Story 38 【天から舞い降りるは・後】
「その後の話って言われてもねぇ……正直、襲われたから撃退したってだけなんだけど」
「その時、その同胞は何か言っていませんでしたか?」
「んんー……あぁ、なんか『業』がどうとかいってた気がするね。今更って事で半分聞き流してたけど」
『業』。
最近ではゲームでもよく名前を聞くようになったそれは、自身の行動によってその身や精神にかかる罪などの事を指しているという。
といっても、宗教によって色々種類があったり……そもそもゲームにおけるカルマとの違いだったりで、一般的にはあまり意味を知られていない言葉だ。
魔女である僕もそこまで詳しいとは言えない。
精々、仏教には『業』の種類が3つほどある……程度ほどだ。
「あぁー……確かに。そうですね……えぇ、分かりました。で、本題なのですが……」
「あは、ここまで来たら何でも答えよう。で、なんだい?」
「その撃退した同胞はどこに?」
「ここに」
そういって流れるように行われた会話は、先輩が自身の腹を指さした事で凍り付いた。
当然だろう。僕だって初めて聞いたらそうなるし、実際先輩と話す前は人を食べていると聞いて凍り付いた。
「は、はぁ!?貴女同胞を、天使を食べたんですか!?」
「うん、不味かったね。あれは二度と食べたくない……だから安心して、君の事は食べないぜ?」
「ちがっ、あぁー!!もう!そこの魔女さん!貴方この事知ってましたね?!」
「えぇ、知ってましたが」
「いや、その『何かおかしいことでも?』みたいな視線はやめてください!こっちがおかしいみたいじゃないですか!!」
僕は懐かしいと思っていただけで、そんな人を貶すような視線はしていなかったのだが。
「いいですか!?私達天使というのは基本的に身体を魔力で構成しています!それに加え、物質化させるために神力……我らが父より分けられた力によって顕現しているのです!!」
「へぇ、そうなんだ」
「えぇ!!そして、その神力というのは少量でも人間にとっては猛毒と等しいものなのですよ!?何故貴女はそんなけろっとしているのですか?!」
「……あぁ、成程。不味さの原因はそれかぁ。いやまぁ、視えてるとは思うけど原因はこれだろうね」
そう言って、先輩は空中に手を……否、自身に纏わりつくようにして湧き出ている赤黒い何かを触るようにして寂しそうな顔をした。
「……先程から何かとは思っていましたが……それはもしや」
「あぁ、君が言うところの我らが父より授けられた祝福って奴だねぇ。当然、これにもその神力ってのは宿ってるんだろう?」
「……えぇ。確かに宿っていますよ。それが与えられた人間がどういった存在なのかも一応は……はぁ、そういうことですか」
天使さんがこちらを見ながら聞いてきたため、とりあえず頷いておく。
恐らくは僕達魔女がここにいる理由を聞いてきたのだろう。
天使さんは一応魔女がどういう組織なのかもわかっているようで、僕の肯定を見てもう一度深く息を吐いた。
「事情は分かりましたし、とりあえず父に報告はしますが……はぁ、どうしましょう」
「何か悩むような事が?」
「まぁ……そうですね、魔女さんなら言っておいた方がいいでしょう。その方の魂、喰らった同胞と同化を始めているようでして。近いうちに肉体という枷から解き放たれる可能性があります」
一瞬、何を言っているのか分からなかったものの。
しかしながら、考えてみれば簡単な事で。
「なる、ほど……一応聞きますが、それは貴女達と似たような存在になると?」
「平に言えば。肉体が魔力体に、そしてその後は本人の持っている性質によって変わります。善の要素が強ければ私達と同じ天使、もしくは仙人などと呼ばれる存在にはなるでしょうが……」
「まぁ先輩ですからね。ならないでしょう。……別の道は悪魔とかですか?」
「そうなります」
先輩が悪魔になる。
嫌な話だ。こんな性格の悪魔に、魂を捧げたくはない。
「成程ねぇ。私も人間って形を捨てる事になっちゃったか。どう思うよ、魔女後輩」
「どうもこうも……こういうのはやっぱり知ってる人に聞くしかないじゃないですか?カニバル先輩」
「お2人が取り乱していないのが凄く疑問なのですが……まぁ、私に答えられることならば答えましょう。元はと言えば、あの同胞が発端ですし」
「おや、良いのかい?一応私はそっちの親玉から祝福貰ってる身なんだけど」
そう言いながら、彼女は再度空中の赤黒い何かを触るようにしながら天使さんの方をみた。
「えぇ。なりかけとはいえ、今はまだ人の身。私の使命は、そんな人を出来る限り救済の道へと運んでやることですから」
その時見せた天使さんの笑顔は、どこか作り物めいていて。
しかしながらこの場では一番、頼りになるものだった。
今宵の話は、未だ終わらず。しかし、空は白み始めていた。




