29.新たな助っ人
アンゼリカに連れられて到着したのは、三階の音楽室前だった。
楽器の演奏が苦手な私は授業以外で訪れたことがない場所である。
いつもならこの時間はコリンくんの出没スポットになっているはずだが、中は無音だった。
アンゼリカがノックもせず無言で音楽室の扉を開く。
突然開いた扉に、中にいた少年は弾かれたようにこちらを向いた。
そして私達の姿を確認すると、淡い若草色の髪をふわっと浮き上がらせ、慌てたように椅子から立ち上がった。
「コリン=サラダバーネット、貴方ここで何をしていらっしゃいますの?」
アンゼリカの先程までとは打って変わった威厳に満ちた声に、私は思わず背筋が伸びる。
「あの、ヴァイオリンの練習をしようと思って…」
答えたコリンくんのその容姿の通りの可憐な声は、緊張で少し震えていた。
手元には確かに黒いヴァイオリンケースが置かれている。
「貴方のヴァイオリンは一昨日から今日まで、エルダー楽器店に修理に出されているのではなくて?」
アンゼリカの言葉に、コリンくんは躊躇いながらも微笑んだ。
「それでしたら昨日受け取りましたよ。予定より早く終わったと連絡が来まして」
「あら…」
コリンくんの答えにアンゼリカは不敵に笑うと、
「それでは、これは一体何かしら?」
手を突き上げてパチンと指を鳴らした。
それと同時に後ろの扉が開く。
そこには、杜若色の髪を二つに束ねた少女と、細かくカールした赤銅色の髪の少女──二人を認めた瞬間、私は思わず声を上げていた。
「アンゼリカ様のお取り巻き二人!?」
「チコリですわ!」
「チャイブです!」
アンゼリカのお取り巻き二人組…もとい、チコリとチャイブがヴァイオリンケースを手に変身ヒーローのようなポーズを取っている。
もはや何からツッこんでいいのか分からないので、私は考えるのを止めた。




