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Story 1 【始まりと終わり】

書きあがったので投稿します。

時系列的には、Story 0の前日譚にあたります。


もしよかったら感想、ご指摘、評価などよろしくお願いします。


「おや奇遇だね、こんなところで会うなんて」

「えぇ、まぁ。奇遇といえばそうでしょうね」

「何か問題でも?」

「問題しかないんですが?」


草木も眠る丑三つ時、という時間帯。

普通ならば外に出歩いている人物はやっとの事で帰っている仕事人か、怪しい不審者のどちらかだろう。

それに場所も場所だ。

街の郊外にあるもう使われていない墓地。そこの真ん中……ある程度の数の墓が立ち並ぶそこで堂々と墓に寄りかかりながら話している僕達は、やはり怪しい不審者なのだろう。


「一応この前会った時に言いましたよね?もうやめてくださいと」

「あぁ言われたね。それに私はこう答えたはずだぜ?『それはできない』って」

「言われましたね。それに対して僕がなんて言ったか覚えてますか?」


彼女は少し考える素振りをした後に悪戯っぽく笑いながら、


「すまないね、覚えていないよ」


と言った。

……この女は本当に……。

黒い感情を顔には出さないように気を付けながら、彼女に対してもう何度したかも分からない話をする。


「……いいですか?いくらここが多くの人から捨てられた墓地だからといって、ここでそういった事をされると色々不都合が起きてしまうんですよ」

「例えば?」

「そうですね、先輩が行っている殺人、食人、それから……そう、そうやって死体を使って何かしらの道具を作る事もですね。そういった行為には昔から魔術的な意味があると考えられています」

「ほうほう?私のやっている趣味も兼ねた生活習慣にそんな意味が?」

「これ毎回会う度にしているはずなんですけど……。まぁいいです。まず殺人についてですが……これはある意味生贄を捧げるという行為にもとれるんです。貴女にそんなつもりはなくとも、向こう側の存在はそれを起点にこちら側にやってこようとすることもないわけじゃあないですよ」


そう、殺人という行為はしばしば魔術的に……というよりも信仰的に生贄という行為と同等のモノとして見られることが多い。

事実として、最近も海外で魔術信仰の生贄として子供が殺害されるという凄惨な事件が起きたほどだ。

他にも世界的に見れば、現代にはまだまだ生贄という文化が残っていることが多く、旅行をする場合そういった団体に注意をした方がいい……と言われているほどだ。


そして彼らが生贄を捧げてまで信仰する神や魔術だが、世間では信じられていないが本当に存在するモノなのだ。

下手にそういった事を執り行えば、神の怒りを買う所か……最悪真逆の存在が呼び出されてしまう可能性もある。そういったモノに対処するこちら側の苦労も知ってほしいものだ。


「といっても、食べるのに人間を踊り食いは流石に一般人の私にはできないよ。殺さないとね?」

「まず殺人を犯すということが問題なんですよ……さて、次に食人。これに関しては諸説ありますが、食人を行うということはその者の魂を喰らうといった意味があると考えられています。また、それを行うことによって食べられる側を取り込み自分の力に上乗せするための儀式だとも言われています」


食人というのはその名の通り、人を食べるという行為だ。

カニバリズムとも言われ、大昔からアジア圏でも行われてきた文化の一つでもある。

しかし、僕が言ったようにこれは相手の魂を喰らう事と同義なのだ。相手の魂を喰らい、自分の糧とする。

魂喰い(ソウルイーター)というのは、魔術師の間でも危険だと言われている悪霊の一種だ。近づけば魂を喰われ、力の一部を失い……最終的には死亡する。

そんなものと同じように魂を喰らい続けていれば……最終的には同じものとなり理性を失うことになるだろう。だからこそ、危険な行為なのだ。


「うーん。そう言われても、これは私の発作みたいなものだしね。人を食べなければ餓死しちゃうし」

「だから前回はこちらから人肉を支給すると言ったはずなんですがね……忘れてません?」

「うん、忘れてるよ。私はそんな会話をしてたんだね、まぁその様子だと断ったんだろう?」

「えぇ。何でも『君達の持ってくる肉は確実に不味い。どうせ受刑者の肉を持ってくるんだろう?犯罪を犯した人間の肉は独特の臭みがあって食えたもんじゃあないんだ』と言ってましたね」


僕が彼女の口調を真似つつ思い返しながらそう伝えると、彼女はうんうんと首を縦に振って頷いた。


「そりゃあそうだよ。今の私でも断るさ。……知ってるかい?本当に犯罪者の肉ってのはね、腐ってるような……焦げているような……生臭いような……そんな臭みがごちゃまぜになっているのさ。そんなもの食えたもんじゃあない」

「はぁ……恐らく感じている『臭み』って奴が魂の味なんでしょうけどね……。そこまで同化しちゃってると元に戻すのも面倒なんですよ?……最後にですが、死体を使ってインテリアだのなんだのを作る行為。これに関してはかつてのある犯罪者の行った行為として有名ですが……僕からすれば、単純に趣味が悪いかと」


エド・ゲインという犯罪者がかつてのアメリカには存在していた。

彼は墓を掘り返し中年女性の死体を家に持って帰ると、解剖しその皮や肉などをインテリアや身に着ける物として『加工』したそうだ。

彼女が行っているのはそれに似た真似事の類だが……それでも、趣味が悪いだろう。

それにこれもれっきとした魔術的な行為の一つだ。


人の身体を扱う、皮を加工するというのは、昔から聖なる道具や魔術的な道具を作るために行われてきた行為だ。

人の身体には魔術的な力が込められている、というのは食人などの話から分かるだろう。

当然そんな力が込められていた器である肉体を加工するということは、魔術的意味合いを持つ道具を創り出すということに他ならない。


「趣味が悪いって言われてもね。きちんと普段は普通の物を使っているよ?こういったことを行う時にだけ……例えばほら、血のインクで記録してる人革装丁の手帳。周りの人には見せてないし見つからないように保管してるしね」

「そういう問題じゃないんですって……あぁ、ほらまた悪霊が発生しかけてる」


素早く空中に印を結び、悪霊になりかけていた霊を天へと送る。

こういった対処の速度だけなら新人の中でも早いからこそ、こういった問題がある地域に派遣されてしまったのだろう。


「うーん……君が言っている事は分からないわけじゃあないんだよ。ただね、何度も言ってるだろうけど、これは私のライフワークみたいなものだからやめる気はサラサラないんだ。それもわかってほしいな」

「えぇ、それも毎回言われてます。だから僕もあんまり意味がないと思ってきてるんですよね、この巡回」

「あぁ、そうだね。意味がない……いや、待てよ?」


彼女は何か悪戯が思いついた時のような子供っぽい笑顔を浮かべながら思案するように腕を組む。

……あぁ、何か嫌な予感がする。今すぐここから逃げ出したほうが良いんだろうが……仕事だから逃げ出せねぇ……。


「な、なんッスか……?」

「ん?それ君の普段の口調かな?そちらの方がフランクだし親しみやすいから次からそっちで頼むよ。……と、本題からズレてしまったね。私にそれらの行為をやめさせたいのなら、毎日ここにきて私がしないように済むように何かしらの娯楽を用意してくれないかな?」

「ご、娯楽……」

「そ、娯楽。でも、少なくても私は人肉を食べないと体質的な問題で餓死してしまうからね。君が娯楽を提供してくれるのなら私は極力食べる量を減らすし、殺人も行わないようにしよう。人を素材に何かしらを作るのもやめることにするよ」


娯楽。

突然一発芸を見せろと言われたようなもので、夏でもないのに絡みつくようなじっとりとした汗が噴き出てくるのを感じる。

そんな僕の様子をみて、彼女はにたぁ……と意地悪く笑うと、


「まぁ、また次回。次回会った時にそれは期待することにするよ」

「……まぁ、はい。お願いします」

「うん、丁度夜明けだし帰ろうか。君も今日表の顔の方で色々あるんだろう?」

「えぇ、少しオリエンテーションがありまして」

「ほう、オリエンテーションか。ということは新入生かな?おめでとう、これから頑張れ若人」


彼女はそう言いながら、昇ってきた太陽の方へと歩いていく。

僕はといえば、彼女の姿が見えなくなるまでそのままぼーっと突っ立っていたのであった。



後日談として。

僕はある大学のオリエンテーションということで、学長の話をうとうとしながらも聞いていたのだが……在校生の話で墓場で見た彼女が出てきた時には驚きすぎて腰を抜かしそうになってしまった。

そんな様子に彼女が気付いていたのかどうかは、今の僕には分からない。


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