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第123話 カエサルの実力

 ※三人称視点です

 アデルがカエサルと出会い、意味深な発言を聞いた翌日。


 オルブライト王国国王であるキースの開会宣言のもと、"国別異能対戦"が始まった。

 初日はヴァルダンブリーナ帝国とアルツバイン共和国、オルブライト王国とクリフォト教国の試合が行われる。


 アデルはリーゼロッテとリビエラとともに観客席の最前列に座り、第一試合が始まるのを待っていた。


「試合の決着はどちらかが負けを認めるか、戦闘不能になった時点で試合終了です。また、試合中に観客席に被害が及ばないように、レーベンハイト公国よりクラウディオ・ブラウナーさんにお越しいただいています! 完璧に守ってくれますのでご安心ください」

「私がついておりますので、皆さまはどうぞ観戦をお楽しみください」


 胸に手を当て優雅に会釈するクラウディオの姿に、観客席のあちこちから溜め息が零れている。

 その中にはもちろんアデルも含まれていた。

 

「やはり、クラウディオ様の所作は見事としか言いようがありませんね。是非とも一度ご教示を賜りたいものです」

「アデルは本当にクラウディオさんのことになると目の色が変わるのね」


 リーゼロッテが苦笑しながら告げると、それに対してアデルは真剣な表情で言った。


「もちろんです。クラウディオ様の言動の一つ一つが私の目指すべき到達点と言っても過言ではありません」

「そ、そこまで?」

「はい」


 当然だと首を縦に振るアデルにリーゼロッテは驚いていたが、どこか納得もしていた。

 リーゼロッテから見ても、クラウディオの動きには一切のムダがなく、そして美しかった。


「公国に戻ったらお願いしてみればいいじゃない。もしくは帰りにでも」

「そうですね。この大会が終わったときにでも伺うことにします――始まるようですよ」


 観客席から大きな歓声が上がる。

 同時に試合会場の左右にある入口から選手たちが姿を現した。


「カエサル様の異能を見たことは?」

「ないわ」

「ふむ。ということはこれが初見になるということですか。いったいどのようなものか、気になりますね」


 カエサルが実力者だというのはアデルも一目で分かった。

 シュヴァルツと初めて出会った時に近い衝撃を感じたからである。

 彼には何かある、そう感じさせる何かをカエサルは持っていた。



 試合は一方的なものだった。

 帝国が既に四勝し、共和国の負けは確定している。

 今、中央に立っているのは最終戦、帝国側はカエサル、共和国側はガラハドの二人だ。


 ガラハドは既に第二位階まで発現させていた。

 彼の左手には白く光り輝く盾が握られており、中央部分には真っ赤な十字架が描かれている。


 ガラハドは、カエサルからずっと距離を取って戦っている。

 盾の十字部分が光り、圧縮した空気の塊をカエサル目掛けて撃ち込むが、何故か数メートル手前で爆発した。


「な、ぜ……」


 ガラハドは目の前で起きている事象に、鋭い戦慄が全身を駆け抜けた。

 どれだけ攻撃しようともカエサルに届く前に無力化される。

 

「戦いにおいて大切なことを一つ教えておいてやろう。それは何故(・・)と問うことだ」

「ど、どういうことだ!」

「教えると思うか? 仮に教えたところでこの状況から何かが変わるとでも?」


 カエサルは余裕の冷笑を浮かべたまま、静かに告げた。


「……だが、そうだな。あえて言うのであれば、見えていないということが俺とお前の力の差を如実にあらわしている」


 その言葉に、凍りついたように動きを止めていたガラハドの顔が怒りの形相に変わる。


「なめるなぁッ!」


 今まで距離をとっていたガラハドが絶叫しながら地を蹴った。

 迫り来るガラハドに対して、カエサルが左手を振った瞬間、ガラハドの身体が真横に吹き飛んだ。


「どうだ、見えていないだろう? もう一度言うぞ。これが俺とお前の力の差だ」


 カエサルは相変わらず冷笑を崩さないまま、左手を元の位置に戻して動きを止めた。

 ガラハドは片膝を手で押さえながら、地面からゆっくりと立ち上がる。

 呼吸は荒く、顔からは冷や汗を滝のように流していた。


 どれだけ攻撃しても相手に届くことはなく、目に見えない攻撃が自分を襲う。

 ガラハドの心理的な影響は計り知れない。


 ――どうすればいい、どうすれば奴に攻撃が届く、どうすれば。


「考えている最中に悪いが、これで終幕だ。俺と戦えたことを誉れに逝くがいい」

 

 重厚にして、深みのある美声。

 まさに王者に相応しい声だった。

 カエサルの左手がゆっくりと動き出す。


「二度も喰らうかっ!」


 当然意識は先程攻撃された方に向く。

 ガラハドは咄嗟に盾を構える――だけでなく、圧縮した空気の塊も射出した。


 これならば、きっと防ぐことができるはずだ。

 ガラハドの口から笑みが溢れる。


 ――しかし。


「残念だがはずれだ」

「ぐはっ……!」


 全く警戒していない側からの不可視の攻撃をまともに受けたガラハドは、悲鳴とともに数メートル吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。

 握っていた盾が消失する。

 ガラハドはピクリとも動かない。


 カエサルは振り返り、左手を天高く突き上げる。


「――勝者はカエサル・デル・ヴァルダンブリーナ! よって、第一試合はヴァルダンブリーナ帝国の完全勝利です!!」


 立ち去るカエサルの背中を、会場の誰もが呆然と眺めていた。


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