銀ロン
ゴスロリを見るのは好きです、この頃見かけないので寂しいです。
馬車の中でも、誰も喋る事も無く静かだった。
『この2人は気が合わないのかな?さっき裁縫中にも最初に少しだけ険悪そうに喋っただけだったし。青護衛は②の手先だけれど、メイドは何処の息が掛かっているのやら』
ごとごと揺れながら考える・・それにしてもドレスの感想ぐらい喋ってくれても良いだろうに、おかしくないかな?
鞄を持って無いので、裁縫室にあった布を適当に切って作った風呂敷に石板と蝋石を入れてある。筆談も出来ないので、絵でコミュニケーションを取るつもりなのだが、上手く行くだろうか・・不安は募っていく。
しばらく走ると窓の外に白いドームが見えて来た、近いね・・神殿だ、あそこから、この世界に来たんだ。魔術師と神官は仕事は被らないんだろうか?
質問してみたい気もするが、言葉が解るとバレると、うかつに本音を喋ってくれ無くなってしまう。どっちの方が、より情報が得られやすいか考えどころだ。
オマケの詩乃としては(気分的にはチョウチンアンコウの寄生している♂と言った所か)、本体の聖女様には早く安定した地位に就いて貰って、自分も安心したいところが本音だが。
適当に手放してもらった方が、楽なのかもしれないけど・・・。
この世界にたった2人の日本人だし、やっぱり心配な気分なのだ・・。
30分ほど走ったら、赤っぽい石の建物に着いた。
周りに赤い装束の騎士がいる、赤騎士か?魔術師系騎士が赤なのか。神殿が白騎士、青は脳筋のダメ騎士で、平民もいる騎士団か。赤・白・青どこが一番強いのだろう?
そんな事を考えながら馬車を降りたら、建物の前にゴスロリの集団が待ち構えていた、なんだこりゃ?ってよく見ると。
見た目年齢の詩乃位の子から~聖女様位の自称美少女枠~その母親位まで、幅広く集まってヒソヒソと此方を見ている。珍獣か私は・・それにしても、ゴスロリって細めの美少女なら似合うけれど、骨太でゴツイと装甲強化服みたいだよね?頭もリボン&ドリルの髪だから、ゴツイ・クドイ・見分けが付かないの三拍子だ。ど~せ、異世界から来た奴隷のサルでも見に来たつもりなのだろう。変にビクビクオドオドしていたら、聖女様の足を引っ張ってしまう。
『私は女優、行くのよ詩乃・・私は恐ろしい子なの』
ギャラリー達の前で足を止め、詩乃は微笑んで優雅に膝を折ってお辞儀をし建物の中に入って行った。評価は気にしない、どうせ好意的な目をした人は居なかったもの。
建物の受付な様な所で護衛の騎士が青から赤に代わる、所轄が違うとか言うんだっけ?詩乃を上から下までジロリと見た赤は「2階で魔術師長が待っている」ぶっきらぼうに告げ案内してくれた。
赤の言葉はそれほどノイズが無く解りやすかった、この人はそれほど魔力の強い人ではない様だ。メイドは受け付け横のベンチで座っている、終わるまでそこで待つつもりなのか、一歩も動くものかの覇気を感じる。メイドって主人にず~っと付き添っているモノなんじゃないの?この世界には職務遂行の精神はない様だ・・まぁその方が動きやすいんだけど。
部屋の前には、さらに赤護衛が2人立っていて、連絡がついているのか大げさな彫刻の有る観音開きの扉を開けてくれた。
「失礼いたします、異世界人の少女を連れてまいりました」
『へぇ、奴隷から少女にランクアップしている。聖女様の口添えか?はたまた、この服が異世界の少女っぽいのかな?』
護衛はあっさりと出て行き、詩乃はぽっねんと1人残される。
大きな机を扉の方に向け4面本棚に囲まれた部屋に<老けているんだか、若いんだか良く解らない銀髪ロン毛>の男がいた・・この人が魔術師団の師長か、召喚された時にも聖女様の傍にいたよね。机に積み上がっている書類のタワーもお約束か。
「ふん、異世界の服か。この世界の貴族の女どもの、やたら布を使ったゴテゴテした服よりよほど良い」
おぅ?好感触?でも銀ロンさん、貴方デロっとした布面積がやたら有りそうなローブ着ていますよね?
人には厳しいタイプですか?突っ立って居たら、そこに座れと手を振られた。
それにしても窓も無く四方が本に囲まれて、圧迫感が無いのだろうか?トイレに行きたくならないのかな?研究バカとワーカーホリックの匂いがするぞ?
静かに座って待っていたら、違和感を感じた。
いや、本来こっちの方が正常なのだが・・ノイズが無い。そう、この世界に来てから、たえず耳鳴りの様に聞こえていた騒がしいノイズが聞こえない・・正直ホッとする。
不思議に思った詩乃は石板を持ち出して、棒人間がノイズに耳を塞いでいる絵を描いて銀ロンに見せる。
机を指さし<ここはノイズが無い>と手を横に振って見せた・・通じたかな?
「あたりまえだ、雑多な魔力は研究の邪魔となる。ここは他の魔力が通らない様に結界が張ってあるのだ。そして、私の潤沢な魔力は常に抑え込んでいるから他の者は感じられない。本来なら、お前など私の魔力の前では意識など保っておられんのだ」
・・何気に自慢しているね銀ロン。
魔力を抑えている為か、銀ロンの言葉は解りやすい美人さんの次にぐらいだ。
「しかし、異世界の聖女はさすがだ。私の魔力にも劣らない、其ればかりか私を上回るベクトルもあった。魔力が釣り合う者がいないから、結婚も諦めてはいたが・・。あの聖女となら優秀な私の血筋を残せるやもしれんな、こんな有意義な事があろうか?強い魔力を次世代に残すのは現役世代の務めだ」
『うへぇ~、何言ってくれるんだか。それ口説き文句にならないから、繁殖の実験じゃないんだからさぁ。これだから、研究馬鹿は・・理系脳というか女心に疎いと言うか』
詩乃は鼻に皺を寄せてジト目で銀ロンを見つめた。
銀ロンはそれからしばらくの間、前に座っている詩乃にお構いなしに、いかに自分の魔力が素晴らしいか、聖女との間にどんな輝かしい未来が有るのかを演説していた。
「なにしろ、私が見込んで召喚したのだからな。神殿の奴らは能書きは多いが肝心な魔力が足りない、実際に召喚できたのは魔術師団の手柄、ひいてはこの私の力だ」
『元凶はこいつかー!!』
詩乃は思わず、グーで殴りたくなった。
詩乃は机を指で神経質にトトトトト・・・と叩いて銀ロンの注意を引き付ける。
驚いたようにこちらを見る銀ロン。
『何驚いている、最初から居ましたがな』
詩乃は怖い顔をして口に指で✖を付けた、それから石板に聖女様の似顔絵を描き(似ていたのか、銀ロンがオオゥと嘆息した、キモッ)聖女様を指さして泣きまねをした。
途端に慌てる銀ロン
「そんな事は無い、聖女は非常に落ち着いていて知的な才媛で・・・」
詩乃はチチチ・・・と人差し指を振る。
石板に月と膨らんだベットを描き、また泣き真似をする。
「なんと、聖女は夜一人で泣いているのか・・・」
詩乃はズビシっと銀ロンを指さし、手を腰に怒ってる真似をする。
「いや、私が悪い訳ではなく、召喚は王家や議会の決定で・・・」
オロオロオロオロオロロロロロロロロ。
この人社会性ないね、こんな小娘に脅されてオロオロするなんて人間関係に弱そうだ。聖女様Getだぜ逆ハー競争で、あのキンキラ王子達に勝てる気がしない。
詩乃はトトンとまた合図をすると、自分を指さし、口に人差し指を当ててシーっとした。
「おおぉ、そなた黙っていてくれるのか?」
口封じに詩乃を消し去る事を考えない当たり・・意外と良い奴やもしれぬ。
****
その後の魔力判定で(こちらが本来の面談案件である)詩乃はいい結果が出せなかったが、貴族E級・平民B級の生活魔術を学びたいとの要望に応え、銀ロンは離宮に近い王室の魔術室に個人教授を差し向ける事を約束をしてくれた。余計な事を聖女に言わない約束で・・二人だけの秘密って奴だ。
ちなみに、最初の中2病的魔術で大水を呼べたのは、召喚された際に聖女と一時融合したので、彼女の魔力が詩乃の中に残留していた為だと仮説が立った。
『ちぇ~っ、残念、魔法少女に成れなかったよ』
「それにしてもお前は不思議な質をしているな、この世界は誰しも魔力を持っている、平民のF級でほとんど魔力無しと判定された者でも、魔力の波動・・お前の言うところのノイズを発している。聖女もまた叱りで、彼女は非常に魅力的な波動を持っている。なのにお前は何の波動も発していない、貴族のE級の魔力が有るのに・・だ。さらに先日の王家の方々との接見の際でも、重鎮達や我々魔術師達もいたのにも関わらず平気な顔をしておったな。あれだけの多くの魔力の中、普通の平民では死んでいてもおかしくない状態だったのだぞ・・非常に興味深い。暇が出来たら観察し研究してやってもいい」
『おい!何でそんな所に連れ出した?殺す気か?謝罪と賠償を要求するぞ!』
研究などとんでもない、謹んでお断りさせて頂きます。
もう退散しようと立ち上がった時に、詩乃は石が沢山入った木箱を見つけた。
研磨もしていない自然石、とりどりの薄い色が付いている。
・・・綺麗ではないか?
詩乃が見つめているのに気が付いたのか、銀ロンは空の魔石だと教えてくれた。
魔力を使い果たしたカスなのだと。
「そう言えば、お前も石を付けているな。異世界の魔石か?」
銀ロンは暫く詩乃のペンダントを見ていたが、魔力も無いただの石だとつまらなそうに吐き捨てた。
『違うわい、パワーストーンだい』
故郷を馬鹿にされたようで面白くない、石には素敵なパワーが有るんです!
空の魔石には少々興味が湧いたので、欲しいとジェスチャーしたら、廃棄物だ木箱事持ってけと言われた。
『勿体ない、研磨したら結構綺麗になると思うんだけどな~』
外にいた赤騎士に木箱を運んでくれと頼んだら、少々・かなり嫌な顔をされたが、華麗にスル~して運んでもらう。お暇の挨拶をして部屋から退散した、2度と会うことも無いだろう。
『それにしても無波動か、前に黙って離宮の外に出た事が有ったけど、騎士にも誰にも見とがめられなかったねぇ。それって・・ステルス・・?』
この世界の常識から、自分は少しばかりはみ出している様だが・・ステルス機能が有っても、利用の仕方など全然思い付かない詩乃だった。
服で階級が決まっていると、辛い人もいますよね~。
カボチャパンツとか白いタイツが嫌いだった人もいたはず・・・。
銀ロン・・イメージイラストです。