Story 46【聖夜の在り方は】
聖夜。
世界的宗教の救世主が世に産まれ落ち、そしてそれを祝う為の日である。
僕らが生きる日本ではアレンジによるアレンジが加えられ、恋人や家族と過ごす日だったり、美味しいものを食べる程度の日になっていたりするものの、アメリカの方ではこの日は祝日とされ、仕事をしてる方が変な目で見られる日でもある。
「と、まぁ。こんな所でそんな日を迎えるのにも慣れてきましたけどね」
「まぁまぁ良いじゃないか。今日ばかりは。……どうだい?そっちの2人は?意外と良い穴場だろう、ここ」
「いやぁ先輩達に着いていったらこんな所に辿り着くとは思ってなかったです!ねぇ?」
「あー……まぁ、そうだな。いや、本当すまん……」
「大丈夫大丈夫、色んな意味で2人も関係者ではあるから。……まぁ今日だけね」
今宵は25日、クリスマス。
いつもの墓場にいつも通り2人……ではなく。
今回は客人が2人ほど存在している。
1人は同級生である人狼の血を引いている友人。
そしてもう1人は、
「いやぁ、この身体に慣れるまでは日中外に出れないんで助かりますよ!」
「……一応言うけど、君本当に物好きだねぇ?人間だったのをわざわざこっち側に合わせるなんて」
「えへへ、でもあんまり変わって無いですよ。変わったのは吸血鬼の連盟に加わったのと国から監視と血の配給がされるようになったくらいで」
つい先日、人間を辞め吸血鬼となってしまった後輩の女の子だ。
人間から亜人と呼ばれる存在に『成る』のは然程難しくはない。ないのだが……当然、人間だった魂がその在り方を変えるのだから、途中で『壊れて』しまうことも多い。
だが今この場に居るこの後輩は、それすらも余裕でクリアし、何事もなかったかのように笑っている。
……まぁ彼女についても僕が担当になった時点で、上は問題ないって考えてるんだろうな。
何にせよ、こんなメンツで従来の居酒屋などに行けるはずもなく。
結果として毎年行っていたクリスマスパーティはいつもの郊外にある墓場で行われる運びとなった。
「まぁ、本人が幸せそうなら良いか。所で魔女後輩」
「はいはい、なんですかカニバル先輩」
「君は、クリスマスについてどれくらい知ってる?……というよりは、クリスマスに関係してる面白い話とか知ってるかい?話のネタとして1つ提供してくれよ」
「あー、そうですねぇ……なら1つ。人狼同級生も知ってる話なんで補足入れてもらいながら話しましょうか」
「ん?……あぁ。一緒に調べてレポート書いた奴な」
ちびちびとホットミルクを飲んでいた人狼に対し、視線を投げながら所望された話の内容を思い出す。
少しばかり物騒ではあるだろうが、まぁこのメンツの方が物騒だろう。
「まぁ簡単に言えば、クリスマスという行事に纏わるある国のお話ですね」
「国の名前出して良いか分からないから言わんが、あれだな。北のほうにある酒飲みまくってる印象がある国だ。デケェ所」
「あの国の昔、それこそ今でこそ動画なんかで面白おかしく扱われてる独裁者が君臨してた頃のお話ですね」
あの頃、日本とも縁があるあの国で実際にあったとされる話だ。
と言ってもこれを話す僕や人狼同級生は当時を生きていたわけでは無いために、聞いた話、見つけた話が元になっているため真偽の程は確かでは無いのだが。
「当時のかの国では、クリスマスって行事はあんまり政府的には良い顔が出来るような物ではなかったそうなんです」
「そうなのかい?」
「そうっす。まぁ……上に立ってるのが独裁者な時点で、クリスマスなんていう救世主を祝う行事に良い顔出来るわけもないって感じっすけどね」
「なんで、当時は救世主さんじゃなく結構政治色の強い行事になってたそうなんですよ」
一応は伝統のある祭りであるために、止める事はできない。
しかしながらやはり、独裁者が居るにも関わらず他の故人を祝うなんて行事には良い顔が出来なかったのだろう。
「それにクリスマスはその独裁者の誕生日の4日前とくれば……」
「それはこうやって美味しいもの食べたりどんちゃん騒ぎしたりするのは難しそうですね!」
「そういうこった。だからまぁ、ちょっとした改変が加えられたんだよ」
「改変、かい?」
「えぇ、例えば……そう。クリスマスツリー。あれに吊るすものと言ったらなんですか?」
僕がそう聞くと、聞き手の2人は少し考えた後に、
「そりゃあ装飾だろう?」
「ラメが入った丸い奴とかですね!」
「そうですね。でも当時のかの国だと、独裁者の写真を吊るしてたそうなんですよ」
「えぇ……なんだいそれ」
「まぁ出来る限り信仰の対象をすり替えようとしたわけっすね。そっち系の人らには怒られそうっすけど、結局偶像崇拝と独裁者って似てる部分あるんで。純粋な気持ちか恐怖心かの違いはあれど」
人狼同級生の言うように違いは存在するが、実際の所こちら側から……オカルト側に身を置く者として言わせてもらえば、充分すぎる程に効果的な方法なのだ。
信仰心は力となる。
昔生きていた人達がどう考えたかは分からないが、信仰心……信じる心というのは僕達人ならざる者に対してかなりの影響がある。
人狼や吸血鬼という、外国で夜外出しないよう子供のみならず大人にまで恐れられた存在。
両者共に『夜』に『人を襲う』と信じられた為に、信じられている為に、現代に生きるその祖先達も夜に人を襲いたくなる衝動に駆られてしまう。
魔女や人肉喰いという、迫害され、淘汰されてきた禁忌とも言える存在は、今も迫害され淘汰され、そして裁判にかけられる存在だ。
それと同じように、信じればそこには力が宿る。
信じる事で、その存在の在り方を変えることが出来てしまう。
偶像崇拝は、その偶像を信じる事で加護を得る。
信じているから自分は護られている、幸せになれるのだと自身の在り方を『変えている』。
独裁者は、信じられて……恐怖され加護を得る。
恐怖され、あの方は何でもやると信仰にも似た人心によって在り方を『歪められる』。
「ここに居る全員、そういう影響を受けたモノではあるんですよね」
「あぁー……うん、分かるよ。私なんて近頃『現代のジャック・ザ・リッパー』とか言われてるみたいでね。おかげで前よりも……ほら」
先輩は取り出したナイフを軽く近くの墓石へと向かって投げる。
たったそれだけの動作で、墓石が音もなく切断された。
「うわぁ、凄いですね!」
「あは、ありがとう。でもコレのせいで狙ったように切れなくなってね。過剰過ぎるよ、この影響は」
「先輩の場合は元々の膂力とかも悪さしてそうですね、それ。そこに『ジャック・ザ・リッパー』っていう属性が合わさって、切断っていう事象に力が振り切ってる感じ……だと思います」
「なるほどねぇ……うーん、考えものだね。恐れられるってのも」
先輩が内外に抱える影響を考えると、むしろこれだけで済んでいると考えるべきなのだろうが、今は関係ない。
「話を戻しましょうか。兎に角、当時の独裁者さんはそんなことをしたりだとか、あとは……」
「ほら、あれだろ?手紙」
「あぁ、ありがとう。そう、子供の頃ってサンタさんに欲しいものを手紙で書くじゃないですか。あれを当時の政府に対して『平和にしてくれていてありがとう』なんて文を子供に書かせるように強要してたって話もあったりするんですよ」
「それは……うん、行くところまでいってるねぇ。だからこそ今でも彼の映画とか発表されてるわけだけど」
1つ溜息を吐くと、先輩は空を見上げた。
「いやぁ、興味深い話だねぇ。今回の話はあくまで一例、他の国ではまた違う形でクリスマスって行事が伝わって行われてきたってのを考えると特に」
「そうですね……まぁ調べてみると結構面白いですよ。ね?」
「あぁ。その国ならでは……とか、現代にも残る風習になっていたりとか様々だからな」
「成程、でも何でお二人はそんなことを調べてたんです?レポート書いたって事は課題ですよね?」
後輩のその言葉に、僕と人狼同級生は顔を見合わせ、その後に小さく笑う。
「そんなの決まってるじゃねぇか、なぁ魔女同級生?」
「うん。浪漫を夢見て、好奇心に負けて変な方向に突っ走るのは男の子の特権だよね、人狼同級生」
「あは、それならそんなオトコノコ達を後ろから生温かく見守るのが女の子の特権かな?吸血後輩」
「どっちもどっちだと思いますよ!カニバル先輩!」
郊外の墓場に笑い声が静かにこだまする。
少しばかり普段よりも騒がしいそれは、普通の人には気が付かれない。
今宵もこうして夜は更けていく。




