Story 26 【たまには関係のない雑談を】
「いやぁ、めでたいね。無事に年を越せるっていうのは」
「その割には顔がめでたそうではないですけど?」
いつも通り……の時間ではなく。
いつもよりもかなり早い時間。
まだ天に陽が昇っている昼間に、僕と先輩は会っていた。
……特別な理由は特になく、単純にお互いが暇だったというのもあるが。
「いやぁ、だってねぇ?私にとっては死活問題なんだぜ?」
「死活問題……あぁ、年末年始ですからねぇ、そりゃ減りますか」
「そうなんだよ。なんで外出する子が減っちゃうかなぁ……」
溜息を吐いてやれやれと肩を竦めているものの、賛同する事はできない内容であるため、僕も溜息を吐いた。
そう、単純な話。
目の前の食人鬼は、人が食べられないからという理由で少しだけ……いや、まるで爆発寸前の爆弾のようになっているのだ。
「こっちから提供は出来ますけど……嫌なんですよね?」
「そうだね。君ら魔女が用意するのは犯罪者だろう?ゲーム内ならともかく、現実じゃエグすぎて食べれたもんじゃない」
「……じゃあホント、探すしかないですね。こっち側からは力になれそうにないです」
魔女の世界でも、人間を使う実験というのは今でも存在している。
それこそ、新薬の実験なんかはマウスを使うよりも人間の方が効果が分かりやすいからだ。
だからこそ、いなくなってもいい人間の調達ルートなどはしっかりと管理されていて。
必要とあれば、そのルートを使い提供するのも吝かではなかったのだが。
この先輩は前からそういった人達は食べないと言っているのだ。
本人曰く、味が変わる。エグみが他よりもある。そして、何よりも気分が悪いとのこと。
食べているものが人の癖に何を、とは思ったものの……むしろ人を食べているからこそ、グルメになっているのかもしれない。
「まぁいいですけど……とりあえず野垂れ死ぬことだけはやめてくださいね」
「おや、心配してくれるのかい?」
「えぇ。先輩に対してじゃないですけど。……先輩が死ぬとどうなるのかが分からないから怖いんですよ」
「それは……あぁ、成程。食べた魂の量的に、とかそういうのだね?」
「そういうことです」
目の前の先輩は僕の言葉を聞いてにやりと笑う。
そう、彼女は人を喰らい……そして喰らいすぎて化け物へと成った存在だ。
だからこそ、彼女が死んだとき。その身体に集まっている怨念というべきものが周囲にどんな影響を与えるのかが全く分からないため……少し、いやかなり不安ではある。
「色々大変そうだよねぇ……割と面白そうだけど」
「やめてください。処理することになるのはこっちなんですから」
「あは、でもそういう怨念とかを処理ってなると……陰陽師とかそういうのが出てきそうな話あるけどどうなんだい?実際いるのかい?」
陰陽師。
日本に昔存在したとされる、言ってしまえば魔女のような存在だ。
実際にはそうではないのだが……まぁ、詳しく言っても仕方ないものでもある。
有名なのは安倍晴明だろうか。
「居るかいないかで言われれば、まぁ居ますよ。居ますけど……」
「けど?」
「あの人達は、京都の方が本拠地なんで。関東方面にはあんまり数もいないし、派遣もしてこないんですよね。その分、ワールドワイドというか……世界中に存在する魔女の方がフットワークが軽いというか」
「あぁ……成程。ちなみに京都の方にいるって事は、何かしらの封印とかがあったりするのかい?」
「ありますよ、色々。あそこは日本の怪異にとっても本拠地と言って過言じゃないですからね」
本当に色々だ。
一般人が名前を聞いたことがある妖怪や、それこそ実体化してしまった都市伝説など……日本由来のものらが多数封印、存在しているのが西の都。
何故そこに存在しているのかはわからないが……でもそこに存在してくれているおかげで、魔女的には陰陽師に管理を任せられるため、楽ではあるのだ。
「うん、まぁそういう人たちのお世話になる可能性もあるって事か……うーん嫌だねぇそれは」
「?陰陽師に何か因縁でも?」
そう聞いた僕に、先輩はにっこりと笑いかける。
「いや。どうせなら最後は君に、と思ってね。魔女後輩」
「……良い風に言っても、それ意味合い的には『後始末は任せたぜ、私は好き勝手するから』って事ですよね?カニバル先輩」
「あは、バレた?」
溜息を一つ。
今度懲らしめてやろうかと思いつつ、僕たちの新年最初の会合は終わりを告げる。
次に会うときは、いつも通りに。




