Story13【嘘をついても良い日】
お久しぶりです。
「んん、いやぁ中々久しぶりな気がするね?」
「そりゃあそうでしょう。先輩が全く連絡も寄越さないわ、こちらの連絡も無視するわで連絡つかなかったんですから」
「あは、すまないね。君に教えてもらったゲーム……ほら、VRのゲームさ。アレにハマってしまってさ?あっちじゃ仲の良い友達も出来たんだぜ?凄いだろ?」
「そりゃ凄いですけど……いや、まぁ。特に大事ないならそれで大丈夫ですよ」
今宵も、既に日が落ち……それどころか日の昇る時間が差し迫った頃。
いつもの場所、いつもの面子、いつも通りに談合が始まる。
「というかそっちの話はどうでもいいんだよ。知ってるかい?今日ってエイプリルフールらしいじゃあないか」
「そりゃあ一応は。午前中は嘘をついてもいいけれど、午後についた嘘は頑張って真になるように頑張らないといけない日でしたっけ?」
「……いや、私が知ってる話とはそれは違うなぁ。ローカルルールみたいなものじゃないかな、それ」
「そうなんですか?」
僕の知っているエイプリルフールは、今語った通り。
午前中ならば、どんな嘘でもついていい。
それこそ、『人を殺した事がある』だったり、『私は超常の存在なのだよ』だったり。
人によってソレは様々だろうが、一貫して『嘘をつく』という点は変わらない。
そして、午後になった後についた嘘は頑張って真になるように努力せねばならない。
先輩が言うにはローカルルール……ある地域限定のものなのだろうが、僕の実家がある地域では大体の人がそういった認識でエイプリルフール……4月1日という日を迎えていた。
「……もしかして今日は先輩が話してくれるので?」
「あぁそうさ。エイプリルフール、嘘の日。なんて私向きな日だ。これで語らなければそれこそが嘘さ。そうだろう?」
「まぁ、えぇ。否定はしませんが」
彼女は僕のその返答に満足したのか、縦に頷いたのちに。
「じゃあ話をしていこうか。……まず、第一にエイプリルフールの起源ってのはどれか定かじゃあないってのは知ってるかい?」
「そうなんです?」
「そうなんです。どの学者も揃って『どれが起源か分からない』って言うくらいさ。といっても、やっぱり何個かこれじゃないか?っていうのはあってだね」
「それの中の一つを話してくれると」
「そうなるね」
一息。
「まず君はシャルル9世を知っているかな?」
「……いえ、シャルル1世、カール大帝なら知ってますけどその後の王については知りませんね」
「まぁそうだろうね。私もある程度調べるまでは存在すら知らなかったよ。……まぁ彼のプロフィールはいいんだ。シャルル1世を知っているなら説明を省くけど、彼等はヨーロッパを治めていた王だったね?」
「どうでしょう?まぁ今回にはあまり関係ないですし、そこらへんはまぁ……適当でもいいんじゃあないですかね?」
「まぁ、そうだね。適当で行こうか。どうせお茶を飲みながら話しているだけなんだから」
先輩は紅茶を飲みつつ、優雅にお茶請けをつまんでいる。
僕も少しだけお茶請けのクッキーをつまみながら、聞き手に徹する事にする。
「で、だ。そこらへんの話を探っていると、ある話が出てくるんだ」
「というと?」
「あぁ。……シャルル9世が元は3月末を新年の始まりとする所を、1月1日……つまるところ、私達日本人でいう元旦に設定することにしたらしいのさ」
「……それがどう関係してくるんです?」
「いやいや、重要さ。最重要とも言ってもいいぐらいには重要なのさ。この情報は」
僕は首を傾げながらも、一本懐から取り出し先輩に許可をとってから火を点けた。
隠れて吸っていたわけでもないが、最近は先輩まで吸い始めたために自重する意味も薄いかなと思っている。
正直な話、先輩対策で始めたコレを普通のタバコと一緒にされても困るといったら困るのだが。
「何が問題って、それらを知っても反発する人が居るって所さ。分かるだろう?」
「成程、どの組織、社会にもいる反対勢力って奴ですね。主に少数派、時に多数派になるタイプの」
「そういうこと。彼等はそのまま何故か4月1日を嘘の新年として囃したてたのが始まりって言われてたりするのさ」
「……ふむ、反対勢力の言がそのまま歴史に残った説ですか。まるで……」
言霊のようですね、と言おうとして。
先輩の顔を見てそのまま口を噤んだ。
僕は恐らく、未来に何度この場面を思い返しても……何故彼女がそんな表情をしていたのか分からないままなのだろう。
「中々、興味深い話でした」
「だろう?もしかしたら世の中には、相手に嘘をついてそれを現実化するくらいの魔術を使う奴もいるかもしれないね」
「どうでしょう。そういった輩が居たらそれこそすぐにネットワークで知らされるので、恐らくまだ居ないかと」
「そりゃよかった。チートにも程があるぜ」
そういって、僕たちは今日の片づけを始める。
今宵も月は、明るい。




