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カニバル先輩と魔女後輩  作者: 柿の種


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Story 9 【歌と言霊】


今日は少し遅れてしまった。

そう思いながらもいつもの場所へと駆け足で向かうと、それは聴こえてきた。


「~~~」


誰も居ない墓場。

その中心で空に浮かぶ月を見上げながら、彼女は小さく歌っていた。

誰かに聴かせるためのものではなく。されど、聴いている者を魅了するようなその音色に少しだけ心を奪われかけ……僕は首を横に振った。


「先輩」

「~~~……っと、遅かったねぇ。どうしたんだい?寝坊かな?」

「まぁそんなものです。というか、先輩って歌上手かったんですね」


そう言いながら僕は茶会の準備を進める。


「いやぁ、そうかな?上手いって言われるのはお世辞でも悪い気しないねぇ」

「お世辞じゃないですよ。ただ……」

「ただ?」


一旦手を止めて、先輩の顔をキチンと見ながら僕はこう言った。


「先輩は人前でもう歌わない方が良いかもしれませんね」

「……また突然だね。あれかい?『これからは僕の目の前だけで歌ってください』とかいう新手の告白か何かかな?」

「告白ではないですね。ただちょっとだけ危険かな、と思いまして」

「ほう」

「まぁとりあえず座りながら話しましょう」


指を鳴らし椅子を出現させて、いつも通りの茶会が行えるように準備をした後。

僕は何から話すべきかを考え始めていた。




「とりあえずですね、先輩って言霊ってものは知っていますか?」

「あれだろう?言葉に力が宿ったりとかそんな感じのものだろう?」

「……まぁ大まかには合ってます。元々は、えーっと確か声に出した言葉が現実に影響するモノを言霊と呼んだはずです。こっちの界隈(・・・・・・)では諸説あったりするんですけどね」


紅茶を一口だけ口に含む。

……うん、今日も上手く淹れられたな。

少しだけ思考を今話している話題から横道に逸らす。

真面目になりすぎても目の前の彼女(曲者)は話半分にしか聞いてくれない。

ならばある程度こちらも余裕をもって話した方が良いだろう……というのが最近の自論だった。

と言ってもだ。その効果を実感できないのであれば意味がないのだが。


「ふむ、話は見えてきた。……ただ一応聞いておこうか」

「どうぞ」

「言霊と私の歌の話の関係性について、かな。ある程度予想できるけど、試験じゃないんだし答えを教えてもらっても構わないだろう?」

「そうですねぇ……まぁ簡単に言うとですね。先輩の歌に魔力が乗り始めてるんですよ」


そう、魔力。

言霊という概念は確かに日本には古くから存在していたモノだ。

口に出せば悪い事が現実に起きる……とか。その種類も色々だが、少なくとも昔も今も使われる言葉ではあるはずだ。


「成程。でもこうやって話している時には乗っていないんだよね?」

「はい。ただ歌というものは言霊と同じように昔から魔術に用いられてきたものでもあるんです」

「あー……神道でいう祝詞とか?」

「そうですそうです。昔から歌……というか音楽というものは人々を魅了する力がありました。この力ってのは魔術に関係ない、芸術としてのですね」

「あぁ、確かに。良い曲とかを聴いたりするとうっとりする人とかいるよね」


先輩の言葉に頷きつつ、話を整理するために頭の中で整理を始める。

脊髄反射、というか。あまりよく考えずに言葉を紡ぐ癖がある所為か、あとから自分で言った事を考えてまとめないといけない場合が多いのだ。


「過去の魔女達はそういった所に目をつけて、音楽の……例えば楽器や楽譜なんかに魔術的な意味を持たせるようにして音自体に魔術的効果が出るようにしていったんです」

「それが現代でいう祝詞とかそういうのになってると?」

「そういうことです。まぁ今魔女じゃない人が祝詞とか歌った所で、魔術は発動しないんですけどね」


ただ、と前置きをして先輩の目をしっかりと見る。


「先輩は違います。前々から言っているように、先輩は既に人の道から外れた化物側……言わば、僕達魔女に近い存在なんです」

「おや、魔女は化物だったのかい?こりゃ驚きだ」

「不可思議な力を制御して行使し、必要とあれば人殺しすら厭わないモノが『化物』じゃないわけないでしょう。そういった意味では、先輩と僕は同類なんですよ」

「はは、でも私はその『同類』の枠からも一歩踏み外してるんだろう?」

「まぁそうですね。魔女は人の心を持ち合わせてはいませんが、人は喰らいませんから。禁忌の中でも忌避されるものですし」


いけないいけない。少しまた話が脱線してしまったようだ。


「まぁそれはまた今度話しましょう。……とまぁ、見たところ先輩は意識して使ってないみたいですけど、魔力を普段から割と使っているっぽいんですよね」

「……本当?実は私も魔女になれるかな?」

「なれませんし、僕が認めた所で他の魔女が認めませんよ。……人を殺す時や解剖するとき、いくら業物であったとしてもそんな普通の包丁で人の骨や筋肉を砕いたり裂いたりするのは一苦労するものなんですよ」

「あー、成程?言われてみれば苦労した記憶がないね。アレ魔力の仕業だったのかい?『プロは道具を選ばないって言葉もあるし、私もプロになったかな?』とか思ってたんだけど」

「多分、無意識で包丁に魔力を纏わせて強化してたりしたんでしょうね。恐らくですが……歌にもそれと同じように無意識に魔力を乗せてるんでしょう」


うーん……と言いながら、先輩は今日のお茶請けであるクッキーを頬張りつつ月を見上げる。


「ちなみに、歌に魔力を乗せる事によって引き起こる可能性がある現象って何があるんだい?」

「先ほども言った通り、優れた音楽は人を魅了します。……つまりは」

「あぁ……そういう事ね。歌を聴いた人が文字通り魅了されちゃうわけか」

「ですです。流石に普通の歌手とかなら五月蠅くは言わないんですけど……カニバル先輩ですから」


魂を込めている作品は人を魅了する。

しかし、それは本当に実力があって……魔力なんかで無理矢理に人の心を操っていない本物の芸術だ。


だが、先輩の歌は……先ほど聴いた誰に聴かせるものでもない小さな歌はそれとは違う。

魔性の歌、人を惑わす歌。

そして最後にその魂まで喰らいかねない危険な歌だ。

先輩もそれが分かっているのか、僕の言葉を静かに聞きつつ紅茶に口をつける。


「……先輩」

「なんだい?」

「歌いたいですか?」


目を見開き、少しだけ彼女は笑う。


「おいおい、君が人前では歌うなって言ったんだぜ?無意識で魔力が乗るってことは、乗らせないようにする術……を……ってまさか」

「えぇ。練習しませんか?魔力を扱う練習」

「君はやっぱり馬鹿なのかい?いずれ狩る事になるかもしれない相手にそんな技術を教えたら厄介になるだけだぜ?」

「馬鹿なんでしょうね。ただ、まぁ……僕もまた聴きたいし好きですから。先輩の歌」


その言葉に先輩は少し呆気にとられたように口を開閉させた後、目線を逸らしながらこう言った。


「あんまりそう言う事、女性に言うの止めた方がいいぜ?」

「?」

「しかも分かってないのか……天然ってのは怖いな」


何故だろうか。

呆れたような顔をしながらこちらを見てくる先輩は、いつもよりも少しだけ嬉しそうに見えた。


「君がそう言ってくれるなら、その言葉に甘えるとしようか」

「じゃあ明日からやり始めましょうか。今日はもうそろそろ夜が明けますしね」

「あぁ、そういえばもうそんな時間か」

「厳しくいきますからね、カニバル先輩」

「お手柔らかにね、魔女後輩」


ほぼほぼお決まりとなっている挨拶を交わし、僕達は解散する。

僕とは反対方向に歩いていく彼女の背中は、いつもよりも少しだけ嬉しそうに見えたのは……恐らく僕の気のせいではないだろう。


実は、毎話「Story ○○」以外にタイトルというか副題というか。そういったものをつけてたりします。

例えば今回で言えば「Story 9 歌と言霊」だったり。


需要がありそうだったら、今度から話数と一緒にいれようかなって考えてるんですけどどうですかね?

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