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第150話 親友と思っていたのは私だけ……?

 試験も残すところあと一日。


 ガウェインの、リビエラと一緒にいたいという想いの強さは私が考えていた以上に良い方向に働いているようです。

 少々頑張り過ぎるところもあるので心配ではありますが、この調子なら明日の試験も乗り切ってくれることでしょう。


 そんなことを考えながら、私はガウェインと向かい合っていました。

 現在は午後の授業を終えた後、演習場でガウェインと手合わせをしています。


 ガウェインが、突進してきました。

 高速で繰り出される、"守護女神の盾"と脚のコンビネーションをバックステップで躱します。


 攻撃の切れ目を狙ってガウェインの後ろへ回りこみましたが、ガウェインは素早く体勢立て直しました。


 速度や威力は一年生の中では頭一つか二つ抜けているでしょう。

 ただ、やはりそこは生身の人間。

 単純な性能を比較すれば、ヴァイスやリーラには及びません。


 ですが――。


 ガウェインが仕掛けた追撃の回し蹴りを避けた位置から、地面を蹴って更に後ろへ大きく飛んだのは、ガウェインの第二位階が来るという予感がしたからです。


「さすが師匠!」


 ガウェインの手に握られていたはずの"守護女神の盾"は、六本の板状の物体に分離しており、ガウェインを囲むように浮遊していました。

 そのうち一本は私が先ほどまでいた場所に突き刺さっています。


 第二位階に到達したことによって、ガウェインの攻撃の幅は格段に上がりました。

 盾の状態だと相手の攻撃を防ぐことに長けてはいても、自身が攻撃をするパターンとしては盾を振り回すか押さえつけることくらいしかないのです。


 こちらに狙いを定めて飛来する攻撃を一つ二つと躱していきます。

 ただ、飛んでくる攻撃にだけ意識を向けるわけにはいきません。

 照準を振り切る為に動いていると、背後からガウェインが近づいてきました。


「よい動きですね、ガウェイン君。第二位階に慣れてきたのか、使い方がうまくなっています」

「ありがとうございます!」


 ガウェインがくいっと指を上に向けると、地面に刺さっていた板状の物体はまた空中に浮かび、ガウェインの元へ戻っていきます。


 そしてまた、私目掛けて跳んでくるのです。

 一度発現すれば消えることなく攻撃を続けることができるのですから、相手からすれば厄介極まりないでしょう。


 しかも、厄介なのは攻撃パターンが増えたことだけではありません。


「『――――英雄達の幻燈投影(ファンタズマゴリー)』」


 "正統なる王者の剣"を再現すると、ガウェインに向けて振り下ろします。

 次の瞬間、六つに分かれていた棒状の物体は、ガウェインの前に集まり、私の攻撃を防ぎました。


 以前は残っていた小さな"守護女神の盾"で防御しようとしていたのに、今は攻撃に使用している六本を己の意志で防御に回せるまでになっているのです。


 短期間のうちにここまで制御できるようになったのは、やはり愛の力ゆえといったところでしょう。

 誰かの為に頑張る力は、ときに想像を超えた力を発揮しますからね。


 とまあ、成長した弟子の姿に感慨深い気持ちを覚えつつ、ガウェインの攻撃を躱していきます。


 今のところガウェインの攻撃は、私の体に一度も当たっていません。


 ガウェインが放つ第二位階の攻撃は、その一つ一つが驚くべき速度を秘めていました。

 当たりどころが悪ければ、骨はたやすく折れてしまうでしょう。


「くっ! 当たれえええ!!」


 必殺の攻撃が飛んできますが、危なげなく避けました。

 すぐ頭の上の大気を、殺人的な威力が抉ります。


 続いて前後左右、そして頭上からとガウェインの連続攻撃が縦横無尽に襲い掛かってきますが、その全てをさっと躱します。


 全方向から同時に攻撃されたのなら、さすがに避けきることはできません。

 何かしらの防御行動を取る必要があります。


 ただ、今のところ六本同時に攻撃することはできないみたいですね。

 すべてを完全に制御できるようになるには、まだ時間がかかるようです。

 二本が限界といったところでしょうか。


 それに飛来する速度が速いといっても、真っすぐにしか飛んできません。

 途中でランダムに方向転換が可能なら、二本でも十分脅威となるでしょうが、真っすぐしか飛んでこないと分かっていれば、何の問題もありません。


 それが例え目で追えない速度だったとしても。


「な、なんで当たらないんだっ!?」


 ガウェインの攻撃は肉体によるものを含めれば、数十回を超えていました。

 時間にすると一分以上、その間の攻撃は全て空を切り、ガウェインはダメージを負ったわけでもないのに息を乱していました。


「ガウェイン君、いいですか。貴方の攻撃は少々単調過ぎます。視線や肉体の僅かな動きから、どこを狙っているのか丸わかりなのですよ」

「っ!? それが分かるのは師匠くらいでは……」

「ヴァイス先輩やリーラ先輩も分かると思いますよ」

「それは……」


 何とも情けない顔を見せて言いよどむガウェイン。


 ふむ。

 

「比較する対象がおかしいと思っているのなら、その考えは改めなさい」

「し、師匠……?」


 いつもより低いトーンで話すと、ガウェインは目を大きく見開きました。


「護衛役に選ばれれば、常に危険と隣り合わせの状況に身を置くことになるでしょう。もし敵と遭遇した場合、敵は寸止めなんてしてくれません。どちらかが傷を負ったからといって攻撃の手を緩めることもありません」


 試合のように負けを認めた時点で終了、などありえないのです。

 

「今はできなくとも構いません。ですが、出来ないからと諦めてはそこで成長は止まります。出来るようになるにはどうすればよいか、常に考え続けるのです。なに、ガウェイン君なら大丈夫ですよ。この程度の壁は乗り越えて、きっと辿りつくと私は信じています」


 私はにこやかな笑みを浮かべて、そう告げました。

 

「……ありがとうございます、師匠。おかげで目が覚めました」


 ガウェインの瞳に迷いの色は消え、ただ真っすぐに私を見据えていました。

 うん、これならきっと大丈夫でしょう。


「いえ、私も相手が親友だからと少し言い過ぎました。申し訳ありません」

「そんなっ! 謝らないでください。師匠の仰ったことは本当のことなんですか、ら……親友?」


 ガウェインはなぜか固まってしまいました。

 もしかして親友と呼ばれたのが嫌だったのでしょうか?


 男の友人の中で、ここまで話をしたり一緒に過ごしたりした者はいませんでした。

 私の中では親しい間柄と思っていたのですが、ガウェイン君が思っていないのなら、かなり恥ずかしいのですが……。


「俺が師匠のしん、ゆう……ですか?」

「私が勝手にそう思っていただけなので、嫌なら嫌と言ってくださいね」

「嫌なはずがありません!!」


 そ、そんなに首を振らなくても……。


 ガウェインの言葉にホッとため息を吐きます。

 良かった、私だけが親友だと思っていたのではなくて。


「……俺は師匠の親友。そう、親友なんだ。フフ……」


 ……目の前のガウェインが少し、いえ、かなりおかしいような?


「ええっと……ガウェイン君? 大丈夫ですか?」

「もちろんですとも! 明日の最終試験、絶対に受かってみせますから見ていてください!」

「……が、頑張ってくださいね」


 ガウェインが「任せてください!」と言って、力強く胸を叩きました。


 うん、やる気が出たのなら良しとしましょう。

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