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聖女様のお怒り

マイペースな詩乃です。

「どう言う事です、説明してください」

聖女様の柳眉が逆立っている、相当お怒りの様だ。


晩餐会の終わった深夜、離宮は聖女様の静かな怒りの魔力で満ち満ちていて、顔面蒼白なメイド達は魔力の圧と緊張で今にも倒れそうになっていた。

聖女様の応接室に数十人が立ち竦んでいる、今日の午前中、聖女様が留守の時に詩乃をコケにして笑っていたメイド達だ。


「私達にも解りかねます、お嬢様はお部屋を見て何やら話してニッコリと笑い、それから出て行ってしまいましたもので」

メイド達は困惑した様子でお互いの顔を見合っている。


「それで、どうしたのです?」

聖女様はソファに浅く座り、姿勢を正してメイド達を睨みつける。


「どうしたとは・・・?」

「この世界に来て、右も左も解らない者を、ただ一人で行かせたのですか?何故、後を追わなかったのです。貴方達の仕事は何です、私は何を頼みましたか?」

あの子の世話と安全を頼んだではないか、何故職務放棄した怠慢ではないか!

メイド達は一言も答えられず、ただ悄然と聖女の前に並んで立っていた。


やがて、オズオズと

「付いてくるようにと、支持が無かったものですから」

と言い訳をする者が出て来た。


「そう、あなたはいちいち支持されないと、何も考えられず判断出来ないのね」

何たる無能、自分達の評価が聖女様の冷たい目の中に伺える、メイド達は震えあがって断罪の時が過ぎるのを待った。

・・・静まり返った部屋に、女官長がスルリと入って来た。


「聞いてまいりました、お嬢様に昼と夜の食事は出していないそうです。メイドから依頼が無かったとの事で、調理室は用意しなかったそうです」


料理長、余計な事を言って!能面メイド達の背中に冷や汗が流れた。


「・・ですが、見知らぬ小さな女の子が調理室に現れ、見習いの手伝いを始めたので、褒美に夕食を与えたそうです。お気に召したのか完食されたそうですわ」

取り敢えず餓えている事は無いでしょう。


「良かった、それで、あの子は何処にい居るのです?見つかりましたか?」


女官長が黙ってお茶を入れ始める、緊張を解すハーブティーだ。

「いま、女官が確認しておりますので、しばしお待ちください」

そう言うと、そっとカップソーサーを聖女様の前に置いた。



「聖女様、見てまいりました。神官長のお話の通り、東の端の見習いの部屋におりました。どこから調達したのか、ベットや書き物机、椅子にタンス、ラグまで敷いてありましたよ」

報告した女官は、それからちょっと言い淀み。


「神殿の聖なる明かりが机の上に置いてありました、家具や寝具など必要な物を揃えたのは、どうやら神殿の関係者のようです、寝具に神殿の星の印が付いていましたから・・。どうやって、神殿関係者と知り合ったのか、面倒な事にならなければ良いのですが・・」


「それで?あの子の様子はどうだったのです?私の聞きたい事はあの子の事です」


ハッとして女官が頭を下げた。

「申し訳ありません、お嬢様は明かりを点けたにも関わらず、熟睡しておいででしたので健康面に問題は無しと判断いたしました」


・・・慣れない環境で気を使って疲れたのでしょう・・可哀想に。

聖女はそう言ったが『それは無い』と幾人かのメイドは思っていた。


お茶を一口飲み、詰まった息を吐きだした聖女様はゆっくりと言い出した。

「解りました、そちらが用意してくれた物では、あの子の気持ちに馴染まなかった様ですね。メイドを含めて全て必要有りません。解任しますから離宮から出ていくように」


突然の聖女様の宣言に、メイド達は騒然となった。

「何故、私たちが解任されなければならないのですか?」

「勝手に出て行ったのはあちらの方です、部屋の設えは完璧でした。私たちに落ち度は有りません、あちらが我儘なのです」

「そうです、あちらが私達に、付いてくるなと言ったのです」

「聖女様は、私たちを信じては下さらないのですか」

「私達に落ち度は有りません」

詰め寄ろうとするメイドを、女官長の鞭が遮る。


「貴方達の何を信じろと言うのです?職務を放棄して恥じ入る事も無い貴方達に?道連れに無理やり召喚させてしまった私を、一人で泣いていた私を、責めもせず寄り添ってくれたあの子と・・私がどちらを信じると思いますか?」


それに・・・


「あの子が此処を出て行ったのは、部屋と共に貴方達をも含めて、すべて気に合わないと判断した為でしょう、私はあの子の意思と判断を尊重いたします」


解任の決まったメイド達は、皆そろって項垂れた・・さっきまであの小さいのを笑っていたのは私達だったのに。立場の逆転、いや立場が上だと思っていたのが、そもそもの間違えだったのだが。


   ****


 「むうぅ~~眩しい、朝かな?」

詩乃は昨日の睡眠を取り戻すかのように爆睡し、さわやかに目覚めた。


だってオチオチ寝ていられない、東から太陽が集団でおはようして来るのだから。

着替えが無かったので下着で寝ていたのだが、何故だか机の上に新しい下着と寝間着が置いてあった。


『むぅ?小さな靴屋の様に、この世界には小人さんでも居るのかな?』

・・・不法侵入?まぁ、いいや助かった事には変わりない。


立ち上がってタンスの中も見てみた、半端ねぇ・・ドレスが7着も入っている。

一日一着なのか?それにしても、基本が原色のゴスロリ?とは・・似合わないんだよ嫌がらせか?取り敢えず一番地味目な青ゴスを着て、調理室に出かける、見習いは一番早く出勤しないとね。


 調理室に着くと、すでに細っこい見習い君が作業をしていた。

『むぅ、挨拶は人間関係の基本だが、また笑われるのもなぁ・・』


迷いながら近づくと、見習い君の方が詩乃に顔を向けた。

詩乃は昨日騎士に教わった様に、軽く膝を折り胸に手を当てて挨拶してみる。


「はっ、何かっこ付けてんだか」

およ?使用人にはウケが悪いのか?


「おはようございます」

だよ、言ってみな?


ほぅ、リピート アフター ミーですな?

「おおよでぅざましゅ」

「何だそれ?忙しいからまあ良い、俺が水を出すからお前オーブン温めてくれ」


??水を出す?水芸かい、昔おじいちゃんに連れられて行った、浅草の寄席でそんな手品を見た記憶があるぞ?良い不思議に思った詩乃はトコトコと見習い君の後を付いて行く。


「こっち来るなよぉ~しょうがないな~もぅ」


見習い君は大きなタンクの様な物の前に来ると、おもむろに手を翳して何やら呟いた。途端に底の方から、みるみる水が盛り上がり溢れてくるではないか。


「凄~~~~~!!!!」


手品じゃ無くて魔術師ですか、料理人の見習い君でさえ魔術が出来るのがデフォルトですか。さすが、異世界!凄い凄いと、隣で跳ねて興奮する詩乃。


「はぁ?水くらいでなに驚いているのさ、お前は魔力無しの平民か?平民で下働きが出来るのは、A級だけなんだぞ。俺はA級だから平民でも王宮で働けるんだ。何でお前、此処にいられるんだ?」


話なんて聞いちゃいない詩乃が、見習い君の真似をして、手をかざして中2病満載の詠唱を唱えだす。

「すべての生命の母、精錬なる水の女神アクアマリンよ。乾き苦しむ哀れな民を潤す為の水をここへ届けたま・・・」


唱えている最中に水が猛然と噴き出して来た、間欠泉の如くの勢いで、詩乃と見習い君は調理室の外へ、裏口のドアから大量の水と共に吐き出されてしまった。


         ドバアアアァァァァァーーーーー


一面水浸しで詩乃も濡れネズミだ、見習い君は遥か向こうに飛ばされ、でんぐり返って木にぶつかり倒れている。

『ぎやぁ~~~、またやっちゃた~~~』


「ごほっ、ごほっ、鼻に水が入った~~」

鼻がツーンとし頭がキーーンと痛くなって、思わずOrZで蹲っていたら、どこからか青筋立てた女官長が飛んで来た。


『わぁ、凄いですね女官長、その体形で走れるんですね、でも膝はお大事になさってください』

詩乃のお婆ちゃんは、体型がふくよか過ぎたのか自重で膝が痛んだのだ。

女官長は腕力も凄かった、びしょ濡れの詩乃の襟首を猫の子の様に掴み上げると、風呂場にぶち込んで見られるようにしろとメイドに指示を出した。



詩乃は気が付かなかったが、護衛をしている青・白・赤の各騎士がこちらを伺っていた。


『この話は瞬く間に、王宮中を駆け巡るだろう』

・・面倒な事にならなければ良いのだが、女官長は一人呟いた。



    ****



 『朝風呂とは贅沢だね、びちょぬれの自分が悪いんだけど・・』


メイドさんは詩乃を風呂場に追いやると、着替えを用意すると言って出て行った。


『初めに入った場所だね、ここは・・何ヶ所風呂が有るんだか、凄いね』

此処の石鹸は使用人専用の所より匂いが良い、アワアワと泡立てお風呂を楽しむ。


脱衣所で体を拭いていると、見知らぬ女官が入って来た。

下着と、ドレス一式を渡され一人で着替える様に言われる、女官は詩乃の世話をする気は更々無い様だ。

たいしたドレスでは無いから自力で着られそうだが、これでコルセットとか付けなければならない仕様だと泣きを見るかもしれない。

着替え終わった詩乃が廊下に出ると、外でまた別の女官が待っていた、付いて来いとジェスチャーをされて詩乃は素直に後をついて歩いた。

女官は詩乃を振り返る事無く、ドンドンと先に進んで行く。


『う~ん、コンパスの違いかな・・歩くの早いねこの人』

別に相手のスピードに合わせる気も無い詩乃は、自分のペースで黙々と歩いて行く。

『相手に合わせちゃ負けだって、なんのラノベに書いてあったっけ』


先行していた女官は、遅れて離されている詩乃をチラッとイラついた目で見ると、止まって待ちながら前を向いて独り言を言い出した。

「いい気なものね、何様のつもり何だか。オマケでついて来たのだから、迷惑をかけない様に大人しく飼われていればいいものを・・。聖女様も聖女様よ、本当に救い主になれるかどうか、まだ解ったもんじゃないのに・・偉そうに不愉快だわ、王子様達も早く目を覚ませば良いのに」


本音を聞き出すには、相手を怒らせればいいんだっけ?

・・・・大量の情報、有難うございます。



聖女様でも、立場は微妙なのか・・・。

騎士は青と白、さっき赤もいたしな。

王子は複数いるようだし、神殿と王宮、魔術系の派閥も有ったりして。

此処のパワーバランスは、どうなっているんだろう。




 さて、聖女様は、どの立ち位置を選ぶのだろうか?

詩乃に出来る事は有るのかなぁ~、無いだろうなぁ~。

そんなことを考えながら、詩乃はドナドナの気分で歩いて行った。


マイペースは、他の者をイラつかせます・・・って話でした。

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