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カニバル先輩と魔女後輩  作者: 柿の種


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Story 18 【魔のモノとは】


誰もが寝静まる、そんな深い夜。

街外れに存在するものの、誰もが存在を忘れてしまった墓地の中心で男女の話し声と共に甘い匂いが周囲を漂う。


「……って事で、悪魔って結局の所なんなんだい?」

「これまた唐突ですね」

「まぁ人の好奇心ってのはそういうものだろう?……で、悪魔は何なのさアレ。イメージ的にはそれこそ悪!って感じなのだけれど」


僕の目の前に座り、紅茶を飲みながら質問をしてくる女性……大学の先輩に対し、一つ溜息を吐いた後。


「まぁ、僕の知ってる範囲で話して行きましょうか」

「おっ、やった」


悪魔。

天使……天からの、神からの使いの対義語のように扱われるそれらについての話。

知るは簡単だが、理解するには難しい。そんな話を僕は語り始めた。


「と言っても、僕もネットで得た情報だったり……それこそ興味があって調べた範囲しか知りません」

「ん?魔女なのに?」

「えぇ。魔女ですが、多くのことは知りません」

「それってつまりはイコールで悪魔は存在しないとかじゃないのかい?」


魔女と悪魔……というよりは、魔術という技術と悪魔というのはファンタジーやフィクションの世界ならばかなり濃い繋がりを持っていることが多い。


しかし、それらは結局の所。

彼らの現実の中で悪魔という存在が活きているからであり、


「えぇ。いませんよ、悪魔」

「えー。面白くないなぁ。神はいるのに……」

「まぁそんなものですよ。……日本での『悪魔』って単語の出来方には色々な説はあるんですけどね」

「ほう?」


一口紅茶を啜るように飲む。

味を楽しむわけではなく、単純に喉を潤す為だけに飲んでいると紅茶好きの人々に知られたら怒られそうだ。

そんな下らないことを頭の隅で考えつつ、僕は話を続けていく。


「例えば……そうだな。先輩って身近な災いってなんだと思います?」

「身近な災い……?んー……あぁ、台風とかそうじゃないかい?私含む学生にとってはヒーローみたいなモノだけど」

「でも災いと感じるから名前を挙げたんですよね?」

「そうだねぇ」

「ならそれは昔の人基準では悪魔、と言うことになります」


僕がそう言うと、一瞬先輩はポカンとした唖然の表情を浮かべた後に、すぐに納得したような顔へと変わった。


「あぁ、成る程。日本らしい捉え方だねぇ。他の宗教なら神の試練とか言われそうなモノを、悪と。超自然的存在として捉えたわけか」

「まぁ元々妖怪だなんだっていう下地があるからこそでしょうね。彼らも裏を返せば、似たような物でしょうし」

「まぁある程度参考になったよ。……じゃあ質問なんだけど」

「なんです?」

「ほら、悪魔の中には固有の名前がある者らがいるだろう?アレらはどういう存在なんだい?」


先輩はある程度悪魔という単語……その1つの成り立ちのようなものを知り疑問に思ったのか、僕にそんなことを聞いてきた。


……うーん、答え辛い。

先程あんなことを言ってしまった手前、言うのは憚られるが仕方ないだろう。


「あー、それらはそうですね。特別な存在というか……はい。この現実で確認された悪魔になってます」

「あれ?さっき居ないって……」

「悪魔は、居ないんですよ。魔人という亜人なら居ますが」

「あぁ、そういうこと。名称自体は変わったけれど、それ以外は何も変わってないから色々と大変なわけか」


先輩が言うように、色々と大変だ。

それこそ彼らの世界では、彼ら自身は貴族階級だったりして世話をすると言う意味で大変である事には間違いない。

それを部外者……魔女ではない相手に知られるというのはいささか示しがつかないらしいのだ。


しかし、僕が彼女に最初居ないと言ったのはまた別の理由がある。


「いや、先輩聞いたら会いに行こうとするでしょう?だから居ないって断言して諦めさせようかと思ったんですけど」

「あは、申し訳ないねぇ」

「はぁ……まぁ無駄だと思いますよ。それこそ彼らは偽名を使ってますから」

「偽名?……ってあぁ。流石に悪魔の名前そのまんまだと日常生活の方で問題が出るのか」


納得したようで、彼女は手をつけて居なかったお茶請けへと手を伸ばした。

今日は小さめのマフィンを先輩用に焼いてきたため置いてある。


「一応有名な偽名は使わないように、とは言ってありますけどね。ヨハン・ファウストとか」

「むぐ……なんだいそれ。誰の偽名だい?」

「あれ、知りませんか?ファウスト伝説に登場するメフィストフェレスの良く使う偽の名義なんですよ。流石に違うものにしてもらってますけどね」


そう言った後、空を見上げればうっすらと既に明るくなってきていた。

今日はもうお開きの時間のようだ。


「まぁ今回は悪魔の話をちょっとだけしましたが……次は天使辺りをちょっとだけ話すとしましょうか。カニバル先輩」

「お、それは面白そうだ。楽しみにしてるぜ魔女後輩」


お決まりになった言葉をいって。

片付けた後にそれぞれ墓地から家への帰路へと着いた。

今宵は、ここまで。


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