Story 44【1年に1度の願い事】
誰もが寝静まった深夜帯。
2時を過ぎた、俗に言う丑三つ時という時間帯。
郊外の忘れられた墓地にて、今宵も知られざる会合が行われていた。
「いやぁ、今年も来たねぇ。七夕」
「来ましたねぇ。まぁ生きてれば生きてるだけ来るものですけど」
「夢がないねぇ。……そんな後輩には、こんな話を一つしようか」
目の前に居る女性……カニバル先輩は、僕の出した紅茶の香りを嗅ぎながら満足そうに言う。
「七夕って言ったらまぁ色々と話はあるけれど、ほら、あるだろう?短冊って文化」
「ありますねぇ。小さい頃は学校やらで先生に『願い事を書きなさい』ってよく言われましたね」
「確かに言われたねぇ。『いっぱい食べたい』って書いたら苦笑いされたなぁ」
「まぁ先輩はそうなりますよね」
どうしたって彼女の食べるものは満腹になるまでは食べる事が出来ないものだ。
それこそ、満腹になるまで食べられてしまっては僕達側が困るからやめて欲しい所ではあるのだが。
「話を戻そうか。……そんな願い事を書いて飾る短冊なんだけど。これどこから伝わってきたか知ってるかい?」
「七夕って文化のルーツになるものが何処から伝わったか、ってことですよね。え、アレ日本発祥じゃないんですか?」
「違うらしくてねぇ。いや、一応日本にもベースになる伝承があったみたいなんだけど、それでもメインとしては、中国から伝わった『七夕』って話が元になるらしいんだよ」
珍しく先輩の話で僕が知らない分野が出てきた。
というか、そもそも僕は日本やアジア圏の伝承に関しては元々専攻している分野的に専門外なのだ。
だからこそ、少しばかり話を聞くのにわくわくしてしまう。
「ってことは、そこから現在の七夕になったと……じゃあ短冊はどういうアレなんです?」
「短冊はそれこそ色々あってねぇ。夜露と墨混ぜて、植物の葉に短歌書く、みたいな文化だったりとか、短冊の色によって書く願い事を変えた方がいいとか様々だぜ?」
「短歌の方は分かりませんけど、色の方は……もしかして五行です?中国発祥ってことは」
五行思想。
自然哲学の一種で、有名な類似例を挙げるとするならアリストテレスの四大元素などがそれにあたるだろうか。
万物は木、火、土、金、水の五種類の元素からなる、という考えだ。
「そうそう。だから色によって、例えば緑色だったら『徳を積む』ような願い事だったり書いた方が叶いやすいとかもあるみたいだね」
「へぇ……ちなみに先輩は今年何か書きましたか?」
「ふふ、勿論さ……ほらっ!」
そう言って、彼女は立ち上がると。
自分の懐から一枚の短冊のようなものを取り出した。
否、恐らく短冊なのだろう。血によってどろどろになってさえいなければ、きちんと願いも読めたのかもしれない。
「……」
「……」
「新しいの、書きますか?カニバル先輩」
「そうしようか、魔女後輩……」
今日も、こうして夜は更け朝が近づいていく。




