Story 20【血とそれに関係のある者】
「血って結構、魔術的にも重要とか言われたりするけどどうなんだい?」
「どうしたんですか?いきなりそんなこと言って」
「いやね、この間少し吸血鬼さんがうちに訪ねてきてねぇ……」
「それは珍しい。彼らは結構もう数も少ないんですよ」
今宵も、誰からも忘れ去られた墓地の中央から、紅茶や菓子の匂いと共に男女二人の会話声が聞こえてくる。
男の方は、ファンタジーに出てきそうな魔法使いスタイルの恰好をしていて。
女の方は、スポーツウェアの上にパーカーを羽織っているだけの恰好をしている。
端から見れば、怪しい占い師に捕まったかわいそうな女性……となるのだろうが。
「あは、それならレアだったんだねぇ。純血のとかなんとか言ってたし」
「純血……?先輩、その吸血鬼はどこへ?」
「あぁ。なんか襲ってきたから食べたよ。強いて言えばお腹の中かな」
「……」
彼女に気付かれないよう、周囲に目配せしながらも。
心の中で名も知れぬ吸血鬼に対し黙祷を捧げておく。
「ごほん。……まぁ実際、血っていうのは魔術的な意味でも重要なものですよ。えぇ」
「そうなんだねぇ」
「そうなんです。これは僕の師匠からの受け売りではあるんですけど……『血というものは、言わばその者自身といっても過言ではない』と」
「その者自身、か」
僕の師匠……既に亡くなっている彼から教わったのは、至極基本的なものだった。
その中の1つに血についての魔術的な話も含まれていたという、それだけの話。
「そうです。相手の血を得ればそれだけ強力な呪詛を確実に掛けられますし、逆もまた然り。先輩が食べた吸血鬼なんてそのまま血に関わる怪異ですからね」
「確かにそうだねぇ。彼らは血を吸う鬼……だからこそ吸血鬼って名前になってるんだろうし。彼らにとっては食事と同じなのかい?吸血行為は」
「いえ、どちらかと言えば先輩と同じですね」
「私と?」
首を傾げる先輩を見つつ。
僕は一口、喉を潤わせるために紅茶に口を付けた。
「えぇ。彼らは他者の血を……先程も言った通り、言わばその吸われる人自身の事を吸い取っているんです」
「……あぁ、成程?私で言う魂喰らいの部分か」
「そういうことです。まぁだからじゃないんですかね。彼らの中でも高位であろう純血の吸血鬼が先輩を訪ねてきたのは」
「?」
「簡単ですよ。血を、魂を。それらに差異はあれど、結局は相手を存在ごと喰らっているのには変わらず。ならばこそ、魂を喰らう化け物の存在を喰らえば……」
一息。
「……なーんて、考えてしまったんじゃないですかね。件の吸血鬼さんは」
「あは、それだったら私は今吸血鬼さんの事を喰らってしまったから色々と不味いことになってるんじゃないかい?」
「気付いてなかったんです?最近貧血になったりとか犬歯が鋭くなったりしてません?」
「あー。貧血はないけれど、犬歯はそうだねぇ。おあ」
そういいながら、口を大きく開けてこちらに見せてくる彼女には恥じらいというものはないのだろうか。
先輩の口の中には立派な犬歯が見えており、普通の人のそれよりも幾分か鋭く見えた。
「もういいですよ。うん、えぇ。とりあえず魔女がやってる診療所教えるんで、そっちで詳しく診査した方がいいですねぇ」
「了解。となると、私はもう少し今以上に警戒のレベルが上がっちゃうのかな?」
「それは免れないかと。僕以外が担当に当たれないっていうのは上の方も分かってるっぽいんで、そこは変わらないですけどね、カニバル先輩」
「それがいい。そっちの方が気兼ねなく話せるしね、魔女後輩くんとはさ」
そんなことを言い合いながら。
今宵の会合も終わりを告げる。




