第3話.部屋を後にした
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「勇者なんぞと呼ばれて調子に乗りおって!つけ上がるなよ小僧!」
どうやら国王の方はルナと違い感情を隠すことはしないらしい。
「近衛兵!この愚か者に立場というものを教えてやれ!」
近衛兵と呼ばれた全身鎧の兵士が一定の距離を開けてまわりを囲む。
「ま、待って!お父様!止めて下さいまし!」
「黙っておれ!何が過去の記録によるとだ。お主らの話とは違っておるではないか」
「そ、それは…」
「下手に出るから見くびられるのだ。舐めた奴等は力を見せれば物分かりも良くなるというものよ」
ルナが止めに入るが一蹴されて黙り込む。
“過去の記録”というのは気になるが、もう少し頑張ってほしかった。まあ、自分で撒いた種でもあるため仕方ない。
それに帰る方法は魔王が知っていると言っていたし、なら、帰る為にも試しにこの武器を使ってみる必要がある。というか、
―――理由なんて無くても使ってみたい!
なんだかんだ言って男の子である。聖剣なんて呼ばれる物があれば使ってみたくなるのが男の性だ。
ステータスの説明によれば、この聖剣は魔力を流すことで他の武器に変化するらしい。
柄を握った右手に魔力というものを集めるイメージをする。
実はステータスと念じたときに、体の中心から頭に向かって何かが集まっているような違和感をあった。おそらく、それが魔力なのだろう。
確証がないため確認出来れば良かったのだが、質問したところで答えが返ってくる空気ではない。一か八かやってみるしかないだろう。
そんな訳でやってみたが、何だか上手くいったみたいだ。体の中心から右手に集まる感じがする。元々無かったものなのだから、それが移動するのが違和感として感じられて分かりやすい。
この集めた魔力をどうやってセプタレムに通すかが問題なのだが、変化させたい武器を想像すると、勝手に流れていってる感じがする。
魔力が流れ出すと直ぐに止まり、柄が白く光りだす。おそらく、これで他の武器に変わったんだと思う。まあ抜いてみれば分かる。
そんなことをしている間にも武器を構えて包囲しているが、まだ襲ってこない。こちらも武器を出すのを待って力の差を分からせるつもりなのだろう。
それをありがたく思いながらセプタレムを鞘から抜く。すると、柄だけでなく刀身も白く眩く光ってその姿を見ることは出来ないが、鞘から抜き終えると光もおさまり武器が顕になる。
「何が出るかと思えば、なんだ、その武器は。勇者と言っても所詮は無知な子供よ。棒切れとは笑わせる」
国王はそう言って鼻で笑い、兵士たちも馬鹿にしたように笑っている。国王が言う棒切れとは木刀のことだ。
俺はそれを見て心の中でほくそ笑む。
―――普通は木刀で打ち合えるとは思わないよな
そう、普通の木刀なら、鉄の武器を持ち鎧を着た集団に折れるかもしれない。だが、これはセプタレムが変化したもの。つまり
―――この木刀は折れるどころか傷つくことすらない!
それに相手が油断してくれる方がいい。スキルで剣を持つと補正が働くみたいだが、どのくらい効果があるかが分からない。
「跪いて許しを乞うなら考えてやってもいい」
国王はそう言うが、そんなつもりはない。黙ってセプタレムを構え直す。
「ふん、自分の状況も分からぬ馬鹿が。近衛兵、さっさと終わらせろ」
国王の言葉を合図にしたように、兵士の1人が剣を打ち込んでくる。が、フェイントもなく真っ直ぐ振り下ろすだけなので簡単に避けられる。
すれ違いざまに胴打ちをする。
「ぐっ…」
「…え?」
胴打ちした兵士が呻き声をあげて蹲る。
―――あれ?どうやら強く打ち過ぎたようだな…
気を付けよう。
すぐに槍を持った他の兵士が胴体を狙って突きを放ってくるが、今度は右斜め前に一歩踏み込んで槍を避けると同時に入り身投げをする。その兵士は上手く受け身が取れずに頭を打って気を失う。
―――…これってもしかして…
さっきもあまり力を加えた覚えはない。逆に思ったよりも動けすぎて胴打ちも入り身投げもタイミングを少し外したくらいだ。その結果がこれなのだから、補正が高過ぎるとしか言いようがない。
―――補正さん、働き過ぎじゃないですか…?
「何をしている!いくら勇者といっても剣も握ったことがない子供だ!さっさと終わらせろ!」
一連の流れを見ていた国王が苛立って叫ぶ。兵士たちは殺気立ち、その後ろでは魔術師たちも何かの呪文を唱えだす。
「そう簡単に終わってたまるか」
残念だが、元の世界では師範の亜里沙さんは勿論のこと、睡蓮にも扱かれてきたし、稽古とはいえ真剣だって握ったことがある。そこらの奴等と同じだと思うなよ。
魔術師の呪文が唱え終わると、またしても1人の兵士が剣を持って突進してくるが、さっきまでの動きとは違う。剣を振る速さもキレも何もかもが桁違いだ。意識を変えただけで出来る動きではない。魔術師が唱え終わってからという点から、身体強化の魔法なのだろう。
だが、対応出来ないわけではない。こんなことを考えながらも相手の剣を捌いていく。
相手は焦れて大きく振り下ろすが、それを避けて更に上からセプタレムで叩いてバランスを前に崩させる。そこから後ろに回って背中を押すと、仲間の兵士に向かって転がっていった。
補正が高いこともあり、むやみに体に攻撃を当てて死なれても困る。こっちはまだ補正されまくってるこの身体能力に慣れていないんだ。
兵士を転がすと同時に、今度は3人の兵士が襲ってくるが、これも何事もなく捌くと一人ずつ対処していく。対処するといっても、他の兵士に向かってさっきと同じように転がしたり入り身投げや腰投げで投げ飛ばすだけなので、すぐに復活して次から次へと入れ替わり立ち代わり攻撃してくるため限りがない。
暫くこのような攻防が続き、国王からは罵声が飛び、ルナや魔術師たちはハラハラしているのが伝わってくる。
いつ終わるのかと思っていると
「はっはっは!今回の勇者はだいぶん期待出来るじゃないの!」
国王の近くに立っていた、がたいのいい男が唐突に笑い出す。
「ユーグ王!そろそろ良いのではないですか?これ以上続ける意味もないでしょう。勇者はその身で力があることを示しています」
「私もそう思いますな」
「お、お父様!御二方もこう仰っておりますし、もうお止めになっても宜しいのではないでしょうか!」
男がそう言うと、教皇風の男とルナもそれに続ける。
「2人がそう言われるなら…。両者武器を収めよ!」
兵士たちは武器を収めて包囲を解く。こちらもセプタレムを鞘に収めるが、いつでも対処出来るように魔力を集めた右手を柄に掛けておく。
「では、彼は我らアベンテュラ国で預からせてもらう!それで宜しいですかな?」
「…仕方あるまい」
「レリギオ教国も異論はございませんな?」
「ええ、それで良いかと」
がたいの良い男が国王と教皇風男の2人に確認をとると、こちらを向き近付いてくる。離れて見ていても思ったが、筋肉質の大きな体をしている。
「ユウトとやら、剣技、見事だった。俺の名前はハンス=レオン。これから暫くはアベンデュラ国がユウトの手助けをさせてもらう。よろしくな」
「こちらこそ、よろしく頼みます、レオンさん」
「レオンはよせよ。ハンスって呼んでくれ」
「分かりました、ハンスさん」
手を差し出してくるので、ハンスさんの手を握る。ハンスさんも手を握り返してくる。ゴツゴツした硬い手だ。
「それでは、我々はここで失礼させていただきます。ユウト、俺についてこい」
俺はルナたちを一瞥すると、ハンスさんについて後ろの扉からそのまま部屋を後にした。
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