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第121話 貴女が着てくださるなら……

「さあアデルよ。次は書店に行くとしよう」

「書店ですか? 構いませんが何故書店に?」

「フハハ! それは行ってからのお楽しみというやつよ!」


 シャルロッテの深い碧色の瞳がきらりと輝き、口もとに笑みを浮かべました。

 私の隣にはリーゼロッテが、更にその隣にはリビエラがいます。

 二人ともシャルロッテを警戒――はしておらず、どこか呆れたような表情をしていました。



 "国別異能対戦"に出場するためにオルブライト王国に到着したばかりの私たちを出迎えたのは、シャルロッテでした。

 

 私とリーゼロッテが婚約したことは、シャルロッテも知っています。

 出会い頭に求婚してきた場面を目の当たりにしているリーゼロッテは、シャルロッテの姿を見るやいなや私の前に立ちました。

 

 シャルロッテが何か仕掛けてくるとでも思ったのでしょう。


 一国の王女たる彼女がそんなことをするなど、普通に考えれば有り得ないはずなのですが、聖ケテル学園で起きたことを考えると完全に否定もできません。


 しかし、シャルロッテの第一声でそのような考えは吹き飛んだのです。


「久しぶりだなリーゼにアデルよ! 此度の婚約、おめでとう!」

「あ、ありがとう」

「ありがとうございます」

「うむ!」


 シャルロッテは満面の笑みを浮かべると、大きく頷きました。


「では早速行くか!」

「「はい?」」


 脈絡のない言葉に、私とリーゼロッテの声が重なります。


「せっかく余の国に来たのだ。余自ら案内してやろうではないかっ。こっちだ!」


 くるりと振り向き、歩き始めた彼女を、私たちは慌てて追いかけました。



「シャル様」

「なんだ?」

「案内していただけるのは光栄ですが、貴女のようなお立場の方がお一人で出歩かれるのも、いかがなものかと思うのですが。それに」


 一旦言葉を切ってから、シャルロッテの姿を見直します。

 彼女は真っ赤なコートに身を包み、襟元からは白いマフラーの結び目をのぞかせていました。


「もう少し目立たないような服装がよろしかったのではないでしょうか」

「なぜだ? 人目を避ける必要など余にはない!」


 ただでさえ端整な顔立ちのシャルロッテは、背こそそれほど高くないものの姿勢もスタイルも良く、なによりも全身から独特の存在感がまき散らされていました。

 

 自国の王女に気づかないはずもなく、これでもかというほど人目を集めてしまっています。

 当のシャルロッテ本人はそれを平然と受け止めるばかりか、手を振って応えていました。


「ここは余の国だ。威厳を損なうような真似はできぬ。まあ、仮に敵地であろうと余には関係ないがな」

「なぜです?」

「余がシャルロッテ・ウル・オルブライトだからだ。真の強者は逃げも隠れもせぬ」


 自分自身によほど自信がないと言えない台詞です。

 シャルロッテの目を見る限り、絶対の自信をもっているのが分かります。

 

「それにな、目立つというのは気分のよいものだぞ?」

「むしろ、そっちが本音なんじゃないの」


 そう言うと、リーゼロッテは呆れたような笑みを見せました。


 シャルロッテと王都の雑踏をしばらく歩くと、不意に開けた大通りに出ました。

 街並みは公都によく似ています。

 正面に大きな店舗が見えました。

 

「あそこだ」


 シャルロッテはすいすいと人波を縫って、書店の一階売り場に入っていきました。

 入口の近くにある平台を眺めて、シャルロッテは満足げに頷きました。


「うむ! よく見える位置に平積みしているとは期待通りだ。素晴らしい」

「素晴らしいって何が――えっ!?」


 平台に積まれた本を手に取ったリーゼロッテでしたが、表紙を見た瞬間に固まったのです。

 いったい何を驚いているのだろうと思い、平台の本に目を向けると、直ぐに理由が分かりました。


 表紙にシャルロッテ本人の写真が使用されているのです。

 それが数百冊単位で積み重なり、本の山を築いていました。

 私はそれを手に取りぱらぱらとめくると、シャルロッテの写真が何枚も載っていました。

 

 どうやら写真集のようです。

 

 近くには同じように写真集と思われる表紙を飾った女性の本が何冊か置かれていますが、それらが全て霞むほどの美貌と華やかさでした。


「さすがシャル様です。人気者でいらっしゃるのですね」

「フハハ! 分かっておるではないか」


 確かにシャルロッテのルックスは非の打ち所が無いですし、それが王女ともなれば、注目を集めないはずがありません。

 

「どうだ、このページでは余の水着姿もあるのだぞ!」


 そのページには小面積の水着を身につけたシャルロッテの写真が載っていました。

 

 水着とはいえ恥ずかしがることなく見せてくるとは……ああ、この程度で恥ずかしいなどと思うような方ではありませんでしたね。

 

 ……ん?

 何やらリーゼロッテが私を睨んでいます。


「リーゼ……?」

「アデルもそういうのが好きなのかしら?」

「そういうのとおっしゃいますと?」

「シャルが着ているような水着よっ」


 どうやら勘違いをさせてしまったようです。


 私はリーゼロッテを見つめながら微笑みました。


「私が好きなのはリーゼだけですよ。シャル様と同じ水着を着てくださるというのであれば、もちろん拝見したいですけどね」

「な……な……」

「ああ、ですが私の前だけでお願いします。他の方には見せたくありませんから」


 普通の水着であればともかく、写真でシャルロッテが着ている水着は布の面積が少ないですからね。

 写真集に載せるシャルロッテは、ある意味すごいと言わざるをえません。


「……今度、機会があれば着てあげるわ」

「ありがとうございます」


 顔を真っ赤にしているリーゼロッテ。

 機嫌は治っているようです。

 ただし、今度はリビエラが深く息を吐いてから私の顔を睨んでいますが。


「ならば余も一緒に着てやろうではないかっ」

「シャルは着なくてもいいのよ!」


 リーゼロッテの叫び声に驚いたのか、店内にいた客が一斉に振り返りました。

 視線はリーゼロッテに向けられています。


「この話は終わり! さあ、行くわよっ」


 私の手を取ったリーゼロッテは、逃げるように店の外へ歩き出しました。


 その後。


 シャルロッテに王都を案内してもらった私たちは、聖ケテル学園がとっているホテルへ向かうのでした。


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