Story 48【一番近くて遠い】
「君は、家族って何だと思う?」
「……突然どうしたんですか、先輩」
「いやね?ちょっと気になってさぁ」
いつも通りの郊外。人気のない墓地で、綺麗な月を見上げながら彼女は言った。
僕の目の前で、まだ暑さの残るこの時期に飲むには熱すぎる紅茶を冷ましつつも飲む彼女には、きちんとした肉親というものは現在存在していない。
そんな彼女から、そんな質問を受けたのだ。
何かしらの裏があると思うのは当然だろう。
「……まぁ、そうですね。僕としては『一番身近で、切り捨てるべき他人』だと思いますよ」
「それはまた、どうして?」
「そうですねぇ……」
一度、自分のマグカップに入っている紅茶で口の中を潤した。
「家族は確かに、僕と血が繋がっているんでしょう。でも、血の繋がりって本当に重要ですかね」
「……続けて?」
「ほら、だって。結局結婚する時って他人と一緒になるじゃないですか。そして家族になる。……血の繋がりがあるから家族って言うのはまた違うと思うんですよ」
血の繋がりがあるから家族。
一緒に暮らしているから家族。
人によってその解釈は違うだろう。
だが、僕はその認識をもった上で、こう言う。
『家族は、他人である』と。
「他人って言葉の意味は色々あります。繋がりがない人、自分以外、親族じゃない……本当に様々です。でも、僕はその上で家族ってのは他人だと思うわけですね」
「その心は?君がそう思う根拠って何なんだい?」
「だってこっちの気持ちが全部分からないじゃないですか。いくら家族と言っても、読心が出来るわけじゃない。全てが分かるなら身内とはまた別の存在になりそうですけどね」
僕がそう言い切ると、彼女は少しばかり呆気にとられた後に笑いだした。
何かおかしい所があっただろうか、そう思いつつも彼女が落ち着くのを待っていると。
「ひー……ひー……。ふぅー……うん、面白いなぁ君は」
「変な事言ったつもりはないんですけどねぇ」
「おや、気ィ悪くしたかい?なら謝ろう」
「いや、別に大丈夫ですよ。でも先輩はなんでこんな事を聞いてきたんです?」
そう、分からないのはそこなのだ。
目の前の食人鬼が聞いてくるような内容でもなし、というよりは。
彼女はそういう括り自体を普段から無視して動いているような存在なのだ。
そんなモノが今更家族なんてものを気にするとは思えなかった。
「……あー、いや。うん。少しばかり、入用でさ」
その言葉を告げた彼女の顔は、いつもと違いどこか幼く見え。
そんな表情を彼女にさせる存在を僕は幸か不幸か知ってしまっていた。
「『教授』絡みですね」
「結論早くないかな!?……いやまぁそうなんだけどさ」
「大方誕生日プレゼントでも決まらないとかでしょう?確かあの人の誕生日ってそろそろでしたよね?」
「そこまで知ってるの?!」
僕の言葉に、先輩は驚いているものの。
彼女の義父である所の連続殺人犯……今も、世界を股にかけつつ『研究』と称して殺人を繰り返す人外は、魔女に友好的な人外だ。
最低限の個人情報くらいは知っている。
「どうせ何でも喜びますよ。父親ってそんなもんでしょう」
「……なんか雑じゃないかい?魔女後輩」
「ふっ、あんな男に渡すプレゼントなんて雑くらいが丁度良いんですよ、カニバル先輩」
「あ、もしかしなくてもうちの父親の事が嫌いなんだな君!」
がなり立てる先輩から目を離し、紅茶の入ったマグカップを手に月へと視線を向ける。
マグカップへと口を近づけ、中に入っている液体を飲む前に一言。
「嫌いに決まってるじゃないですか」
小さく、水音に消えるように僕は呟いた。




