Story 21 【多ければいいってもんじゃあない】
草木も眠る丑三つ時、といえば想像はしやすいだろう時間帯。
誰もが眠り、今もなお働いている者も集中力が切れる時間帯。
僕は今日も、人のカタチをした何かと茶会をするために墓場へと訪れると、既にそこには彼女がいた。
「やぁ、今日は遅かったじゃないか」
「色々ありまして。すぐ準備しますよ」
「ありがと。……さて、じゃあ準備している間は私がちょっとした話でもしようか」
僕がテーブルや椅子、その他諸々の小物などを用意していると先輩はそんなことを言い出した。
特に反論、というか話を聞く分には集中力を必要としない作業しかしないので、耳を半分先輩のほうへと傾けながら手を動かす。
「さて、まぁこんな事を聞くのは無粋かもしれないけれど……君は多数決って知ってるかな?」
「この場合は人が意見を決定する場合の方法でいいんですよね。楽曲とかの方ではなく」
「そうだね、そっちでいい。……まぁその多数決についての話をしよう」
軽く先輩の声がする方へと目を向ければ、彼女は既に雨風などによって名前すら読めなくなった墓石に腰掛けながら、夜空を眺めつつ話していた。
罰当たりだ、とは思うものの。彼女の存在自体が神にとっては赦されないモノだったことを思い出し、今更だと嘆息する。
「多数決、古来から多くの人々が使ってきた意見決定における方法の1つだ」
「そうですね。今だと色々と方法がありますけど……まぁやっぱり簡単で、周知されているとなると多数決が一番でしょう」
「だね。今では多数決というものを題材にして作られている作品だってある。……まぁ、言ってしまえば政だって多数決の結果、自分たちの代表を決めてるわけだしそう珍しいことではないんだけど」
よくよく考えてみれば、僕たちの生活には多数決というものが根付いている。
例えば、先輩が言ったように国の運営に関わることだってそうだ。
もっと規模を小さくしていけば、組織間での意思決定をするのに多数決を行う所もあるし……それこそ、もっと俗的な話をするならば『どっちの居酒屋がいい?』みたいな、食事処を決定するときに使われたりもする。
幼少時代から使われてきたそれらは、僕達日本に住む者ら以外の……それこそ海外の者達だって使用する。
「かの発明家であるエジソンは、ボタン1つでどちらの意見に投票するか、投票後どちらの意見に決まったかを提示する……みたいなものを作ったらしいね。まぁ、少数派を一瞬で切り捨てるそのやり方は批判されて世間に普及する事はなかったみたいだけれど」
「まぁ、人間ですからね。感情や理性がある分どうしてもそう言った話は生まれがちですよ」
「そうなんだよねぇ。そこが残念な部分でもある」
テーブルの準備を終え、先輩が座れるように椅子も用意した所で手と視線で座るように促した。
彼女は薄く微笑み、「ありがとう」とこちらへ声を掛けつつ用意された椅子へと座って話の続きを話しだした。
「多数決の欠点、というか私が思う問題点はそこなんだよ」
「そこ……というと、少数派が結局の所切り捨てられるという所です?」
「話が早くて助かる。……そう、結局なんだかんだと言った所で多数決という方法を用いることから、選ばれなかった方の意見に属していた所謂少数派の者らの意見は切り捨てられることになる」
彼女は溜息を漏らしつつ、額を手で抑えた。
いつもなんだかんだ楽しそうにしている先輩が、話している時にこんなリアクションをするのは珍しい。
何かあったんだろうなぁ、と思いつつ。
ふと、1つだけ思い当たった。
「もしかして、今度朝陽教授が主催するセミナーって……」
「そう。私が登壇する事になってるんだよ……いやね、断ったさ。色々教授に話せないものを抱えてる手前、私が登壇するのは流石に不味いだろうって」
「まぁ……そうですね。確かに。どこに目や耳があるかもわかりませんし」
「そう。だから断ってたんだけど……あろうことか、他のゼミ生まで巻き込んで多数決で私が登壇するか否かを決めやがってねぇ……あは、あの時はマジで殺してやろうかと思ったくらいさ」
「先輩が言うと冗談にならないんでやめてください」
気を落ち着かせるべく、とりあえず急ぎではあるものの作ってきた人肉入りのクッキーを渡しておいた。
魔女の小指という、指の形のクッキーだ。
見た目的にもあっているだろう。
「むぐ……はぁー……だから私は断固としていいたい。少数派の意見をきちんと取り入れて、議論をすべきだと!」
「先輩が珍しい話をすると思ったらそういうことだったんですねー……まぁ分からなくはないですけど」
「だろう?ちなみに君はどうなんだい?」
「いやまぁ、自分が少数派になった経験は少なくはないんで多少思う事くらいはありますよ。そりゃ。でも……まぁ、そうですね。とりあえず言うなら、僕たちの存在自体が少数派なんで」
言ってしまえば、そういうものである。
存在自体が少数派。だからこそ、思考も少数派に寄りやすい。
同情してしまうから。同じ立場となって考えられてしまうから。どうしたって多数派にはなれないから。
僕の言いたいことが分かったのか、先輩はヤケクソ気味にクッキーを食べていた手を止め苦笑する。
「それを言ったら終いじゃないか、ダメだろう魔女後輩」
「仕方ないですよ。だって僕たちはそういうモノなんですから。カニバル先輩」
今宵も、夜が更けていく。
しかしながら、話し声は続く。
一方が愚痴のように語り続けるというものではあったものの、双方が楽しそうな声を出しながら。




