしていた。
ものすごい険しいオーラが身体から立ち上っていて、私もポプリも思わず一歩引く。
そんな私達を視界に捉えると、アンゼリカのルビーの瞳がギラリと光った。
そして
「ポプリ=カモマイル様、クロナ=ローゼル様、わたくしアンゼリカ=ワームウッドはお二人に対しての非礼を謹んでお詫び申し上げます」
まさかの公開謝罪である。
あのプライド世界最高峰なアンゼリカが、たくさんの生徒達が見ている前で頭を下げたのだ。
更にアンゼリカの後ろにいたお取り巻き──チコリとチャイブも揃って頭を下げている。
私達はあまりのことに言葉を失った。
子爵令嬢である取り巻き二人もだけど、特にアンゼリカは侯爵令嬢。
男爵令嬢である私なんて彼女から見たら下も下である。
それなのに、学園内とはいえ公の場で頭を下げるなんて…
呆然とした私の袖口をつんと引っ張られて我に帰る。
引っ張ったポプリは私の目を捉えるとにっこり微笑んで、アンゼリカに向き直った。
「アンゼリカ様の謝罪、お受けいたします」
鈴が転がるような美しい、凛とした声だった。
思わず聞き惚れかけたがそれどころではない。
私も慌ててアンゼリカに向き直ると、謝罪を受け入れる旨を告げる。
私達の言葉にアンゼリカはようやく顔を上げると、笑みこそ浮かべなかったものの、ほっとしたように表情を緩めたのだった。




