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第141話 めでたしめでたし?

 黒づくめの男たちによるアイリス連れ去り未遂から二日が経ちました。

 オルブライト王国の街中を歩く人々の姿は一見すると、落ち着きを取り戻しているかのように見えます。


 しかし、実際にはそんなことはありません。

 少しでも音がすると一斉に音のする場所へ振り返っています。

 その瞳には怯えているかのように見えました。


 無理もありません。

 オルブライト王国はキース・ウル・オルブライトが王になってからというもの、事件らしい事件など一度も起きたことがないとシャルロッテが言っていました。


 王国の中心地ともいえる場所にある会場で発生した爆発と他国の来賓連れ去りは、この地に住むあらゆる者に多大なる影響を及ぼしていることでしょう。

 

「俺の国でふざけた真似しやがって。この借りは必ず返す……!!」

「うむ! 父様に賛成だ。であるならば――」

「アデルたちとクリフォト教国に行くっていう話だったな。いいぜ、行ってこい。ただし! やるからには完膚なきまで徹底的にだ。分かってるな、シャル」

「フハハハ! もちろんだとも! 余に任せるのだっ」


 キースの問いかけに、シャルロッテが頷きました。

 王国で行われていた大会の最中で起きた事件ですから、二人にしてみれば面子を潰されたようなものでしょう。

 語気が強くなるのも仕方ありませんが……いえ、心強い味方が増えたと思っておきましょう。


「今回はすまなかったな、大会が途中辞めになっちまってよ」

「いえ、お気になさらないでください。あんなことがあった以上、安全面を考慮すれば中止にするのが一番です。それに私やリーゼロッテは来年以降も出場する機会がありますから」

「そう言ってもらえると助かるぜ」


 キースはそう言っていったん言葉を切りました。


 アイリスを攫った黒づくめたちは全員捕らえましたが、この世に絶対などありません。

 何か起きてからでは遅いのですから。

 それを考えればキースの判断は正しいのです。

 

 ただ、私たちはよいのですが……。

 

 私は隣にいるシュヴァルツに話しかけます。


「シュヴァルツ先輩は今年で最後ですから、やはり優勝したかったのではありませんか?」

 

 入学して以来、ずっと勝ち続けてきたシュヴァルツ。

 負けたわけではありませんが、優勝できなかったのも確かです。

 悔いが残るのではないかと思ったのですが……。


「フフ、優勝か。そんなものに興味はないよ。結果だけがすべてだと俺は思っていないからね」

「そうなのですか?」

「結果に意味がないとは言わないよ。だが、過程が伴わなければ虚しいだけさ。そういった意味では今年は実に得難い経験をしているよ。優勝などよりもよほど大事なね。アデル君のおかげさ」

「私、ですか?」


 はて、私は何もしていないと思うのですが。


「分かります!」

「うむ!」


 シュヴァルツの言葉を聞いて、リーゼロッテとシャルロッテが頻りに頷いています。

 

「だろう? そういうわけで俺も気にしていない。優秀な後輩もいることだしな。ヴァイス、リーラ。来年は任せたぞ」

「はーい」

「はっ!」


 二人の返事にシュヴァルツが柔らかい笑みを浮かべています。

 ヴァイスとリーラは来年も学園に在籍していますからね。

 この二人がいるだけで安心感が違います。


 それに、私だって今よりも強くならねばなりません。

 今大会は学ぶべきことがたくさんありました。

 カエサルは本気で戦っていたようには見えませんでしたし、シャルロッテとの一戦も途中で終わってしまいましたが、あのまま続けていたとしても果たして勝てたかどうか。

 

 今の私では勝てなくとも明日の私であれば勝てるかもしれません。

 そのためには歩み続けねばならないのです。

 私自身の望みを私自身の力で完遂しようと思ったら、歩みを止めず、私の意志で、私の足で一歩ずつでも歩いていくということが大事なのですから。

 

 そうとなったら訓練あるのみ。

 公国に戻ったらシュヴァルツたちと手合わせをお願いするとしましょう。


「アデルよ、其方らはいつクリフォト教国に行くつもりだ?」


 シャルロッテが問いかけてきました。

 公王とディクセンは渋っていましたがキースの協力もあり、最終的には首を縦に振ってくれたので教国に行くこと自体に問題はありません。


「そうですね……教国への入国手続きなどもありますし、すぐに解決できるような問題でもないでしょうから滞在期間も考えると一、二ヶ月先といったところでしょうか」


 ちょうどシュヴァルツが学園を卒業して、二週間という休みの期間に入っている頃です。


「うむ! ならばその頃に迎えに行こう」

「よろしくお願いいたします」


 私は深々と頭を下げました。


「フハハハ、気にするな! アデルとの初めての共同作業というやつだ」

「ちょっと待ちなさいシャルっ、いま変な言い回しをしたでしょう!?」

「そうであったか? 小さいことを気にするものではないぞリーゼ」

「小さくない!」

「フハハハハ!」


 二人を中心に喧騒と笑い声が広がっていきます。

 

 この二人が教国に行っている間、ずっと一緒ということは……別の意味で大変なことになりそうです。

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