Story 36 【その目的は】
「……というわけでね。色々と就職とかそういうのが現実味を帯びてきたんだよねぇ」
「いや、とはいってもこの時期に始めるのは遅くないです?」
「んー……とは言っても、私は私で就職する気はなかったしねぇ」
所謂丑三つ時と呼ばれる時間帯。
郊外にある墓場の中心にて、その場に相応しくないテーブルにつき談笑しているのはいつも通りのメンツだった。
「しかし、就職ですか……それも先輩が」
「正直な話、私自身驚いてるんだよ」
話の内容は、就職について。
大学生でもある僕達にとって、その話題は何処か漠然としていて……それでいて、そう遠くない未来に必ず訪れる出来事という認識だった。
「周りの大人に相談……は出来そうにないですね。いつもの面々だと」
「だろう?ハロウは論外、赤ずきんも同様に……現実でも、周りにいるのは研究に身を捧げてる教授ばっかり。唯一頼りになりそうなのが、ゲーム内の知り合いであるスキニットくんくらいってのがヤバイよね」
「ははは……」
そう、僕達の周りにいる大人はそういった話が出来る人が少ない。
ゲームで知り合った人たちは殆どが『働いたら負け』を地で行くような人が多く。
頼りにしたい教授達も、就職活動をしたことがあるのかと言われると首を傾げる始末。
一応学生課と呼ばれる、僕達学生を対象にしたサポートセンター的役割場所も大学内にはあるものの……出来る限り親しい人から聞きたいというのが本音だった。
「まぁ僕は一応魔女の知り合いに社会人の人が結構いるんで話自体は聞けますけど」
「こういう時強いよねぇ、横の繋がりって。……しかし、就職って何のためにするんだろうねぇ」
「そりゃお金を稼ぐためですよ」
「じゃあ何でそのお金を稼ぐのかって言われると?」
「……趣味に使うため……としか言いようがないですね」
そう、仕事をするのはお金を稼ぐため。
その稼いだお金は何処へ行くのかと言えば……普段の生活費や趣味へと消えていく。
たまにお金を貯める事自体が趣味だ、生き甲斐だという人も中にはいるが……大抵の人の仕事をする目的はそんなものなのだろう。
好きな事を仕事に、という目標をもって就職活動をする人もいる。
そういう人は仕事が趣味の延長上になったりするのだろうか。
……それはそれで嫌だな。安らげなさそう。
「先輩はどんな仕事に就こうと思ってるんです?」
「私かい?私は……そうだな、無難に事務職とかじゃないかい?あぁ、お金はあるから、1から何かしらのお店を始めてもいいかもね」
「ほう?例えば?」
「インテリアとかの小物販売店とか……それか精肉店?」
「先輩の精肉店とか絶対に行きたくはないですね……」
牛の肉や豚の肉、といって人肉が提供されることになりそうだ。
さながら過去に実際にあったように。
「いや、でも私一応人間以外もきちんと捌けるんだぜ?」
「あ、そうなんですか?」
「あぁ。牛、豚、鶏の3種は何度も捌いたしね。あとは鹿とか……猪も行けるかな。あは、結構料理上手なんだぜ?」
「それは料理上手というよりかは狩猟上手とか言った方が正しいんじゃないかと」
というか狩猟許可証とか持っているのだろうか。
……ん、鹿と猪?
少しだけその2種の動物が気になったものの。
とりあえずは話を進めることにした。
「というか、良く鹿とか猪とか捌いた事ありますね」
「あは、つい最近機会があってねぇ。ほら、この前1週間ほど留守にしたことがあったろう?」
「ありましたねぇ。確か山に行って、た……とか……」
そこまで言って、僕の頭の中にある記憶が思い起こされた。
「ところで先輩。詳しくその話聞いてなかったんですが、その山の名前とか教えてもらっても?」
「ん?良いぜ?確か……〇〇山だったかな」
○○山。
その山の名前は、近頃よく耳にする名前だった。
それも普通の噂話とかでではなく、魔女の間での話で。
「……」
「ん?どうしたんだい?」
「先輩、その鹿と猪って……喋ったりしませんでした?」
「んー……どうだったかな。あぁ、でも山に入ってから鹿とかを仕留めるまでずっと『立ち去れ』って声、が……あれ?これもしかして地雷だった?」
話題になるのも当然だ。
なんせ、荒魂と化した神霊がいるということで基本的には一般人も魔女も立ち入り禁止となっていた山だったのだから。
それがこの前突然、神霊が居なくなったと監視役の魔女から知らされ、ここの所魔女達の警戒度合はMAXまで引きあがっていたのだ。
「……少し、お話しましょうか。カニバル先輩」
「……笑顔が怖いぜ?魔女後輩」
就職の話から、こんな話になるとは思わなかったものの。
今宵も今宵で、この奇妙な関係の雑談は終わりを告げた。
この後に始まるのは雑談ではなく、叱責なのだから。




