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第116話 発表は早いほうがいい

 ※三人称視点です

 レーベンハイト公国へ帰国したアデルたちは、真っ先に城へ向かった。

 公王とディクセンにディシウス王国での出来事を報告するためだ。


「お父様、ただいま戻りました」


 謁見の間に公王とディクセンが姿を見せると同時に、リーゼロッテは深々と腰を折った。


「よく戻ってきた。アデルとリビエラもご苦労だった」


 公王の言葉に、アデルとリビエラは返事の代わりに頭を下げる。


「さて、婚約についてどのような話になったか聞かせてもらえるか」

「はい。セリス女王から、私とギルバート王子の婚約の件は無かったことにしていただきました」

「おお、そうか!」


 公王とディクセンが安堵の表情を浮かべた。

 これで憂い無く、アデルとリーゼロッテの婚約を国内外に発表できるからだ。


「――ただ、代わりにある提案を持ちかけられました」

「……提案? いったいどういった内容だったのだ」

「アデルとギルバート王子が試合を行い、アデルが負けたら王国に来るように、と……」

「「なんだとっ!?」」


 公王とディクセンは驚きの声を上げた。

 と、同時にアデルの方へと目を向ける。

 この場にいるということは試合に勝ったのだろう。

 いや、アデルのことだ。

 断った可能性もある。

 二人に視線を向けられたアデルは、リーゼロッテの言葉を引き継ぐように口を開いた。


「私の判断で試合を受け、ギルバート王子に勝利しました」

「アデル! お前というやつは――」

「待て、ディクセン!」


 アデルに詰め寄ろうとしたディクセンを公王が止める。

 ぎこちなく公王に顔を向け、「しかし陛下」と食い下がった。


「よいのだ……アデルよ、無事に戻ってきてくれたことは嬉しく思う」

「もったいないお言葉です」

「だが、そなたも自覚していると思うが、アデルの才能は公国にとって大事な宝だ」

「理解しております。勝手な行動を取ってしまい、申し訳ございませんでした」


 アデルは公王、そしてディクセンに向かって深々と頭を下げた。

 公国にはアデル以外にも優秀な異能者は数多くいるが、その中でもアデルは突出している。

 仮にアデルが王国民となった場合、公国の損失は計り知れない。


「分かっているのであれば、次からは気をつけてくれればよい。それにな、もしそのような事態になれば悲しむ者が大勢いるということも覚えておいてほしい。例えば、隣にいる者とか」


 そう言って公王はリーゼロッテへ視線を向ける。

 リーゼロッテは顔を赤くしたが、否定はしなかった。


「もちろん私もだ。私にとっては未来の息子になるのだからな」

「――気をつけます」

「うむ」


 公王は満足げに頷いたが、すぐに険しい表情に変わる。


「しかし、セリス女王もなかなか食えない御人のようだ。リーゼロッテとの婚約話を持ちかけてきたかと思えば、アデルを王国に取り込もうとしてくるとは」

「おそらくですが、セリス女王は最初からアデルが目的だったような気がします」

「……本当か、リーゼロッテ」

「はい。でないと、いきなりあのような提案をしてくるはずがありません」


 公王は「厄介な……」と心の中でため息を吐いた。

 つまり、リーゼロッテを餌に使ってアデルをおびき寄せようとして、まんまと引っかかったことになる。


「ディシウス王国は警戒する必要があるな」

「警戒、ですか。ですが、セリス女王は私もアデルのことも諦めると仰っていましたけど」

「それはあくまで口約束でしかない」


 公王はリーゼロッテの言葉をバッサリと切り捨てた。

 公国の第一王女を餌にするような相手だ。

 一度失敗したからといって諦めるとは思えなかった。


(ならば、こちらも先手を打つ必要があるか)


 公王は心の中でそう決意すると、顔を上げた。

 

「アデルとリーゼロッテの婚約を発表する」


 この言葉に敏感に反応したのはリーゼロッテだ。


「お父様っ!?」

「何を驚く必要がある。二人の気持ちは同じなのだろう? ならば早いほうがよい」


 二人が婚約したことを国内外に知らせれば、先のようにおいそれと手出しはできなくなる。

 

(それに……キースやシャルロッテへの牽制にもなるしな)


 アデルを狙っているのはディシウス王国だけではない。

 公国から出る気はないのだとアピールするためには、婚約発表してしまうのが一番なのだ。


「アデルはどうだ?」


 皆の視線が一斉にアデルへと向けられる。

 その中でもリーゼロッテは不安と緊張を含んだ目をしていた。

 アデルはそんな彼女の気持ちを和らげるべく、笑顔で答える。

 

「私も公王に賛成です。よろしくお願い致します」


 リーゼロッテがホッとした表情を浮かべる。

 アデルの気持ちを疑っていなかったが、両想いになってからまだ日が浅い。

 エステルたちの婚約発表をしたばかりだし、もう少し先にしましょうと言われるのではと思っていたのである。


「リーゼロッテ様も宜しいですか?」

「ええ!」

「決まりだな。ディクセン」

「はっ。すぐに国内外に向けて発表する準備をします」


 ディクセンは一礼すると、足早に謁見の間を後にした。


「すぐに学園が始まるから、婚約パーティーはおそらく……"国別異能対戦(ラグナレク)"の後になるだろう」

「"国別異能対戦"の後ですか」


 アデルの言葉と同時に、公王の気配が、質量を増した。


「うむ。そこでディシウス王国やオルブライト王国が何か言ってくる可能性がある。私も目を光らせておくが、アデルたちも注意してくれ」


 それを聞いて、アデルたちは重々しく頷いた。

 


 そして翌日。

 レーベンハイト公国から公国内、オルブライト王国をはじめとした五大国や、ディシウス王国などを含めた全ての国に対し通知が出された。


 リーゼロッテ・フォン・レーベンハイトと、アデル・フォン・ヴァインベルガーが婚約したことを。


 一度は婚約破棄をした二人が再度婚約したという発表は各国に大きな衝撃を与えた。


 もちろんそれは、聖ケテル学園の学生たちも同じだった……。

 


 【冬休み編】 (完)

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― 新着の感想 ―
[一言] 敵の本陣にいて何も気づけないのなら器ではないわな。
2022/04/23 18:50 退会済み
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