3.クーデレ
ポプリの下駄箱からスルメ臭を逃がし終わった後、ふと気付いて悪役令嬢アンゼリカのいた辺りに目をやる。
そこには既にアンゼリカとその取り巻きの姿はなかった。
でもまあ、見られてはいたよなぁ…
イジメのターゲット変更はなくても私もロックオンされる可能性がある。
学生時代、私は幸いイジメのない生活を送ってこられた。
というか、ドラマや漫画で見るような派手なイジメがなかっただけで、陰口なんかはあったけど。
まあ、あの悪役令嬢のイジメ、さっきの下駄箱にスルメ突っ込むっていうのの他に、机に冷えたこんにゃく(袋入り)を入れるとかわざわざ待ち構えてすれ違いざまにぶつかりに行くとか、小学生みたいなことしかしないから怖くはないんだけど。
あ、でもクーデレに対してポプリの悪口ないことないこと吹き込むのはめんどくさかったな…
って、そう、クーデレ!
どうしてクーデレはあのイベントに登場しなかったのか。
廊下を歩きながら、私は首を捻る。
私があの場で出ていったから登場しなかったのかしら?
でもあのシーン、ポプリの台詞のすぐ後にクーデレが登場するはずだった。
もしかして、私の知ってるハブガの世界じゃないんだろうか。
私がいるから…とかだったらどうしよう…くっそ、なんで出て来なかったのよクーデレめ!あんたが出て来てくれてれば、こんなに悩むことなかったのに!
「王子だからって勿体つけやがって!」
ドスッ
言葉とともに思わず繰り出したパンチが、いつの間にか目の前にいた銀髪の男子生徒のみぞおちにヒットした。
崩れ落ちる彼は…。
「ひぇっクーデレいえあのレイヤード様!申し訳ございません、大丈夫ですか!?」
片膝をつき、お腹を押さえてうずくまるクーデレ…もといレイヤード=ソロモンシールに慌てて手を差し伸べる。
あ、思わず手を出しちゃったけど、クーデレ相手だから払われるかな…?
しかし予想に反して、レイヤードは私の手…ではなく、手首をがっちり掴んできた。
「ぎゃっ」
「ちょっと、つきあってくれない?」
サラリと揺れた銀色の前髪。
そこから覗く冷々としたサファイアの瞳。
ノーとは絶対言わせてもらえない鋭い目線で突き刺されて、私はゲーム内での彼の出没スポット、図書準備室へと連行されたのだった。