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オニキス

 離宮に戻ったら、何故だか②がいると女官長に言われた、暇なのか?②


応接室に行くと、自分の家の様に寛いでいる②と、珍しく対面に座っている大魔神がいた。詩乃の検査結果が気になるのか、報告しろと大魔神が鷹揚に言う。

この2人はノイズが特に五月蠅いし、何だかトゲトゲしているんだよね。

相手に感情がダダ漏れなのは、この世界の人は平気なのだろうか?


詩乃は立ったまま風呂敷の中から石板を取り出すと、ノイズが五月蠅いのと、トゲトゲに刺されて苦しんでいる棒人間の絵を描いて二人に見せた。


「お前は相手の魔力を音と皮膚で感じるのか?」

不思議そうな顔をする②。


「いいか、魔力は波動だと考えられている。魔力差が大きい者と対面すると、普通は自分の魔力に相手の魔力が干渉して来る様な、重苦しい強い圧迫感を感じるものなのだ。お前の様に、感覚器官に直接感じるなど聞いたことが無い」

大魔神が偉そうに言うが、五月蠅いだけで圧迫感は感じない、嫌悪感は感じるが。


大魔神が言う事には、干渉される感じが辛いので、魔力の弱い平民は貴族の傍に仕える事が出来ないそうなのだ。平民のA級魔力を持たないと、まず王宮の職務は務まらないと言う。


「そういえばお前、我々王族や重鎮達の前に出ても平気そうだったな。強い魔力を持っているのか?神殿では何も感じなかったが」


詩乃は首を振って耳を抑えて見せた。

『あんたら、特に五月蠅いんだよ、ジェット機並みの騒音だよ』

ふ~~ん、何やら②が考え込んでいる。


「貴族が集まると魔力が干渉しあって面倒な事になるので、我々は普段は意識して力を抑えているのだが、それでも五月蠅いか?」


詩乃は鼻に皺を寄せて、オーバーに耳を塞いで見せた。

『あっ、でも!』

銀ロンの絵を描いて見せる、あのおじさん特徴的だから描きやすいね。

彼は静かサイレントだったトゲトゲも無い、ジェスチャーで伝える。


「彼は魔術師としては天才的な人物だからな、大きすぎる力を制御するのにも長けている、まぁそのせいで聖女とお前は此処に居る訳だがな・・」

銀ロン1人のせいにしてるな、腹黒い奴・・腹黒②に決定だ。


変な体質を重宝に使われてもたまらんので、正直に申告する。


貴族の衣装を着た棒人間 ➡ E級

平民はただの棒人間   ➡ B級


二人は揃って微妙な顔をする、何かトゲトゲが弱くなって来て痛く無くなってきた。トゲトゲは警戒している証拠なのかな?何だか妙に馬鹿にした態度が気に障る。


「まじゅしちょ わたし おしえる ひと はける する いた」

「まぁ、せいぜい頑張れ」余裕ぶった態度が気に入らない、腹黒②め。

「まじゅしちょ いひと せいじょさま だいじ する いいね」


途端に2人から、大音量のノイズが発せられ、詩乃の体中に針で刺された様な痛みが走った。


「いたたた・・いたいいたいいたい!聖女様に言いつけてやる!」


興奮すると何故か言葉がハッキリするのだが、詩乃は痛みで気がつかない。

少し困った顔をした②は、お前が黙っていたら褒美に何か贈ってやると偉そうに言って来たので<調理室への立ち入りを許可してくれ>と強請った。

たまには故郷の料理も、お菓子も食べたいし・・無ければ自力で作るしかないでしょうが。


    ****


 ノイジーな2人組がやっと帰ったので、詩乃も自室に引き上げようと応接室を出た。そうしたら新人メイドのミアだっけ?彼女が廊下に出た1人立って待っていた。彼女は平民のA級なのかな?ノイズは少ないしトゲトゲも弱弱しい、ただし一点に針が刺さる様な痛みを感じる。


『おおぅ、こりゃぁ、相当嫌われているねぇ・・・』

ただのオマケが特別待遇を受けていれば、使用人としては気持ちの良いものでは無いのだろう。前回のメイド達の様に解りやすい悪意は、ある意味防ぎやすいけれど、ミアには落ち度が無いので対処しにくい。どうしたもんだかねぇ・・。


ミアと共に部屋に着くと、軽く膝を折り感謝を伝え下がるように手を振る。

ドアが閉ざされようとする、ほんの僅かの一瞬。


「A級の私が、何にも出来ないB級に仕えるなんて・・ほんと馬鹿馬鹿しい」

ボソッと呟かれた・・➁達との話を盗み聞きしていたのか・・地獄耳め。

陰険な虐めとしたら絶妙なタイミングだったろう、まさに職人技プロフェッショナルのお仕事だ。巻き込まれ異世界召喚ではよくあるエピソードだとは思うが、実体験すれば・・やはり気持ちの良いものでは無い。地味なパンチも数を打たれれば、ボディブローのようにジワジワと効いて来て精神と体力を奪っていく。


「よくある展開だよ、モブだろうと主人公は這い上がってこそだもの」


強がりを言いつつ、この世界で唯一の自分の居場所を見渡せば、部屋の真ん中に木の箱がデンッと置いて有る事に気が付いた。そうだった、頼んでいた物を運んでくれたんだ・・空の魔石だっけ?綺麗なんだよね~薄い色が付いている。


石が大好きな詩乃は、ひとつ取り出すと両の手の中に包んでみる。

硬い石だ、硬度はどのくらい有るのだろう・・でも何か、ほのかに暖かさも感じる。手に残る温かさ、それは石の力なのだと、あのお店の主人さんは言っていたっけ。


『こんな悪意の只中に居る時には、どんな石を身に着けると良かったっけ?』

一人部屋の隅で座り込んだ詩乃は、パワーストーンの解説本を思い出してみる。

なんたって詩乃は、数式や元素記号など、中学生が詰め込むべき頭の容量を石の解説に明け渡してきたのだから・・何かしら覚えていてもおかしくない。


「そうだ、オニキス!オニキスが良い」

嫉妬や恨みを持たれたとき、悪意を跳ね返し持ち主を守る結界を張ると言う。悪霊を払い、持ち主を守護する防衛特化の石だ。

・・何だか周りが歪んで見える、目の奥が熱くなってきた。


『オニキス、オニキス、オニキスが欲しい!私を守って!!』


詩乃が強く願うと、両手の中が一瞬パァッと輝いた。

「うああああぁぁぁぁぁ・・・」

ビックリして手を開き、手の中の物を放り投げ出したら・・・。


『オニキスだ』

床にコロリと丸い、オニキスが落ちていた。


ふぇぇえ~~~凄い、本当にオニキスが出来た。

呆気にとられた詩乃が、恐る恐るオニキスを拾うと手のひらの上に乗せてみた。

黒々とした、光をも吸い込みそうな・・漆黒な石。

確かにオニキスだ・・何だか、とっても強く頼もしそうだ。


「有難う、誰にお礼を言ったら良いのか解らないけれど・・大事にします」


詩乃は取り敢えず、ブラ的下着のパット入れ的な所へオニキスを仕舞った。

冷たく沈んでいた心が、ほんのりと暖かくなっていくのが感じられる。

嬉しい・・無理矢理この世界に連れてこられて、初めて純粋に無条件に、自分に味方になってくれるパワーに出会えた気がする。


『大丈夫、私はきっと大丈夫・・オニキスが憑いていてくれる』

詩乃の目から涙が一粒ポロリと落ちた、意地っ張りでも寂しいものは寂しい。



 「よし!へばってないで、何かしよう!!」

そうだ、➁に調理室への侵入を許可されたんだっけ、美味しい物に国境は無い!疲れた時は甘い物が一番だ!!


ふんふんふん~~~、鼻歌を歌いながらトコトコと調理室を目指す、もう勝手知ったる離宮と調理室だ。

機嫌よく訪れた詩乃に、何故だか料理人達には嫌な顔をされたが、そんな些細な事など気にしないのさっ、私にはオニキスが有るからねっ!


材料は何かあるかな?遠慮なく見渡したら、リンゴによく似た果物が有った。

ほうほう、3個ほど頂く、砂糖・卵・小麦粉?強力粉かな?バターも有るな。

宜しい、異世界のスイーツを皆さんにご披露しようではないか!


珍しそうに、たぶん備品を心配しての事だろうが、料理人達が集まって来た。


先ずはパイ生地を作ろうと・・あっ!秤が無い!お菓子は計量が命、目分量では失敗する。異世界のスイーツが不味いなどと思われたら、詩乃のプライドが(あったのか)許せない。

どうしようと困ってフリーズしていたら、料理人が秤の様な道具を持ってきたくれた。有難う!膝を折って感謝すると使用人の皆さんにはウケが悪いようだから、ナマステ~+笑顔をしてみる。苦笑いされたがOKのようだ。


パイ生地を作るべくバター?を細かくしていたら、太ったおじさんが詩乃の手をどかして、やおら手をかざした。おぉう、とたんに小さな破片と変化したバターが!!A級か!これがA級の実力なのか!?

思わずパチパチと拍手する詩乃。その後冷水を出してくれるなど、3分クッキングの様相を呈してきた。

パイ生地は折り畳んだり、寝かせたりする時間が必要で、手間がかかるものなのだが、A級さん達は時短魔術が出来るのかサクサクと作っていく。凄い!

パイ生地が出来たら肝心のリンゴだが、詩乃のレシピはアメリカンスタイルで、リンゴは煮ないで焼くタイプだ。薄く櫛形に切ったリンゴを砂糖やシナモン・ナツメグをまぶして、ぐるっと円を描く様にパイシートの上に並べる。オーブンで焼くからね、リンゴはシャリッとした食感を残していて大変に美味しいのだ。このぐらいはやらないとね、自分で作った異世界のお菓子だと主張できなくなる。

料理人さん達は面白そうに見ていてくれた、オーブンに入れて一息ついたとき。


「いい気なものね、使用人を好きに使っ・・痛っ!」

ミアが驚いたように声を上げた、何?何なのよ?この女・・気味が悪い。


「はぁ?そっちこそ何なんだ?」

不思議そうな顔で見る詩乃に、不気味な者を見る様に目を細めるミア。

そのまま、慌てて調理室を出て行ってしまった。


「何だあいつ、変な奴だな」

見習い君が言う・・・全くもって同感です。


出来上がったアップルパイは、使用人の夕食でデザートとして食べられる事になった。まぁ作った工程は見られていたが、毒見も兼ねているのだろう。初めは皆こわごわ突いていたが、料理長が太鼓判を押してくれたので最後には皆食べてくれた、美味しいって言ってくれた、そうでしょうそうでしょう異世界のレシピは美味しいのですよ。そうそう文句っ垂れのミアも食べていた、食べ物は粗末にしてはいけなからだってさ・・ツンデレなのだろうか?



 就寝前に聖女様がお帰りになったので、みんな揃って玄関に出迎えるように声がかかる。たしか某国のTVドラマでこんなの見た気がする、没落しそうな貴族の話・・なんちゃらアビーとか何とか。何で外国のドラマの女優さんて、美人な人が少ないんだろうね?リアリティーを出す為なのかねぇ?


     ******


 聖女様は②にエスコートされて帰って来た、マメだな②、離宮に何回顔を出すんだか・・ウンザリだ。その後粘るかと思いきや、案外あっさりと②は帰って行った、もう夜も遅いからな・・付き合う社員も大変だ。


聖女様は夜も遅いけど、大事な話が有ると詩乃をお茶に誘ってきた。

・・何だか彼女の表情が暗い、悪い事でも起きたのか、心配事の夜が更けていく。


アップルパイはリンゴを焼いたタイプが好きです。


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