此処に置かれた花々は。
手を合わせる。
目の前を、列車が通り過ぎていく。
足元には真っ白い花束。
今、僕が置いたものだ。
彼女のために。
花屋は何という花だと言ったか。
『アツモリソウ』みたいな変な名前だった気がする。
目をつぶる。
彼女は、3年前事故で死んでしまった。
なんてことのない、人身事故だ。
大学で一緒の同い年の女性だった。
ちょっとしたことで話すようになり、まぁ雑談をするような仲だった。
お互い、恋愛感情なんてものはなかった、と思う。
よくわからない。
どんな人かというと、一言で表せば―――よくわからない人だった。
なんというか、一つ一つの言葉が深い気がした。
うまく言葉で表すことができないが、不思議と引き込まれる、そんな人だった。
……もっとあの話を聞いていたかった。
それが僕の偽りない本心だ。
彼女が死んでも、涙一粒零すことのできなかった僕だけれど。
彼女が逝ってしまったのは残念だ。
ふと、花束に目をやる。
彼女は電車にひかれて、死んだ。
警察によると、誤って線路に飛び出したとかなんとか。
だけど、僕は知っている。
彼女は、そんな変なミスをしない。
そうだ、あり得るとしたら―――自分で飛び出した、とか。
何か、生きていくのが嫌になることがあったのだろうか。
もう真実は闇の中だ。
もし、苦しんでいたのなら。
彼女がどれだけの痛みを抱え、背負って悩んで苦しんだのか 。
例えば、今此処に置かれた花に 、白々しく手を合わせる僕に解るのだろうか。
救えたのだろうか。
分からない。
彼女によく言われた。
『あなたは感情というものを、いつかは理解できるようになるでしょう。その時は、自分という存在のことが、人間という存在のことが、きっとわかると思うわ。』
何が言いたかったのは、まったくもって分からない。
ただ、感情がわかってない、ということが分かった。
いつか分かるのだろうか。
彼女が死んでも何も世界は変わらなかった。
世界は廻り続ける。
僕は目を開けると、そこから立ち去った。
アツモリソウ。
その花言葉は、『あなたを忘れない』。
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