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音色に心を乗せて

詩乃に視線が集まった、視線が刺さると表現するが・・マジであった。

刺さるよ視線、全身にチクチクと静電気の様な痛さの刺激が走る、ムズ痒い。


『悪意4割・好奇心3割・あとは何だろ?』

詩乃は下っ端半魚人の腕を捻って離させた、何もブン投げるだけが合気道ではない。相手が知らないうちに、手を離す事なども出来るのだ。下っ端半魚人は、いつの間にか詩乃が一人で歩いているのを見て不思議そうな顔をしていた。


『今、動きに注目したのは、騎士とかの関係者かな?』興味と警戒の半々だ。


半魚人の壁の中、詩乃は静々とピアノに向かった、ヒソヒソとお喋りは続いている。


<あの衣装はメイドのお仕着せによさそうね>

<嫌だわ、黒などと喪服の様ではありませんか> 

<あの髪、奴隷ではありませんの?> <おお嫌だ、奴隷と同席など> 

<いやいや、異世界では髪の長さには決まり事が無いそうですよ> 

<あのような髪、女を捨てている様で見っとも無い> 以下略。


はいはい、それ以上話さないで、悪口・蔭口・中傷はいただけません、服に縫い込んでいるオニキスが熱くなってきている。オニキスは防衛特化の石だから反撃する事は無いだろうけど、余計な揉め事は御免被るのだ。詩乃はピアノの前に座ると、椅子の高さと位置を調節した。


<ほう、あの子ザル、ピパノを弾く気なようですな>


詩乃は人差し指を殊更に目立つよう立てて、ポーンと一音ならして見せた。

ホールの天井が湾曲しているのか、音は響いて隅々まで響き渡っている。

『良い音だね、魔術の補助でも掛かっているのかな』


【いい事、詩乃さん。最初はワザとたどたどしく・・人差し指一本でゆっくりと弾くのよ】ピアノの先生の声が聞こえて来るようだ。


意外なようだが、詩乃はピアノを習っていた時期が有る。

両親の仕事が忙しい為、幼い頃は保育園に預けられていたのだが、小学校に上がると放課後は学童に通う事となる。しかしその学童は3歳年上のお兄が、散々喧嘩騒ぎを起こして心証がて最悪になっていた。

別にお兄だけが悪い訳では無かったのだが、保護者同士の話し合いを面倒がった母親が学童を辞めさせてしまったのだ・・これで文句は無かろうと。

多分、そっちの方が心証は悪い・・詩乃は各方面にお兄の事で目を付けられるのは御免だった。お兄はその後、合気道に嵌り小学校1年の夏から道場へ通うようになっていた。礼の精神も教えられ、良い子に更生出来て(お兄比)何よりである。


詩乃の家の近くには父方の祖父母の家があるのだが、変に遠慮深い母親は甘える事を良しとせず、格安の習い事を見つけて来ては詩乃の意思を確認することなくぶち込んだ・・時間潰しに。その一つがピアノ教室である。今思えば、発表会も他の生徒もいない変な教室だった。柳の様な細いお婆ちゃん先生が一人、いつもオシャレな服を着ていた人だったっけ。


【こんな風に弾くの、ポン ポン・・・】

詩乃は人差し指一本で、ピパノを弾き始めた。


<見て、あの無様な事・・>

<まったく異世界人と持ち上げていても、いかほどの事か>

<聖女様もどうなのでしょうか、神殿が言う程の者なのか?> 

<やはり、王太子の婚約者は由緒正しい公爵家の姫君が・・・>


馬鹿にした様なギャラリー達が多い中で、詩乃を心配そうに見るお爺ちゃんや、真面目そうな小父さんがいたりする。貴族の全員が全員、嫌な奴では無いのだろうか。②は笑顔で平静を装っているが、その目は笑ってはいない・・怒っている対象は詩乃か、それとも公爵半魚人令嬢か?大魔神は半眼になっている。公爵派って多いのかな?


【次の小節から両方の手で、初めはゆっくり・・】


ポン ポン ポポポン・・・ポポポポ・・・ポポポン・・・


【きらきら星変奏曲、初めは簡単な童謡を弾いているようだけれど】

詩乃の両手が、滑らかに動き出し、キラキラとした音が溢れ出てくる。


【こんなにテクニックのいる曲もないのよ?さすがモ~さん】

先生、モーツアルトをモ~さん呼ばわり。


【馬鹿にしていた奴らの度肝を抜いてやるのよ、童謡だと思ったらなんと!モーツアルト作曲の技巧溢れる名曲なのだから。良い事、詩乃さん隠し芸には一番よ!】

小1から通い始め小6で卒業するまで、ず~~っと、キラキラ星だけだった。

初めは指1本から、やがて両の手で、次はゆっくりのスピードで・・学年が上がるにつれ難しいフレーズが入って来て。6年の卒業の春、中学に上がる直前にようやっと、先生のOKが出るキラキラ星が弾けるようになったのだ。音は耳で覚えたから楽譜は読めない、キラキラ星一本である。


【心を込めて楽しい音を出すの、自分が楽しめないと聞いてる人だって楽しく無いわ】

じつは、久々なので結構ミスタッチをしている、でもいいじゃないか誰も知らない曲だもの。モ~さん、ごめんなさい。


この世界にモーツァルトの様な天才は現れていないのだろうか、みんな固唾をのんで聞き惚れている。


【ミスしても堂々としてれば解りゃしないわよ、ド素人共めが!けっ!】

先生、時々妙に怖かった・・大きな家に一人で住んでいたっけな。


【そうして、最後はこれ!ドヤ顔よっ!どんなもんでぃ!!ばっきゃあろぅ~。ほ~ほほほほほ~~】

・・・何が有ったのか知らないが・・・


『先生!不肖大西詩乃、いまただ一人異世界で、初めて先生の気持ちが痛いほど解ったような気がします』

界を挟んで今、師匠と弟子の心がひとつになった瞬間であった。


最後の一音まで弾き終わると、詩乃は顔を上げて・・ゆっくりと振り返って聖女様を見つめ。この世界に来て初めてのドヤ顔をしてやった、二人で笑い合う・・目は笑っていないけどね。


『ほ~ほほほほ~~~』


きらきら星変奏曲しか弾けないけどねっ。

立ち上がると優雅に(自己評価)カーテンシーをして見せた。

聖女様が拍手をしながら詩乃に近づいて来る、急に思い出したように、周囲の貴族達も盛大に拍手し始めた、半魚人軍団のお嬢様達は悔しそうだ。


『おほほのほ~~~』


なぜあんたがドヤ顔をする②、聖女様をエスコートしようとして軽くかわされている(笑)。詩乃が席を譲ると、今度は聖女様がピパノに向かった。


<おおぉ、今度は聖女様の演奏を聴けるとは> <素晴らしい、何たる幸運>

貴族たちがさざめき出した。



【熊蜂の飛行】


うん、超絶技巧だね・・流石だね、でも何故にこの選曲?

聖女様はタッチも軽やかに、時に力強く素晴らしい演奏をおこなった。

・・・何故だか唖然とするギャラリー達。


曲を弾いていれば、ウザイ連中と話をしなくて良いと悟ったのか、聖女様は演奏を続けお茶会の終了時までピアノの前を離れなかった。鬼気迫る様相で、誰も話かけられない。月光やら英雄とか、聞きごたえあったよ、皆も喜んでいたんじゃないかな?たぶん・・・。



 数日後・・聖女様の魂を叩きつけるような演奏に、何か感じるものが有ったのか、②がピパノをプレゼントしてきた・・ストレス発散にはちょうどいいだろうと。②にしては、気が利いている。



 真夜中に弾かれるレクイエムに、使用人達がビビるまであと数時間。


詩乃はピアノの他に、バレエ、スイミング、ソロバン、習字を習っていました。

ピアノ以外は自主卒業です。ピアノは先生が怖くて辞められなかった。

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