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カニバル先輩と魔女後輩  作者: 柿の種


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Story 43【あの空に輝く見えないモノ】

お久しぶりです


すっかり、人が居なくなった丑三つ時。

いつも通りであるはずなのに、どこか懐かしい郊外の墓場へと訪れた僕は、変わらずテーブルや椅子を用意していた。


「おや、今日は私の方が遅かったかな」

「先輩」


そんな準備をしていると、背後から声をかけられる。

振り返れば、そこには少しばかり赤黒い液体をその端正な顔に跳ねさせた僕の先輩の姿があった。

彼女は笑い、


「あぁ、ごめんね。少しだけ先にご飯済ませてきたんだ」

「時間も時間ですからね。最近は20時には閉まる店も多いですし」

「テイクアウトとかはやってる所あるんだけどねぇ。やっぱり人通りはどこも少ないよ」


笑いながら僕の用意した椅子へと座る彼女に、僕はカップとハーブティの入ったポットを取り出した。

どうせ彼女の口の中にはまだ血の味が残っているのだ、お茶請けのようなものを用意しても血の味に負けてしまうのならば出す意味もない。


「さて、今日は少しだけ私が話をしようかな……あ、ありがとう」

「ん、先輩がですか?……あぁ、もしかして」

「そうだね、アレさ」


彼女は僕からハーブティの入ったカップを受け取りながら、彼女は空いている方の指で空を指す。

生憎の曇りではあるものの……それでも、今日は何の日なのかは知っている。

それは、


「月食、ですか」

「そうそう。やっぱり色々と話したい事もあるだろう?魔女的にも」

「それはそうですね。月って言ったら魔女だけじゃなく魔力を使うモノ全てに対して関係してますからね」


月は昔からその満ち欠けによって、地上に生きる者達を左右してきた存在だ。

それこそ民間療法だったり、民間伝承の類ではあるものの月が欠けるにつれ体調が悪くなる、という話はよく耳にする話だ。


その中でも、月食という事柄は特に魔術に関係する話が多い。

厄災が訪れるだとか、悪魔が出現するだとか。

月食の日に儀式のような事を行ったら確実に失敗する、だなんて話も存在しているほどにその種類は多種多様だ。


「ちなみに、先輩は体調関係に変わりは?」

「体調は大丈夫なんだけど、やっぱり肉に刃は徹りにくかったねぇ」

「先輩のは魔力を纏わせて、ですからね。……あぁ、そこからくる途中に月食について調べた感じですか?」

「そんなところだねぇ。色々興味深いものが多くて面白いよ。ほら、ダンジョン・スケールとか」

「ダンジョン・スケール……確か、月食中の月の明るさとかそんなものでしたっけ」

「そうそう、空気中の塵とかによって太陽光の錯乱がうんたらかんたらって奴さ」


ダンジョン・スケール。

そのまま知識がないものが聞けば、ゲームの単語かと思うくらいにはダンジョンという言葉が現代に浸透してしまっているが、そうではない。

アンドレ・ダンジョンという実在した天文学者が20世紀に決めた、実際に存在している尺度の名称なのだ。


「今日は……赤いから、丁度明るさは中間かな?」

「そうですねぇ。俗にいうブラッドムーンって奴です。先輩にはお似合いの色ですね」

「あは、ありがとう。口説いてるのかい?」

「はは、そんな畏れ多い。……それで思い出したんですけど、日本には有名な逸話がありますよね」


僕がそう言った事に対して先輩は一瞬ぽかん、という顔を見せた後に、


「あぁ、夏目漱石が『I love you』の訳を『月が綺麗ですね』にしておいた方がいいって言った話か」

「そうですそうです。それに対する返しとして小説家の二葉亭四迷が訳したとされる『死んでもいいわ』ってフレーズが有名な奴です」

「あ、アレってどっちも漱石が訳したわけじゃないんだ」

「実はそうなんですよ。そもそも最初の『月が綺麗ですね』って話についても真実かどうかは分かってないらしいですしね」


ロマンティックな、それこそ現代ではフィクションかSNSでしか見なくなった掛け合いではあるものの有名な掛け合いだ。


「実際、僕に言われたらどう返します?カニバル先輩」

「あは、その答えは決まってるさ。魔女後輩」


一息。

彼女は立ち上がって、空に手を伸ばしながら言う。


「月は、手が届かないからこそ綺麗なのさ」


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