Story 41【広く、深く広がる】
人気の無くなった丑三つ時。
僕はいつも通りに……少しだけ情勢の変わった世界でも変わらず、いつもの墓場へと訪れていた。
近頃世界中で話題となっている疫病のおかげで、深夜に行動しやすくなったのは良い事だが……自身が罹らないように注意しなければならないのは少しだけ面倒臭い。
「先輩は元気そうですね」
「そりゃあそうだよ。私は生まれてこの方、大きな病気に罹ったことがないからねぇ。ある意味慢心している結果でもあるわけさ」
「……体質も関係してそうですね。人肉食べてもぴんぴんしてますし」
「あは、それもあるねぇ」
マスクを着用し、ある程度予防のような事をしている僕に比べ、目の前に座っている僕の先輩は……特に何かをしている様子もなく。
あくまで自然体で紅茶を飲んでいた。
「まぁ元気そうで何よりですよ」
「それは君もだけどねぇ。ネット上で話すことは出来るけれど、実際に会わないと分からない事もあるから」
事実、ここ数日は念のため……と言う事で先輩とも会わないようにしていた。
ゲーム内では毎日会っていたのだが……あちらはあちらでゆっくり出来るような場所ではないため、仕方ない。
久々に心が落ち着ける時間でもあるのだ。
といっても、周囲から漂ってくる濃厚な血の匂いで本当に心から落ち着けるわけではないのだが。
「凄い無知を晒すことになるんだけどさ」
「なんです?」
「ほら、今疫病って言われてるだろう?アレ。実際、疫病ってのはどっから言われるのかなぁって思ってね」
「あぁー……そうですね。割と世界的に広がった病気が疫病、みたいな認識をされてたりしますねぇ」
先輩の疑問は尤もだ。
それこそ、今の現代を生きている人間の中で疫病の意味を知らない者は多い……はずだ。
単純に学校で教わっていないのだから当然だろう。
「とりあえず、疫病ってのはインフルエンザとか天然痘だったりと、集団発生する伝染病の総称みたいなものだと考えてくれればいいです。それで大体は合ってますから」
「大体?」
「ほら、専門的な事を言い出すとそれを理解するのに専門的な知識が必要になってくるでしょう?」
「あぁ、成程。分かりやすくか。いいね」
一息。
「まぁ色々とありますが……疫病の原因と言われてきた事の中に、1つだけ僕と先輩にマッチしてるものがあるんです」
「ほう?」
「それが、まぁ仏罰や神罰によるもの、怨霊や疫鬼……妖怪とかそういうのですね。現代的にはオカルトとして認識されている存在達が原因として伝えられてきたわけです」
事実、この日本ではそれに関係する祭りなどが多い。
僕は別に日本史や民族史などを専攻しているわけではないが、それでもその中の本物くらいは常識として知っているのだ。
それが普通の人間の常識かどうかはさておき、だが。
「成程ねぇ。……一応聞くけれど、今回のもそういうのが関わっている可能性ってのは?」
「可能性がないわけじゃないですね。でも確実にそうとも言えないみたいで。……現地の魔女達も調査が進まなくて大変みたいですよ?」
「こんなご時勢に大変だねぇ」
こんな時に墓場で密会している方が色々と頭が大変なのかと思ってしまうが、それは口には出さないで。
「うん、そろそろ解散にしましょうか。流石にこんな時に日の出まで喋ってるわけにはいかないですし」
「それもそうだねぇ。ちゃんと予防するんだぜ?魔女後輩」
「それはこっちの台詞ですよ、カニバル先輩……」
短いながらも、今宵の談合は終わりを告げる。
まだ月が爛々と輝いている空を見上げ、僕は溜息を吐いた。




