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飲み込まれていった

 プロローグ続きですm(_ _)m

 その日の放課後、勇人と睡蓮はいつものように2人で帰路につく。いつもと違うのは互いに手を繋いでいることか。


「今日も道場に来るでしょ?」


 勇人も睡蓮と同じく道場で亜里沙を師範とし、色々と教わっている。現在は剣道と弓道、槍道、薙刀道、合気道をしており、亜里沙の許可が下りれば、高2から柔道を教わるつもりだ。


「ああ。家に帰って家族や亜里沙さんに恋人になったことを報告してからだけどな」


 勇人の恋人という言葉に改めて意識したのだろう、睡蓮の頬にわずかに赤みが差す。


「そういえば恋人で思い出したけど、坂上先輩や谷本さん達はいいの?」

「…どうして?」


 睡蓮の口からその名前が出てきて、勇人は少しドキリとした。


「私知ってるんだよ?勇人が色んな人から告白されてること。まずは生徒会長の坂上先輩と生徒会書記の七條先輩でしょ?同級生では明石さんと谷本さん、クラス委員長の宮城さん。後、一つ後輩の中野さんと…」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!なんで睡蓮がそんなに知ってるんだ?!」


 確かに彼女たちに告白された勇人だが、睡蓮に知らせた覚えはない。にも拘らず挙げられる名前の数々。どうして睡蓮が知っているのかと焦る。


「だって、勇人は“他に好きな人がいるから”って断ってるんでしょ?」

「あ、ああ」

「その後に私のところに来るんだよ。“勇人にフラれたけど諦めるつもりはない、振り向かせてみせる”ってね」


 勇人は告白される度に好きな人がいるからと断ってきたし、睡蓮が好きなことは全く隠してこなかった。普通に考えればそれが睡蓮の事だと分かる。


――――だからって睡蓮にわざわざ言う必要ないじゃないか!


 所謂“宣戦布告”ってやつか、と勇人は頭を抱えた。


「モテモテだね。これがハーレムってやつ?」


 何人かから好意を向けられたからといって、睡蓮に対して勇人が如何に真剣かというのを疑われては困る。


「た、確かに8人に告白されたし今も時々アプローチ的なこと受けてるけど、俺はずっと睡蓮一筋だからな!」

「私が知ってるのは8人じゃないけど?」

「い、いや、13人だったかな…」

「へえ、13人もいるんだ…」


 そう言って睡蓮が目を細める。


―――しまった、鎌を掛けられた!


 そう気付くも時既に遅し。


「い、いや、それは…」

「それにアプローチ、ねぇ?」

「…」


 勇人の顔がだんだん青くなっていく。何も後ろめたいことはしていないはずなのに、告白した時とは違う意味で心臓がバクバク言っている。


「…ふふっ、冗談だよ!」


 睡蓮が悪戯が成功したというように笑う。勇人はそれを見て胸を撫で下ろした。


「心臓に悪いよ、本当に…」

「ふふっ、ごめんね」

「そういう睡蓮はどうなんだよ?容姿端麗で頭脳明晰、運動もできて性格も良い。更には料理も美味いとくれば誰も放っておかないだろ」


 睡蓮の家は母子家庭で、時々亜里沙が家を空けていて睡蓮一人の時がある。その場合は勇人の家で食事をするのだが、その時は勇人の家の台所に勇人の母親だけでなく睡蓮も立って料理する。

 小さい時からずっとしてきたこともあり、睡蓮の料理の腕はとても良い。特に柑橘系のモノを使うのが非常に得意で、勇人は柑橘系の料理は睡蓮が作ったモノ以外は食べない程だ。


「それは褒め過ぎだよ」

「そんなことはない。全部事実だし。それよりもどうなんだよ?」

「告白は過去に勇人にされた一回だけだよ」


 今回の告白は実は2回目で、小学生の時に勇人は一度睡蓮に告白している。

 その時は「まだ早い。もっと自分を磨いてから」と断られ、ならばと「睡蓮と並んで歩けると思えるだけの実力を付けたらもう一度告白する」と宣言した。


「ホントかぁ?」

「本当だよ。誰かさんのせいで、私に告白しようものなら正成(まさしげ)が飛んでくるぞ!って」

「うっ…。それは、何というか、申し訳ない」


 正成とは“楠木(くすのき)正成(まさしげ)”のことで、鎌倉時代末期から南北朝時代にかけての武将である。

 特に繋がりについては聞いたことはないが、ただ単に苗字が同じというだけで、勇人を皮肉ってそう呼ぶ時がある。


「ま、そんな訳で私が告白されたのは勇人と違って1人だけ」

「お、俺だって睡蓮一筋って言うのはホントに本当だからなっ!」

「分かってるよ」


 睡蓮は苦笑いしながら、焦っている勇人を宥める。


「勇人、私も好きだよ」


 そう言って睡蓮が勇人の頬にキスをする。突然の事に呆然とする勇人。


「な、なあ、今のって」

「はて、何のことか分かりませんなぁ。ほら、早く帰るよ!」


 自分からしながら頬を赤くして誤魔化す睡蓮。それから勇人を急かすと早歩きで家路を進んでいった。




 勇人は家に帰ると早速母親に睡蓮と恋人になったことを報告した。母親は大喜びですぐに外出している家族に連絡を入れると、“こんなに目出度い事はない”だの“今日は赤飯だ”だのとはしゃいでいた。

 そんな風に喜んでくれる母親を嬉しく思いながらも恥ずかしく感じて軽くあしらうと、自分の部屋に行って道場に行く準備をする。


 部屋で道着と袴を穿くと、木刀と(じょう)、短刀が入った布袋を持って隣の道場に向かった。今日は合気道の稽古をする予定だ。

 道場に着くとまずは亜里沙に挨拶するべく探すが見つからない。睡蓮に聞くと、今日は急に予定が入ったため出掛けていないらしい。


 仕方がないので、睡蓮が着替え終わるのを、準備体操をしてから木刀で稽古の型を確認しながら待つ。

 睡蓮が着替え終わると、道場でお互いに向かい合って正座する。


「ねえ、勇人」

「ん?」

「本当に私でいいの?私に付き合うとなると、相当苦労するよ?」


 唐突に睡蓮が少し不安そうな、申し訳なさそうな顔できく。


―――睡蓮は少し謙遜が過ぎるところがあるけど、そこも可愛いんだよな


 勇人はそんなことを考えながらも、答えは既に決まっている。真剣な顔をして睡蓮の目を見て言う。


「ああ。“睡蓮といる”、小さい時からそう自分で選んで決めてたんだ。今更揺るぎはしないよ」

「…本当に勇人はカッコいいよ、私には勿体無いくらいに…。本当にありがとうね」


 睡蓮は勇人の言葉で本当に嬉しそうに笑った。勇人は勇人で睡蓮にそう言われて照れてしまう。

 しかし、いつまでもこうしているわけにもいかないので、稽古をする前に準備体操をする。それを終えると、正座して瞑想を始める。


 瞑想を始めて1分くらい経った頃だろうか。突然、瞼を閉じていても分かるくらいの光を感じ、目を開ける。


「な、何だこれ!?!?」


 下を見ると勇人を中心として魔法陣のようなものが浮かんでおり、驚いて立ってしまう。その間にもどんどん光量は増していく。

 光が一段と眩くなり腕で顔を隠すようにして庇う。もう目を開けていられないくらいの光の量に、目を閉じる瞬間に睡蓮の方を見ると目が合った。

 そんな睡蓮は、突然の事に対する驚きよりもなんだか、悲しそうな、寂しそうな、泣きそうな顔をしている気がした。


 勇人はそのまま光に飲み込まれていった。

 ご意見・ご感想がございましたら、宜しくお願い致しますm(_ _)m

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