35.浮かび上がったもの
キザなこと言っちゃったね、とはにかんで、レイヤードはパッと手を離した。
握られて温かくなった手の熱は、どうやら私の顔にまで伝わったらしい。
かっかと発熱する頬に気付かれまいと俯いたまま、私は慌てて立ち上がった。
「そろそろ予鈴もなりますし、失礼します!」
そう言うと、相手の返事も待たず部屋を後にした。
四肢が前に前にとはやるのを必死で押さえ付けながら図書館内を通り抜け、渡り廊下でついに走り出す。
だめ、だめだめだめだめ…!!!
私の脳内はその言葉でいっぱいだった。
レイヤードの綺麗な顔が思い浮かぶ度にだめだと打ち消す。
好きになっちゃだめだ。
レイヤードが優しいのは、私が同じ転生者だから!
レイヤードが好きなのはルイ先輩なんだから!
呪文のように繰り返す。
図書準備室にはルイ先輩もいたのにレイヤードしか見えていなかったという事実も、好きになってはいけないと考えている時点ですでに好きになってしまっているという現実も、私は見ない振りをする。
目の奥から勝手に涙が滲んできそうだった。
不意に一陣の風がふいて、立ち止まる。
そこはコリンくんと初めて遭遇した場所だった。
あの日と同じように空は青く、草木は柔らかな光を帯びている。
ふと、私のことが気に入らないと言ったコリンくんの、射抜くようなシトリンの瞳が思い浮かんだ。
不安定な私の心に、コリンくんの敵意だけが確かなものとして存在感を放っている。
コリンくんに会いに行こう。
強くそう思った。
ぐちゃぐちゃになった不安定な感情をもて余した私は、確実なものに触れたかったのだ。
それがとても不健全な思考だと認識しながら…




