Story 2 【魔『女』とは】
書きあがり次第投稿初日ということで投稿していますが、多分今日はこれで終わりかな?
これからは殺伐魔術と同じように、更新日の15時に投稿するのでよろしくお願いします。
感想、評価なども待ってますー!
「やぁ、後輩くん今日も紅茶とか持ってきてくれたかな?」
「えぇ先輩。……というか、なんか僕パシられてるみたいになってません?」
「はは、それは仕方ないだろう?実際パシってるようなものさ。ほら、例の物は持ってきたかな?」
「それはそうですッスけど……あぁ、はい。これどうぞ」
僕は目の前の墓石に腰を掛け、ケラケラと笑う彼女にラッピングした小さな袋を渡す。
中には人肉を使ったクッキーだ。知り合いの文字通りの魔女さんに作ってもらったため、味は保証できるだろうが、やはりこんなもの何に使うのかと問い詰められてしまった。
まぁ間接的にも関わらせてしまったために、少しは事情を話したのだが……何故か僕の方が引かれてしまったのは納得がいかない。
先輩、後輩という呼び方は同じ大学の同じ学科の同じ専攻だったという偶然に基づいたものだ。
事実、オリエンテーションで彼女を見た時は心臓が止まるかと思ったし、その後普通の……裏の世界を知らない友人と話している時に話しかけられた時はこの世の終わりかと思った。
彼女の方はといえば、確実にわざと……というか僕の反応を見て楽しんでいるようだったので、今日の娯楽提供はこれで終わりでもいいんじゃないだろうか、と思ってしまったほどだ。
しかし、やはりというかなんというか。こうしてこの墓地に先輩がいるということは、また今宵も朝まで何かしらの娯楽を提供しなければならないのだろう。
僕はそんな一発芸なんかは持っていないため、よく回るといわれた舌で、口で言葉を紡ぎ続けるしかないのだが。
「どうだい?学校には慣れたかな?」
「いやいや、まだまだ慣れないですよ。それにどこかの誰かのおかげで上級生の方から呼び出しとかもあったんですから」
「ふふ、それは災難だったねぇ。ははっ」
「どの口が言うんですか、どの口が……」
そう、この僕の目の前で悪戯っ子のようにケラケラと笑う彼女は、僕の通うこととなった大学では『高嶺の花』だの『文武両道・才色兼備』だのと呼ばれている、一種の『学園のアイドル』的な立ち位置だったのだ。
そんな彼女が一人の、それも異性の新入生と親しそうに話している。新入生は勿論の事、元々大学に通っていた上級生達も目くじらを立てるというものだ。
一応彼女とは親戚ということで、周りには納得してもらっている。
思い込みが激しく、面倒だった人達には少しばかり神秘的な方法で無理矢理納得してもらったが、あまり問題はないだろう。
何故か無理矢理納得してもらった後に少しドロップアウトしていた彼らが見違える程に好青年になっていた時には驚いたが。
「出来ればもう大学で話しかけるのやめてもらってもいいですか?」
「えー?なんでだい?楽しいのに」
「こっちは楽しくないんですよ……それに、僕の大学生活が危うくなればこの時間も無くなるんです。わかりますよね?」
「おいおい、それはちょっとずるいんじゃないか?やめるしかなくなるじゃない」
……やめてほしいからいってるんだよ。
実際、僕が大学に行けなくなったらこの担当区域からは外されることになるだろう。
それすなわち、先輩と話す相手が居なくなるということ。
最悪の場合、先輩を『討伐対象』として見て葬ろうとする魔女がここに派遣される可能性もあるのだ。
ある意味で僕と先輩は一蓮托生、この雑談する時間を続けていくにはお互いの協力がなければできないのだ。
「仕方ないなぁ……。とりあえず紅茶貰ってもいいかな?」
「えぇ、どうぞ。どこの茶葉とか分からないですけど、家で淹れた時は美味しかったのでおすすめですよ」
「わぁ、ありがとう。クッキーに合うといいけれど」
パチン、と指を鳴らしお茶会用のセットを出現させる。
執事のような役回りだが、まぁそれも仕方ないだろう。彼女を満足させねば、こちらとしては魔女業界でやっていけないのだから。
「あぁ、そういえばなんだけど」
「はい、なんです?」
「なんで君、魔女とか名乗ってるんだい?一番最初に名乗られたときはそういう性癖なのかと思ったけどそうじゃあないみたいじゃない?」
「あぁ、それですか……話すと長くなりますけど、いいですか?」
質問に質問で返し、またも質問で返す。普通の問答ならばいけないことだろうが、別にフォーマルな場ではないため良いだろう。
僕がそう聞くと先輩はぱぁっと顔を明るくさせ、頭を縦に振った。了承ということだろう。
「では話していきましょうか……というのも、あれな話なんですが。先輩は魔女って何を指すか知ってます?」
「あぁ、知ってるとも。魔女といえばあれだろう?魔法を扱える女性の事を指す。違うのかい?」
「いえ、合っています。魔法を扱える女性……文字通りの『魔女』ですね。基本的には現代の魔女にもこれは通じます。では、僕のような魔法を扱える男性の事をなんていうかは知っていますか?」
この問いに対し、先輩は少しだけ考えるような素振りをしつつすぐに答えてくれる。
「魔法使い、だろうか?君がそうやって問いかけてくるということは違う可能性もあるんだが……」
「いえ、合ってますよ。魔法を扱える男性は『魔法使い』。これは間違いじゃあありません。他にも『ソーサラー』と言われる場合もありますね」
「じゃあなんで君はそれを名乗らないんだい?『魔法使い』や『ソーサラー』の方が誤解はされないだろう」
そんな問いに少しだけ笑みがこぼれてしまう。
文武両道と言われている先輩に対して勉強を教えているような感覚になる。……まぁこんな雑学のような事を教えて得意げになっている時点で、そこまで僕の頭は良くないのだろうが。
「そこには今の僕らの成り立ちが関わってきますね。……僕ら『魔女』が今のように各地を巡回し、現代の一般人に超常的、神秘性のあるモノらを秘匿するようになったのは、ある魔女狩り事件がきっかけです。わかりますか?」
「んん……もう少しヒントをくれないか?」
「そうですね、アメリカで起きたといえば簡単かな」
「アメリカ……魔女狩り……セイラムかな?」
……流石に頭はいい。
素直に感心してしまう自分がいるのを悟られないよう、平静を装いながらも話を続ける。
「そうです。セイラム魔女裁判と呼ばれる一連の裁判ですね。世間的には集団パニックによるものだったといわれていますが、これは正しく行われた魔女狩りでした」
「正しく行われた……?」
「えぇ。詳しい人名はここで言っても仕方ないので割愛しますが……正しく魔女達が処刑され、残ったのは一般の魔法が使えない人間だけとなった、魔女史史上最大の事件です。なぜ彼ら一般の裁判官が魔女を見抜き処刑できたのか、と多くの謎が飛び交いました……が、まぁ今日の話には関係がないことなので」
そういうと先輩は気になっていたようだが、先を促すように紅茶を飲みながらこちらをじっと見つめてくる。
お茶請けとして持ってきたはずのクッキーも、もう残りが少ない。
「さて、この事件から世界に散らばる魔女達は『次は自分の番なんじゃないか』と震えあがり、ある決まり事を決めました」
「ある決まり事?」
「はい、決まり事です。……世界の一般人から神秘という神秘、異端と認定される要素のあるものを徹底的に秘匿すること……という言ってしまえば細部を決めていないお粗末な決まり事です。勿論制約なんてありませんし、これを破ったからといって魔女から何か反応があったりなんかもしません。ただ……」
「ただ、一般人からは異端と見られ、また最悪の魔女裁判が起きる可能性がある……ということかな?」
「そういうことです」
ここで一息。自分のカップに注いだ紅茶を一口含む。
普段は女性相手にはそこまで回らないこの口だが、今日はしっかりと自分の仕事をこなしてくれているのはありがたい限りだった。
先輩の方をちらとみれば、続きが待ちきれないといった風な顔をして僕を見ていたため……ここいらで続きを話始めることにしよう。
「まぁそうやって各個人で決まり事を守るのにも限界が出てきたのがここ最近、大体10年前後ですね。そこである程度力の持った魔女達は考えたんです。『いっそのこと、魔女による団体のようなものを作ってしまえば、そういったものの管理も容易になるのでは?』とね」
「……それはなんというか……」
「えぇ、まぁ浅はかというかなんというか。しかしながら、結果的には成功しているのが現状です。そこで自分たちの呼び名をどうするか、という議題になりまして」
「無難にそのまま『連合』とか魔女なら『サバト』とかでも良かったんじゃない?」
「僕もそう思います。ただ、僕らの上司はそう考えなかったようで。そのまま『魔女』でいいんじゃないか、と決めてしまったわけですね」
そういうと先輩は納得がいったという顔をしながら、手元の最後のクッキーをそのまま丸ごと食べてしまう。
丁度話も終わるし、今日はここらへんで解散だろう。
「そんなわけで、下っ端である僕らは逆らえるはずもなく『魔女』と名乗っているわけです」
「なんでそうなったのかは分かったよ、うん。中々興味深い話だった。……しかし良いのかい?私、一般人だぜ?」
「はは、何を言うんですが。先輩みたいのは存在がすでにこちら側ですよ。カニバル先輩」
「言うじゃないか魔女後輩」
こうして、今宵の談合も幕が下りる。