第1話.Title 勇者
本編始まりますm(_ _)m
「やった!成功です!」
「うむ、皆の者、よくやった」
睡蓮以外の、聞き覚えのない声が聞こえてくる。
眩しい光が収まったため腕を退けて目を開けると、そこは全く知らない部屋であった。
部屋と言っても一般的な家庭のそれとは比べ物にならず、ぱっと見でも高校の体育館より広いのではないかと思われる。
いきなり見知らぬ場所に移動して訳が分からず混乱しかけたが、気持ちを落ち着かせて回りを観察する。
―――慌てるな、観察せよ。そして考えろ―――
睡蓮の家の道場でよく言われている言葉である。ここでパニックを起こして無様な姿を晒すようでは笑われてしまう。
始めに部屋の内装を見る。
一際大きいシャンデリアが天井の中央からぶら下がり、一回り小さい物が複数ある。
床には縦に長いカーペットが敷いてあり、離れていても大きいと分かる後方の両開き扉から前方の床が一段高くなっている所まで続いている。肌触りも良さそうで、素人目でも非常に高価だと窺える。
部屋の壁や柱は白い石で出来ているが、大理石だろうか。
一段高くなっている床の上には、これもまた大きな椅子が3つ置いてあり、派手だが見ていて嫌な感じはしない。
―――豪華絢爛とはこの事か…
と内心で呟く。
次に人を見る。
まず勇人を囲んでいるローブを羽織った人が10人。更にそれを囲むようにして全身鎧を纏っている人が10人。
前方の椅子に厚手のマントを着て王冠を被って座っている男性、その斜め後ろに綺麗なドレスで着飾って立っている女性、女性と反対の椅子の斜め後ろに立っているバチカンの教皇のような格好の男性がそれぞれ1人ずつ。彼等は高貴な存在であろうことが見てとれる。
着ている服は彼ら3人に劣るが、それでも高そうな服を着たがたいの良い男が1人。
高貴な3人を護るようにして騎士の様な格好の男性、女性が合わせて3人。
最後に自分の格好を確認する。
服装はここに来る前のまま。腰には剣だろうか、鞘に入ったままの状態でぶら下がっている。
腰に提げている剣に見覚えがない。そのため柄に手を掛けて確認しようとした。
すると、回りのローブを羽織った人達が急いで後ろに下がり、鎧の人達が武器をこちらに向けて慌ただしくなる。
それを見て剣を鞘から抜いて構える。両者の間に緊張が走る。
この多対一で囲まれた状況で、どうやって脱け出すか考えながら機会を窺う。
―――まずいな…。複数人相手の立ち回りは経験はあるが、流石にこの剣1本で全身鎧はキツイ。せめて屋外なら…
額から汗が一筋垂れ、いよいよ後ろの扉の方へ討って出るか、と思われたとき、
「待ってください!」
そう叫んで、先程から椅子の後ろに立っていたドレスの女性が歩み出てくる。
「皆さん、武器を仕舞って下がってください。ここからは私が対応致します」
「姫様!危険です!」
「大丈夫です。それに、武器を持っていない女の私の方が勇者様も安心でしょう?」
「…分かりました。お気を付け下さい」
「ええ、ありがとう」
騎士の1人とそんな会話をして、姫と呼ばれた女性が目の前まで来る。
遠目でも綺麗な人だとは思ったが、近付いて来たことで顔立ちが整っているのがはっきりと分かる。
それでも一応は警戒して武器を構えたままでいる。
「そんなに警戒なさらないで。あなたに敵対する気は御座いません」
女性は困ったように笑うと、ニコニコと笑顔でカーテシーの様にドレスの裾を両手で摘まんで挨拶する。
「初めまして、勇者様。私は【ゲルトン王国】第1王女“ルナ・ヴィ・ゲルトン”と申します。玉座に座っておられるのが、第66代国王であり、私の父でもある“ユーグ・ヴィ・ピティス=ゲルトン”で御座います。この度は魔王討伐の為の召喚に御応えいただき、感謝の念に堪えません」
初めての体験だが、この状況には覚えがある。
―――これが所謂“異世界召喚”というやつか…
睡蓮が何事も経験だと、この手の小説も読むことがあり、いくつか一緒に読んだことがあった。
つまり、ここは元いた世界ではなく、更にこの部屋の内装と国王がいるという点から考えて、【ゲルトン王国】という国の王城、または王宮だろう。
しかし、分からない事がある。それは、この“ルナ”と名乗った女性の考えだ。
まだ16歳と若いが、これでも人を見る目は持っているはずだ。
亜里沙さんがとても顔が広いようで、睡蓮と共に連れられて片や政治家から、片や新興宗教の教祖まで、様々な職種の人達と会って話をしたことがある。
だが、ルナからは何も感じない。好意もなければ、さっき言ったように敵意も感じない。
余程隠すのが上手なのか、それとも何も考えていないのか…。
まだ納得出来ないが、一旦受け入れてみないことには分からない。
「なるほど、ある程度この状況について理解出来ました。しかし、ゲルトンさん」
「貴様!“様”を付けないとは不敬なっ!」
話の途中で全身鎧の内の1人が怒鳴ってくる。怒鳴って迫力はあるが、怒気を感じない。
「大丈夫ですよ。けれど勇者様、私のことは“ルナ”とお呼び下さい」
「ではルナさん」
「ルナ、と呼び捨てで結構ですよ」
名前の呼び方など今はどうでも良いが、まだ現状を完全に把握出来ていない内から気安く呼び捨てにするつもりはない。
それよりも、話がなかなか進まない。
「いえ、このままで…。それで、話を続けても構いませんか?」
「むぅ、仕方ありませんね。お話はどうぞ、続けて下さい」
少し唇を尖らせて可愛らしい仕草をしているが、やはり何かを感じ取ることは出来なかった。
先程から彼らの行動と実際の感情が一致していないようで、台本のある演劇を見せられている感じがして気持ち悪いし、イライラしてくる。
「では、貴方方と此方の認識の違いから…。まず、自分の聞き間違いでなければ召喚に応じたと聞こえたが、応じたつもりはない」
相手は初対面だし言葉遣いに気を付けてはいたが、思わず少しキツイ口調になってしまった。かと言って、直すつもりもない。
ルナはこの口調に何かを感じたのか少し動揺したようだが、感じ取ることが出来たのは一瞬で、すぐにそれを笑顔の下に隠した。
ーーーこいつ、感情を隠すのが上手い…
警戒の度合いを上げながら続ける。
「いきなり光りに包まれたかと思うと気付けばここにいたんだ。俺は望んでここに居る訳じゃない」
そう言った途端、ルナから笑顔が消え、表面上は不安そうな顔をして目を潤ませる。
「そもそも魔王とやらについても知らないし、まずは自分たちでどうにかするべきだろう」
「そ、そんな…。魔王の誕生から600年。魔王は幾人もの罪無き民を殺してきました。討伐軍を編成した王もいましたが、結果は無残なことに…。私達はその恐怖に長い間苦しめられているのです。そんな私達にとって唯一といえる希望が勇者様!あなたなのです!」
ここからの流れはなんとなく分かるが、言うことは言っておかなければいけない。
「それこそ無理な話だ。そんな強力な魔王と戦う力もなければ理由もない。元いた場所に還してもらおうか」
「戦う力については問題ありません。異世界から召喚された勇者は、女神様からの恩寵により魔王と戦うに相応しい武器と力を与えられます」
武器といえば手に持っているこの剣のことだろう。
「お察しのことかと存じますが、そちらの剣がそうです。女神様から戴く剣は全て聖剣とされており、何の変哲のない見た目の物でも、その内にはとても強力な能力が隠されております」
「なら、この剣の能力は分かるのか?」
「勇者様により剣の形は様々ですので分かりかねますが、ステータスでご確認いただけます」
「どうすれば確認出来る?」
「ステータスと念じていただければ」
異世界からの召喚がある時点でなんとなく察してはいたが、やはりこの世界はファンタジーか。
心の中で「ステータス」と唱えると、脳の中に直接表示されているような感じで自分の状態が一覧で分かるようになった。
楠木 勇人
State
???
Skill
魔力生成、魔力の器、精神異常無効、観察眼、剣術、弓術、槍術、薙刀術、合気術
Magic
火属性、水属性、地属性、空属性、光属性、闇属性、聖属性
Weapon
聖剣セプタレム(ノーマル)、魔法の鞘ヴァサナ
Armor
異世界の鍛錬着
Title
勇者
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