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17.嫌がらせ


 それは、週明けに唐突に起こった。


「上履きが、ない」

 

 下駄箱の蓋を開けると、そこにあるはずの白地に赤いラインの入った、小学校とかでよく見るタイプのあの上履きがなかった。

 ただマホガニーの空間がぽっかりと空いているだけだ。

 唐突すぎて私の頭は一瞬宇宙へ飛んだが、これは、あれか。

 ついにきたか、このレベルの嫌がらせが。

 

「クレナ?」

 

 蓋を開けたまま固まっている私の隣にポプリがやって来て、訝しげに下駄箱を覗き込む。

 

「えっ」

 

 ポプリは小さく声を上げると、眉を下げた。

 

「これ……私の、せいだ。私がクレナと友達になったから」

 

 うっすら涙を浮かべて呟かれたその言葉に、私は力強く首を横に振った。

 

「ちがう、なんて言ってもポプリは気にするでしょうけど。私はポプリと友達になれたことが嬉しいし、こんなことがあっても後悔なんてしないわ」

 

「クレナ…」

 

「何を朝からお二人の世界になってらっしゃいますの?」

 

 降りかかった刺々しい声に視線を向けると、そこには案の定アンゼリカが立っていた。

 

「クレナの上履きがなくなったのです!ご存知ありませんか?」

 

 ポプリが……アンゼリカに嫌がらせをされても黙って耐えるだけだったポプリが、今キッと挑むような眼差しでアンゼリカに問う。

 こんな場だけど、私は思わず感動してしまった。

 すごい、ポプリすごいよ!

 本当は抱きつきたいくらいだったけど、空気を読んでここは耐える。

 耐えた影響でちょっとプルプル震えてしまった。

 それを見たアンゼリカはフンと鼻を鳴らす。

 

「上履きがないくらいで取り乱すなんて、ちんけな気位しかお持ちじゃありませんのね!」

 

 いや、ちがうよ?

 震えてるのはポプリに抱きつくのを耐えてるだけで、上履きなくて泣きそうとかじゃないよ?

 

 だが、そんなことを知る由もない二人はヒートアップしていく。

 

「そ、そのように人の心を踏みつけるような発言なさるアンゼリカ様の方が、よっぽど品がありません!」

 

「な、わたくしが下品だとおっしゃるの!?」

 

「嫌がらせばかりなさるアンゼリカ様が、下品じゃなければなんだと言うんですか!」

 

「なんですってっ?」


 すごい、ポプリがアンゼリカ様と舌戦を繰り広げている…

 

 そして、ある意味学園で最も注目されている二人のやりとりに人が集まり始めたところで私は我にかえった。

 感動に震えている場合じゃない、止めなくては!

 と、声を発しようとした時、

 

「なんの騒ぎ?」

 

 湧水のような冷たさを感じさせる美しい声が玄関ホールに響いた。

 その場にいた誰もが……あれだけヒートアップしていた二人すら、引き寄せられるように声の主に目を向ける。

 

 そこには朝日を受けて輝く銀髪美形、学園の王子であり本物の王子でもあるレイヤード=ソロモンシールが立っていた。

 

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