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カニバル先輩と魔女後輩  作者: 柿の種


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Story 38 【天から舞い降りるは・前】


いつもの墓場であるものの。

その場には、いつもとは違う雰囲気が存在していた。

それもその筈だろう。

いつもは2人しかいないその場に、もう1人の人影があるのだから。


「……で、こちらさんはどなたなんだい?後輩くんよ」

「いや、その。僕にも理解できてないというか。……いや、本当に。そんなジト目で視られても仕方ないというか。前例がないんで」


いつもは対面に座っているはずの先輩は、僕の隣に座っている。

その代わりに僕達の対面には、金髪碧眼のシスターさんが座っていた。

目を閉じ、静かに僕が出した紅茶を飲んでいる姿は……正直この場には相応しくないと思ってしまうほどに綺麗だった。


「私の事はお構いなく。私と近しい魔力を感じたので気になって来てみれば……という奴なので。あぁ、でもそちらの彼女を差し出してくれればすぐに退散しますが、どうでしょう?」

「ほらぁ!こんなこと言ってるぜ?!しかも私が目的ときた!」

「あー……いやまぁ、先輩をってのは分かりますけどねぇ……しかし、天使ですか……」


そう、僕達の目の前にいるのは所謂天使と呼ばれる存在だった。

といっても、今現在天使としての姿ではなく……人間として暮らしている時に使っている姿で来てくれているため、僕もきちんと視認できてはいるのだが。

しかしながら、僕の知っている天使とはかなり違いというか……現実にこうして話してみると知識と現実は違うのだと改めて知ることが出来た。


「あら、珍しいですか?天使」

「まぁ……そうですね。僕達魔女でも天使に会った、話した事のある人は少ないかと」

「ふふ。確かにそうですね……基本的にはこうやって自身の身分を教えてまで話すと言った事は少ないですから」


天使。

基本的には神の使いとして、羽が生えた人の姿として絵画に描かれていることが多い存在だ。

その実態は、神の命令を受けその命令通りに動くだけの人形……であるとされていた。

しかしながら、目の前の彼女にはどう見たって感情も考えるだけの思考力もあるように見えた。


いや、それはそれで当然なのだろうか。

所謂堕天使と呼ばれる存在がいるくらいなのだ。人のような存在だからこそ、堕ちる……ということなのだろう。


「今回はそこの人……人、ですか?人ですね?……そちらの方から同胞の魔力を感じるということで、少しお話を聞いてみようかと思いまして」

「ほら、先輩。そういう事なんで、ささっと話しちゃってください」

「おいおいおい!どっちの味方なんだい君は!?」

「強いて言うのなら僕は僕の味方ですね。というか今回の場合、僕には全く被害はないですからねぇ……」


今回の話は単純だ。

先輩がこの前ポロっと僕に漏らした天使と悪魔を食べた時の話を、目の前の天使様はご所望しているという。

正直、彼女の祝福(呪い)についての話ではなくてほっとしている自分もいる。


「はぁ……仕方ない。で、お仲間さんとの話かな。まぁ割と適当に話してもいいかい?」

「同胞の名前、それとある程度の流れさえ分かれば大丈夫ですよ」

「了解……えぇっとねぇ……そう。あの時はいつも通りに狩りをした帰りだったかな」


そうして先輩はその時の状況を話し始めた。

僕も詳しくは聞いていなかった話なので、少しばかり興味があったためありがたい。


「普通に獲物を持ちながら、夕飯を何にしようか悩んでたんだよ。その後も用事があったから手早く済ませるためにね。そんな時だったんだ、突然夜道にスポットライトみたいな光が射してねぇ」


まだ話の序盤なのにかなり怪しくなってきた。

対面の天使さんの顔はと言えば……少しばかり焦っているような、そんな顔をしている。

どうしたんだろうか。


「で、なんだなんだって思いながら見てたら、空から2人降ってきたんだよ。翼の映えた人が2人」

「……質問いいでしょうか?」

「ん?なんだい?」

「その天使の方は、あの……特徴的な、と申しますか……色々とこう……特殊な髪型をしていませんでしたか?」


そんな質問に対し、先輩は少しばかり考え込むような素振りを見せた後。

小さな声で「思い出した」と呟いた。


「そうだね。アフロだったなぁ、金髪の。思わず笑っちゃったよ」

「あぁー……はい。その天使が誰かは分かりました……で、その後の話をお願いします……」


どうやら個人?個天使?の特定が出来たようで。

少しだけ肩を下げた天使さんが話の先を促した。

今日の夜は少しだけ長そうだ。


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