36.腹黒
放課後、元『クレナ=ローゼル上履き隠し事件』対策本部、もとい学園の応接室で、私とコリンくんは向かい合って座っていた。
さすがに異性の、しかも嫌われている相手の部屋に押し掛けるのは気が引けたので、ルイ先輩経由で呼び出してもらったのだ。
ちなみに先輩にお願いに行ったら、帰り際に頭をポンポンされた上、イチゴ味の飴を渡された。
お昼休みに様子がおかしかったのを気にしてくれていたようだ。
ルイ先輩に萌え殺されそうで怖い。
なんて、ルイ先輩を思い出してにやけている場合じゃなかった。
目の前には完全に不機嫌なオーラを放つ美少年がいる。
ふわふわの若草色の髪の毛と長いまつげに縁取られたくるりと大きな目。
全体的に淡い色彩なので、まるで春の妖精のようだ。
まあその妖精さんはすんごい顔して私を見てるわけなんだけど。
「なんなの?早くしてくんない?僕暇じゃないんだけど」
開口一番刺々しい。
しかも完全に私を見下した口調である。
さすがハブガの腹黒担当。
ファンの間での呼び名は『女王様』だ。
「謹慎中なのにお忙しいんですね」
思わずツッこんだらギリッと音がしそうなほど睨まれた。
まあそんなのハブガを周回した私には屁でもないんだけど、険悪になりすぎると目的が達成できなくなりそうなので、早々に矛を収めることにした。
「ごめんなさい、争いたいわけじゃないのです。どうしても理由を知りたくて」
「は?理由?言ったじゃない」
「詳しく、です。私のことが気に入らない理由を詳しく」
そう答えると、コリンくんは「ドMなの?」と若干引き気味に吐き捨てた。
「地味なくせに目障りだからだよ」
「分からなくはないですけど、理由としては弱すぎますね」
「は?何それ…」
「目障りとは?具体的に!」
「えっと…なんか目立ってるし!」
「どういう風に!」
「編入生と仲良くしてるし!」
「ポプリと仲良くしたかったと!」
「違う!邪魔なんだよ!アンゼリカ様の……、っ!」
はい、出ました~。
畳み掛けることで本音がうっかり、ですね。
コリンくんが単純で良かった。
「アンゼリカ様が、どうしたんですか?まさか、アンゼリカ様に頼まれ」
「違う!!!」
先程までとは違う強い口調で言葉を遮られる。
驚いてコリンくんを見ると、頬を赤く染めた彼は泣きそうになりながら唇を引き結んでいた。




