Story 29 【難しいお話を】
「ふぅ、1つ。話でもしようか」
「何ですか改まって。いやまぁ聞きますが」
今宵も同じ場所、ほぼ同じ時間帯にていつも通りに話をする。
今日は先輩が話したい日なのか、紅茶を口に含んだ後。
僕へと語り掛けてきた。
「君は、努力についてどう考えてる?……あぁ、ネガティブな話じゃあないぜ?単純に、君自身が考えている事でいいのさ」
「努力、ですか。僕はそうですね……努力ってのは、誰もがやっていることだと思ってます。それでいて誰もがやっていないことでもある、と」
「ほう?詳しく聞こうか」
努力。
言葉の意味としては、目標の実現のために頑張るというものだ。
「簡単な事ですよ。好きなものや趣味ってのは、努力して……それで日々やっていくでしょう?先輩的に言えば、FiCとかその辺がそうですよね?」
「あー成程。確かにそうだね、好きなものとかには努力して、先に進んでって……君が言ったのはその反対の嫌いなものもってことだろう?」
「そういうことです。中には酔狂な人もいますけど……大抵の人は嫌いなものに努力することはできないでしょう?」
僕だってそうだ。
嫌いな事には努力することはできない。
僕でいえば、長い間……それこそ、努力してまで人殺しをすることはできないだろうし。
先輩でいえば、それこそ常々言っているように……犯罪者たちの肉を大量に喰らうことはできないだろう。
「で、なんですけど……なんで努力の話を?」
「いや、簡単さ。正直な話、努力努力ってなんだろうなぁって思ってさ」
そう言って、先輩は再び紅茶を口に含む。
「努力をする、している、そして君の考えである誰もがやっている。やっていない。……努力って、一体どういうものなんだろうね」
「確かにそう言われると……何なんでしょうね、努力って」
言われてみれば、努力という言葉をよく耳にしたり発したりしているが……確かに具体的にどう、と言われるとわからない。
いや、その努力したい物事の事を考えれば、ある程度は分かるのだろうが……だが、広い意味での努力というのは人によっての違いが多すぎて、こうというものが存在しない言葉だ。
「あぁ……そういえば。才能って言葉とよく一緒に言われる言葉ではあるけれど、その実、才能と努力って考えてみれば違うよねぇ。今言ったように、努力って言葉がどういう範囲での『努力』なのかってのを先に定義しなければ、『才能』を決められない。いやぁ、言葉遊びをするわけじゃあないけれど……中々に面白い話にはなってきたねぇ」
「こっちは混乱しそうですけどね。……実際、才能も分からないものではありますよね。一口に才能、と言ってもかなり違いがありますし。言葉の定義ではきちんと決まってはいるんですけどね……」
「恐らく、こういうのを考えるのは日本語の多様性というか……面倒臭いものではあるよねぇ」
努力と才能。
この2つの言葉は、度々使われるものの……それを使う僕達がその意味を定義している現状。
人によって、意味も変わり。違いも多い。
「あは、中々面白い話にはなったけど……いやぁ、まさか最終的に日本語の定義というかそういう話になるとは……この話は私達2人だけでやる話じゃあないねぇ魔女後輩」
「今度人狼のアイツやもう1人の後輩もつれて討論みたいな形にしましょうか。それでもいいですか?カニバル先輩」
「良いぜ、ただ……そろそろFiCの方がイベント始まっちゃうから、君もきちんと準備はしとくんだぜ?」
「分かってますよ。今回は広範囲の支援者として参戦することになりますから、薬は多めに用意しておきます」
そんな話をしながら。
僕と先輩は頭をぐりぐりとマッサージしながら、苦笑いして今日の談合は終わりを告げる。
後日、僕達の間での結論は、『日本語は難しい』という……そもそもの努力の話はどこいった?と言いたい内容になってしまったのは致し方ないことだろうと思う。




