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第151話 思ってもみなかった試験官

大変お待たせしました。

 そしてガウェインにとって運命の日がやってきました。

 

 残った他の二人、ヴァイスやリーラに比べればどうしても実力で劣っているのは否めません。

 それは本人も重々承知していることでしょう。

 左隣に座っているガウェインはジッと己の手を見つめています。

 

「緊張していますか?」

「……していないといえば嘘になります。でも、俺なりにやれるだけのことはやってきました。後は今までやってきたことの全てを出し切るだけです」

「ふふ、そうですね。頑張って下さい」

「はいっ!」


 ガウェインの瞳から不安や気負いといったものは感じられません。

 どんなに苦しく厳しい試験であろうと、ガウェインならきっと乗り越えてくれると私は信じています。


 その時、教室の扉がガラリと音を立てて開きました。


「皆さん、集まっているようなのです。では、そのまま聞いてほしいのです」


 現れたソフィアの一声で、フィナールの教室にいた皆が同時に私語を止めました。

 そんな私たちを見回しつつ頷いて、ソフィアは満面の笑みを浮かべながら告げました。


「最終選考者三名は、今すぐ校庭に集合するのです。他の皆さんは自習――以上なのです」


 ソフィアの言葉にヴァイスとリーラ、そしてガウェインが席を立ちました。

 そしてそのまま教室を出ていきます。

 間際、ガウェインが目配せで行ってきますと言っているのが目に入ったので、にっこり微笑んで拳を突き出すと、ガウェインも拳を突き出してきました。


「勝ち残ることが出来ると思う?」

「試験の内容、それと合格基準にもよると思います」

「基準……?」


 リーゼロッテが首を傾げます。


 相手を倒す、最後まで立っていればよいといった勝ち負けの基準がはっきりしているのであればそれに合わせた戦法をとればよいだけです。

 そのことを伝えると、リーゼロッテは「なるほどね」と呟きました。


「でも、それって結局相手次第ってことよね?」

「その通りです」

「アデルは何も聞いていないの?」

「残念ながら。リーゼは――その様子では知らないようですね」

「ええ」


 この学園で三人の相手が務まるような者はシュヴァルツくらいしか思い浮かばないのですが、当の本人は本を片手に教室の席に座っています。

 シュヴァルツでないとすれば、いったい誰が……?

 気になった私は窓側の席に向かいます。


 外を見ると、誰もいない校庭にヴァイスとリーラ、ガウェインが整列していました。

 待つこと数分……やってきた人物の姿に、私は眉を(ひそ)めました。

 一人はモルドレッド学園長。それはいいのですが、もう一人は……。


「皆、楽な体勢にしてほしい」


 モルドレッド学園長の言葉に対し、三人は姿勢を緩めることなく、むしろ警戒しているように問題の人物を見ていました。


「それでいい。見知った者の言葉で簡単に警戒を解くようなら、試験するに値せんと失格にするところだったぞ」


 あれは……カエサル・デル・ヴァルダンブリーナ。

 なぜ彼がここにいるのでしょうか。

 

 最後に会ったのは国別異能対戦が開催されたオルブライト王国でしたか。

 しかも、会ったといっても会話をしたのは数える程度。

 その殆どは対戦中でのことです。

 "クリファ"のことを話した覚えはないのですが……。


 その時、再び教室の扉が勢いよく開きました。


「フハハハハ、余、参上!」

「シャル!?」

「うむ! 久しいな、リーゼ」


 驚くリーゼロッテに、手を上げながら近づいてくるシャルロッテ。

 校庭の様子も気になりますが、まずは挨拶が先でしょう。

 私はシャルロッテの前に歩み寄ると、胸に手を当てて一礼します。

 リーゼロッテと婚約している身ですから、以前のように手の甲に口づけをするというわけにはいきません。


「お久しぶりです、シャル様。ご機嫌麗しく、お元気そうで何よりです」

「うむ! 其方も元気そうだな。どうだ、リーゼに飽きてはおらぬか? 余の隣は其方のために空けておる故、いつでも申すがいいぞ」

「なっ!?」


 更に驚き目を見開くリーゼロッテの顔が私に向けられます。

 いやいや、私がそのようなことをするはずがないでしょう。

 ここは何よりも言葉と行動で示すのが一番と判断した私は、先ほどよりも深めにお辞儀をします。

 

「申し訳ございません。飽きるどころかリーゼの魅力に気付かされる毎日ですので、シャル様のご期待に応えられる日はやってこないかと」


 頭を上げ、優しくリーゼロッテの頭を撫でました。

 すると、リーゼロッテは目に涙を浮かべました。


「アデルぅ……」

「ほら、第一王女たるもの、人前で泣いてしまってはいけませんよ」


 スッとポケットから綺麗なハンカチを取り出して、リーゼロッテの涙を拭き取ります。


「シャル様もからかうのはお止めください」

「余は別にからかってなどおらぬのだが……まあ、今回は別件で来たからな。この辺にしておくとしよう」

「別件? それは校庭にいらっしゃる方と関係がおありでしょうか?」


 聞いておきながら、絶対に関係があるのでしょうねと、心の中では考えていました。

 あまりにタイミングが良すぎるのです。

 カエサルには、"クリファ"のこともクリフォト教国に行くことも伝えていません。

 公国以外でこのことを知っているのはオルブライト王国国王、キース・ウル・オルブライトとその娘であるシャルロッテ。


 二人が情報を漏らすような方ではないことくらい、直に会った私が一番理解しています。

 ですが、カエサルとシャルロッテが以前から何かしらの接点を持っているのだとしたら?


 私の心情を読み取ったのか、ちらりとシャルロッテはこちらを見て、唇の端を吊り上げました。


「うむ。奴をここに連れてきたのは余だ」

「やはりそうでしたか」

「だが、余から話したわけではないぞ」

「そのようなことをされる方ではないと信じておりますので、ご安心ください」

「フハハハ、さすがアデル。分かっているではないか!」


 ウンウンと頷くシャルロッテの表情は満面の笑みを浮かべています。

 

「ですが、なぜ彼があの場にいるのですか?」


 一番聞きたかった質問をシャルロッテに投げかけました。


「うん? 決まっておるだろう」


 私の質問に対し、帰ってきた答えは単純明快。

 シャルロッテはにこやかに、花でも愛でるような調子で言ったのです。


「あの者たちと戦うためだ」

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