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聖女様と②

 女官を軽くイラつかせながら歩いて行くと、前に来たことが有る部屋に行きついた・・応接室だっけ?最初の晩に美人さんと共に通された、来客用の豪華な部屋だ、誰か偉いさんでも来ているのかな?


「お嬢様をお連れしました」


女官がそう言うとドアが開いた、おおぅ自動ドア?自動じゃなくて人力だった。

部屋の中に騎士がいて開けてくれたようだ、むむうぅ・・青騎士か。

詩乃は青には少しばかり偏見?いや、思うところが有る。


 部屋の中央にある一人掛けソファに、聖女様が座って微笑んでいる。

異世界生活3日目にしてすでに女主人の貫禄がある、お見事!凄いね、セレブの本領発揮だね使用人を使う事に迷いが無い。

詩乃など旅行に行った時、旅館の仲居さんに揃ってお辞儀をされたり、荷物を持ってくれたりされると、こそばゆくて・・・無理!ってなる。

当方、小市民なのでございます、どうぞ御気使いの無い様お願いします。



「おはよう、よく眠れて?朝早くからごめんなさいね」


いえいえ、こちらこそ、詩乃は喋らず日本的ジェスチャーで答えた。

他のメンバーが怪訝な顔をする。


「どうぞ、ここに座って」


聖女様は恐れ多くも、自分の隣のソファに詩乃を誘った。

詩乃は満員電車で降りるリーマンの手さばき、<前を失礼します>を王子の前でやってやろうかと思ったが、異世界での故郷の風評が微妙になるかもしれないので止めておいた。グルッと遠回りして他のメンバーを避けつつ、聖女様の隣のソファに座る。


「こちらの方は第2王子様、目下の者からお声を掛けてはならないから、呼称は第2王子様でよろしいでしょう」

多少の嫌味が入っているのか、②は憮然とした顔をしている、さては・・聖女様に名前を呼んでもらえないとか?好かれてはいない様だ。

②は神殿の投げ飛ばし事件の時に嫌味を言われていたキラキラの方だな、って事は。出た~至上最高・最悪暴力男、青い騎士の大男が般若の様な顔で②の後ろに立っている。こいつら、二人でワンセットなのか?朝っぱらから嫌なものを見てしまった。


「お前には、貴族の部屋は合わなかったようだな?」

②は鷹揚にそう言うと、膝に片肘を付いて面白そうに、のぞき込むようにして詩乃の顔を見た。馬鹿にした顔をしている。


『感じ悪ぅ、さすがダメ青のご主人様』

詩乃は騒がしいノイズの中、どうにか言葉を聞き取っていたが、解らない振りをして困った顔をして聖女様を見つめた。


「何が有ったのか、だいたいの想像は付いています。ごめんなさいね、嫌な思いをしたのでしょう?聖女と言われる私でさえ嫌な目に遭うのだから・・いったいどんな社員教育をしているのかしら、あきれてものも言えないわ」

強気だね聖女様、②は涼しい顔して笑っているが、内心は穏やかではなさそうだ面と向かって批判された経験など無いのだろう。

後ろのダメ青は般若面から大魔神面になりそうだ、忠誠心が強いのか、駄目な子ほど可愛いって奴なのか・・護衛のくせに表情が顔に出過ぎじゃぁないのかな?


「自分で整えた部屋が良いのなら、そこで暮らしてもかまいません。あのメイド達はもう離宮には居ないから、安心してくださいね」

『素早い人事異動だね。』


聖女様は、部屋の隅に控えていた女官長に2人に目を向ける。

女官長は頷くと隣の女官に頷き合図を送る、その女官は・・面倒臭い・・伝言ゲームか?時間のかかるやり取りの末、部屋の中に2人の人物が呼び寄せられた。

年若いメイドと青騎士だ。


女官長が二人の紹介を始めた、

「メイドのミアですA級平民ですので、お嬢様の話相手には丁度宜しいでしょう、専属ですので自由にお使い下さい」

「ミアと申します、よろしくお願いいたします。」

「お前の護衛はこの者がする、青騎士隊の中堅隊員のギイだ。貴族に慣れていて常識も有るし、この者の指示に従っていれば間違えは無い慣れて・・余計な世話をかけるなよ。」


護衛の騎士は大魔神が紹介した・・あんたの部下かいな?


青騎士の人はさっきドアを開けたくれた彼だった、詩乃の前で膝を折り胸に手を当てて挨拶をしてくれた。その様子に神殿の事件でトラウマになったのか、大魔神が引き攣った顔をしてみている。ギィさんはこれと言って特徴のない、モブ中のモブと言ったところか。


『案外、諜報部の精鋭だったりしてね。<聖女様の弱み>の傍に控えるんだから、ただのおじさんでは無いでのでしょう』

詩乃は二人の顔をジッと見つめると、頭を下げない程度に頷いた。


「今日は予定通りに、聖女には魔術師団に出向き魔力の検査を受けてもらう。小動物、お前もついでに検査を受けろ、今朝の様な騒ぎは一度で沢山だ」


『むうぅ?今まで相手にもしなかったくせに、どういう風の吹き回しだ?』

不思議そうな顔を装って、聖女様の顔を見る。


「召喚された時、神殿に居た者は誰もあなたの魔力を感じなかったそうよ。

だから魔力の無い平民として扱う事にしたそうなの、けれど今朝の出来事を見ると、ただの平民には思えないから検査をしたいと申し出があったわ。

勝手な話ね、でもそれであなたの立場が少しでも良くなれば・・とも思うのだけれど。どうする?嫌なら、突っぱねる事も出来るわよ?」

何処までも庇ってくれるつもりの聖女様に、有難うと微笑む。


まぁ、でも苦笑いのギャラリー達の気持ちも慮って了承することにした。

自分のスペックを客観的に知る事は大事だろう、出来る事が解らなければ努力のしようがないからだ。それから②に、御座なりに何か必要な物は無いかと聞かれたので、書く物がほしいと聖女様経由で伝えた。


 聖女様は離宮の調理室が何故だか使えなくなった為、王宮で朝食を採るようにとエスコートされ出かけて行った。何気に嬉しそうじゃないか、②よ私に感謝しろ。

詩乃の魔力検査は午後からで、迎えの馬車が来るそうだ。

お付の二人を含むメイドと女官と共に、玄関からお出かけする聖女様を見送った。

馬車が出る際、②に「お前は調理室に出入り禁止だ」と宣言されてしまった。

むぅ・・・意地悪。


 その後、食堂の様な所で皆で朝食をいただく、お客様からスタッフに格下げの感だが、目を離すと碌な事をしない的な監視の方が強いようだと感じた。どこからかケータリングして来たようで、配膳していたメイドが神殿の食事は味付けが薄いと文句を垂れていた。

料理人もいたので、今朝の水撒き事件の件を膝を折って謝る姿勢を示したが、調理室の汚れが取れて綺麗になったと逆に感謝された・・慰めてくれているのかな?

見習い君は目を合わせてくれなかった、怒っているのかな?此処では友達を作るのは難しそうだ。


食事のあと、調理室の片付けを手伝おうとしたら女官長に追い払われた。

その様子を見ていた青護衛に

「あなたは第2王子に出入り禁止を食ったでしょう」

と呆れ顔で言われた。


『②の事など知らん、言うこと聞く筋合いはない』

・・・と、内心思いながら、すっとぼけて首を傾げて見せると。


「第2王子は聖女様の後見をしています、この世界では聖女様もまだ貴族籍が有りませんから、後見が必要になります。当然あなたも王子の庇護のもとに在ります」

詩乃が鼻に皺を寄せて見せると。


「第2王子は軍部のトップで、実力主義の方で平民の隊員も沢山抱えていますからね。あれでも平民に忌避感の薄い方沢山なのです」

と説明してくれた、彼も平民の出だと言う・・A級なのだろう。


貴族ファースト主義の第1王子は、聖女の後見になるのを拒否したのだそうだ。

どこの馬の骨かも解らない、召喚されて来た者の後見などできぬ!っと言い張って・・・。ところが召喚されてきたのは絶世の美少女だった。今更ながら、後見を変えろと煩いらしい。

これだから男は・・私が単独で来ていたら、完全に城外にポイ捨てされてたよ。

・・・あぶないあぶない。



 さて、お呼びがかかるまで暇になってしまった。

しょうがないので、お布団でも干そうかいな・・と部屋に戻ったら、木切れの積んだのと石板が机の上に置いてあった。

『仕事が早いね~。でも、不法侵入か?』

その辺の事情は解らないので、後で聖女様に聞くとして・・。


詩乃は石板にハサミと針、糸巻きの絵を描いて新しいメイドのミアに見せた。

それからタンスからゴスロリを出すと、指2本使って切る真似をする・・ゴスロリをリメイクして自分に似合うシンプルなワンピースに変えたかっのだ。


ミアは頷くと裁縫室に案内してくれた、そこは学校の家庭科室の半分くらいの広さで、トルソーなども揃っているなかなかの設備なものだった。詩乃は嬉々として用品を確認し、リッパーの様な縫い目を解く器具でゴスロリを解体しだした。


『この半魚人のような、大きいフリルを取れば少しは良いと思うんだ』

詩乃の母親はアパレルメーカーのパタンナーで、幼いころから布地と型紙には慣れ親しんでいた。詩乃の手芸好きのルーツとも言える。ミアがミシンの様な魔術具を出して、使い方を教えてくれる。

『おおぅ、便利!』

これは作業が進むぞ!2人に背中を向けてカタカタとミシンモドキを使う。



「いいのか?衣装のデザインは階級を表す印だろう?貴族の衣装を与えられているのに、わざわざ平民仕様にする必要は無いのでは?」

ギイがミアに注意をする。


「私は彼女の好きにさせる様に命じられていますから、機嫌を損ねて前のメイド達の様にクビになるのは御免です」

「彼女がみっともない恰好をすれば、聖女様の事評判も悪くなる。ひいては後見の王子にも恥をかかせる事になるのでは?」

知った事では無いと、ミアは顔をそむける。


『このメイド女官長の推薦と聞いたが、主が何処の派閥の者か調べる必要があるな』

ギイも腕を組みミアに背を向けた、A級平民も柵からは逃れられない様だ。


誰も何も喋る事もせず時間だけが過ぎていく、4時間も経っただろうか。


『できた~~~』

詩乃はワンピースのリメイクを完成させた、半魚人ゴスロリから上品なAラインのワンピースへと大変身だ。布がやけに豊富だったので、スカート部分は緩やかなフレアに成っている。半魚人の先に付いていた白いレースを取って、首元と袖口にカフスの様に付けた。すっぽりと被る仕様だったので、前身ごろを開けて白い小さいボタンでアクセントを付ける。これで十分可愛いと思うが、此処の人達はゴテゴテしていデザインが好きそうなので、余り布と白いフリルでコサージュを作り胸元に飾った。


『どうだぁ!お母さん仕込みのセンス、良いだろぅがぁ!』


布地が良いからね、バレエでも見に行く様なお出かけ仕様な衣装になった。

早速着替えようとしたら、ミアに衝立の向こうに押しやられた。

あぁ、護衛の青が居ましたね。あんまり存在感無いから忘れていたよ。


   ****


 魔術師団へのお迎えの馬車が来たと報告され、女官長は出発の確認のため玄関に向かった。其処で見たものは・・・。


着慣れない貴族の衣装を着た貧相な奴隷の小娘ではなく、見慣れぬ衣装を纏った異邦人の少女だった。ゴテゴテしたフリルの為に、上半身が嫌に大きく見えるのが貴族の衣装の常だが、彼女の意匠はスカート部分に重心が有る為か全体的にとてもスッキリと見える。白いレースと若草色の布地が、少女の若さを引き立てていた。短い髪を気にしたのか、共布で作った見慣れぬ帽子も被っていた。


貴族にも見えないが、ただの平民にも見えない、この世界には無い意匠だった。

・・良く似合っている。


「変わった帽子ですね?」


女官長の言葉に首を傾げる詩乃。


「いいえ、別におかしい服ではありませんよ。それより、魔術師団で余計な事をしでかさない様になさい。ミア、ギイさんお供を頼みましたよ」

女官長は、そう言って詩乃を送り出した。





『変わった意匠だこと、まさか社交界で流行る事は無いだろうが』

・・流行を発信してる、有力貴族の女性達はどう思うだろうか。

彼女らは第1王子派が多い、聖女に近づく方便に、ダシに使われる事も有りそうだ。何もできない奴隷の小娘だと思っていたが、面倒だこと・・女官長は今日何度目かのため息をついた。


知らず知らずのうちに、引っ掻き回すタイプの詩乃さんです。

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