ここは白い部屋
「入って」、と言われたから目の前のドアを開け部屋に入る。
そこは、一言で表すと白くて何もない空間だった。
先ほどの声の主は、部屋の隅っこにいた。白かった。
そもそも人ではないような感じがした。白い布をかぶってそこにいた。
そう、それは幽霊みたいな存在だった。
あれが何なのか、ボクにはわからない。ただ気付いたらいた。
そこの幽霊みたいなものは誰なんだろう。
ああ、きっと、これは物語の始まり。
これは、きっと夢。何かの始まりを予感させる夢。
キーワードは、始まり、幽霊、夢、白い部屋。
もう役者はそろった。
さて、何から話そうかとボクは考えた。
そうだね、面白いことなんかは何もないんだけどさ、願望とは何か。
それついて、話そうと思うんだ。嘘だけど。ボクはくすりと笑う。
ここは白い部屋。幽霊みたいな人と、人みたいな幽霊がいる。
さてどっちがどっちなんだろうね。
気付いたらここにいた。きっと、これは夢なんだろうなとボクは思う。
でも、これが現実の可能性もある。そもそも現実ってなんだろう。
いろいろと考えてみたけど、面倒になって辞めた。
幽霊みたいな人に聞いてみる。「ここはどこなんですか?」、と。
白い布をかぶったその人は、ゆっくり立ち上がり、ふらふらそこら辺を彷徨うみたいに歩き始めた。
しばらく様子を見ていたけれど、特に何も言う気はないらしい。
さて、どうしたものか……
ここは白い部屋。壁も、家具もみんな白い。
ドアはない。どうやって入ってきたかは知らないし、もしかしたらあったのかもしれないけど、今はない。
ボクは、いつまでここにいればいいんだろう。
白い布はまだふらふらしている。
ここは、白い部屋。全てが白に染まる部屋。
入口はないし窓もない。家具が少しある程度。
人は、人といっていいのか分からないけどボクを含めて2人。
白い布をかぶった幽霊みたいな人、あとはボク。
その幽霊みたいなやつは、まだふらふらとそこら辺を彷徨ってる。
質問しても答えてはくれない。
ボクがここにいる理由?
何だろうね、気付いたらここにいた。
この白い部屋の前に合った白い椅子に座っていた。
もしかしたら、これは夢なのかもしれない。
だって現実的におかしいよね、こんな白い入口も出口もない部屋があるなんて……。
ふと気付くと、幽霊みたいなものがすぐそばにいた。
いつの間にか、ボクの隣にいる。そこで――。
◆ ◆ ◆ ◆
ここは白い部屋。入り口も出口もない閉ざされた部屋。
家具は椅子があるくらい。其れ以外はすべて白。
気付いたらここにいた。入ってきた気もしないわけではないけれど。
入ってきたドアもない。入り口もない。
人はいない。幽霊みたいなものはいた。
ボクのすぐ隣に座っている。
さっきまで椅子なんか隣になかったのに、いつの間にかあってそこに座ってる幽霊みたいなもの。
ここはどこなんだろう、わからないや。
でも不思議と怖くない。なんでか昔もここに来たような感じがする。
昔は向かい。今は傍、未来は見えない。
人生は後ろ向きに進んでる感じがするね。
だって、未来は見えない、現在は変化、過去は良く見えるじゃない。
過去だけがよく見える。過ぎたことばかり。
まぁ、普通だよね。未来が見えないのも。不確定なのも。
決まった未来を進むほど退屈なものもないのだから。
決まった未来は未来でありうるのかな。
もはや、予定となるのかな。
どうなんだろう。
そこでボクの思考は止まる。
だって、傍の幽霊が話しかけてきたから――
◆ ◆ ◆ ◆
ここは白い部屋。ここは何処でもなくどこでもある部屋。
白は清純の証。何物にも染まってないという証。
そんなことはどうでもいい。何故ここにいるのかもわかってない。
気付いたらここにいた。ただそれだけ。そして幽霊みたいなものに話しかけられた。
「今日はどうしました?」不思議な響きの声で幽霊が言った。
今日は? ……ボクが前にも来たことがあるかのような言い草だった。
記憶がない。というか思い出せない。ボクに関することが分からない。
掛け算や引き算、物の名前はわかる。でも、ボクが昨日したことなんかは思い出せない。
「まぁ、いいでしょう。ゆっくりしていってください。ここはいつでもあいてますから」そう、頭の中まで響くような声で幽霊は言った。
そして、またそこら辺を彷徨うように動き始めた。
あぁ、ボクはここにいったい何をしに来たのだろう。
たぶんそれを思い出せばここから出れるような気がした。
――そんな夢を見たんです。