Story 5 【心の強さは比例しない】
こっちも更新します。
もしよかったら、本文終わって下の方までスクロールしてみると最新話には評価ポイントなんかを付けることが出来るフォーラムがあるんで、つけていってもらえると今後の活動意欲につながりまーす
今宵も、人気のない墓場に紅茶と茶菓子の香りが漂い始める。
「なぁなぁ後輩。君は不登校についてどう思う?」
「不登校……ですか?学校に来ないアレですよね」
「あぁ、アレさ。理由は色々とあるが一番の理由は人間関係でのいざこざ……つまりはイジメとかそういうのだね。あれについてちょっと自分以外の意見を聞いてみたいと思ったわけだよ」
いきなりどうしたんだろうかこの先輩は、と思ったがそういえばこの先輩は昼間の学校では優等生なのだ。こうして真の彼女を知っている身からすれば違和感しかない評価なのだが。
しかし、不登校。先輩が言ったようにそれに至るまでには必ず何かしらの理由がある。
例えば、イジメによって、精神的にも肉体的にもズタズタになってしまったり;。
例えば、だらだらと過ごしてしまい学校に行き辛くなって。
例えば、他の何かが身の回りに起きて、学校に行けなくなったり。
挙げた例はまぁまぁ一般的だが、これ以外にも色々な理由はあるだろう。
「一応聞きますが、なんでそんな話題を?」
「いやーね?今度不登校を題材にした発表をしてくれと教授に頼まれてしまってね。色々私の都合も知ってる人だから断れなくてね……」
「あぁ、朝陽教授……あの人もこっち側だったんですね」
朝陽教授。
僕と先輩が通っている大学の色物教授として内外問わず有名な人だ。
普段の言動自体は不真面目……というよりも頭がおかしいんじゃないだろうかと疑ってしまうほどに奇天烈だが、それでもやはり結果を残している。
それだけに強く言うことが皆出来ないのだ。……まぁ、某海外都市伝説に登場する博士達に比べれば優しいものなのだが。林檎の種を無限に生成することもないし。
「あれ?でもそういった発表に関してなら、割と普段からしていますよね?」
「まぁほとんどが朝陽教授の無茶ぶりなんだけども……してないと言ったら嘘になるね。人前に出るのが恥ずかしいってわけでもない。ただ、今回はテーマがテーマだからね。少し困ってるんだ」
「……?」
「あぁ、分からないかな。……私さ、人の気持ち分からないんだよ」
その先輩の言葉を聞いて、成程と頷く。
確かにこの先輩は分からないだろう。非情だから、だとか全く彼女がそういった事に関係なかったから……というわけではない。
彼女は見た目は人の形をしていても、中身はどうしようもなく破綻している。
人間の正常な精神というには歪すぎて、でも人外のような精神かと言われればそうではないのだ。
いうなれば、人間に近い化け物。
見た目だけが人間で、中身もかろうじて人間の体裁を保っているに過ぎない化け物なのだ。
「あぁ……そうですね。でも結構デリケートな話題なんで、僕自論ってことでお願いします」
「うん、ありがとう。よろしく頼むよ」
一息。
呼吸を整え、喋る準備をする。
いつものように適当な話をするのではなく、きちんとした理由が必要になる話をするのだ。
一度落ち着いて、頭の中を整理したほうがいいだろう。
「……不登校、についてどう思うかですよね」
「そうさ。君はどう思う?」
「僕は、そういう選択をするのもありだと、そう考えます。というかそもそも僕自体が不登校児でしたから」
「そうだったのかい?今はそんな風に見えないけれど」
「そうだったんですよ。……まぁ、僕の場合は周りとの人間関係がちょっとややこしくなっっちゃって、それが嫌で学校に行かなくなったんですよね」
昔も昔、小学生の頃の話だ。
まだ周りも幼く、僕自身もあの頃はまだ夢を見ていた時期。
ちょっとしたすれ違いから、僕と友人らの関係に罅が入り……その罅は直る所かそのまま僕達の仲をぐちゃぐちゃになるまで引き裂いてしまった。
「始めは学校へ行こうと思って家を出る準備をして、実際に家から出はするんですよ。ただ、学校へ向かって歩くにつれて、どんどん泣き出しそうになってしまうくらいに辛く重く何かがのしかかってくるんです」
「ふむ」
「そこで足が止まって、そのまま家へと帰ってしまう。……これを何度か繰り返した後、最終的には家から出なくなりました。そこで待っていたのは、無気力状態ですね。何もしたくない、ずっと眠っていたい……みたいな。そんな感情がずっと頭の中を駆け巡るんです」
あの頃を思い出すように、少しずつ少しずつ語っていく。
あくまで僕の体験談を含めた自論を騙っているに過ぎないために、僕の話をいつになく真剣に聞いてメモまで取っている先輩を見ると……少し恥ずかしくなってくる。
「皆が同じとは言いません。学校に行きたいけど行けないから不登校になってる子もいるんだろうと思います。……ただ、僕と同じような状態になっている子も少なからずいるとは思うんですよ」
「それは……そうだろうね」
「えぇ。なまじ気持ちを知っているからこそ『不登校、そういうのもアリだよね』みたいに思うんです。僕は。……まぁ世の中は許しませんけどね」
あの頃は地獄のような日々だった。
自分は何も考えたくも動きたくもないのに、親に説教されるわひっぱりだそうとするわ、学校の先生は先生で詳しく事情も知らないくせに寄せ書きを作って持ってくるわ。
ただ、そういう経験があったからこそ、今の僕がいるんだろうと思う。
実際、その時に魔女というものを知ったからこそこうやって目の前の人外と話すことが出来ているわけなのだから。
最近は、目に感情が乗らなくなってきたこの先輩と。
「……詳しい話をありがとう」
「結構端折って話してましたけど、よかったです?」
「あぁ、これを元に……とは言わないが、ある程度参考にはさせてもらうよ」
「駄賃は今度の昼飯でいいですよ、カニバル先輩」
「言うじゃないか、魔女後輩」
最後に一つ、笑ってごまかし今宵も陽が昇る。
後日お昼を奢ってもらった時に聞いた話だが、今回の発表に関して今まで以上に良かったと絶賛されたそうだった。