これにて一件落着
第1王子が気を失って拘束され、神殿の筆頭騎士も後ろ手に縛られた。
もう第1王子がどのように言い訳しても、王都中に事件の詳細は知れ渡っているし、何らかの処罰は免れる事は出来ないだろう。
そして、広場に居る何百・何千のオレンジ色をした平民騎士達の処罰は、一体どうなるのだろうか。平民騎士達は、オレンジ色に染まりながら裁きの時を戦々恐々と待っていた、軍のトップであるはずの第2王子はどんな処罰を科すのだろうかと。
が・・・王子は・・・。
「待ってくれ、皆の者!私の話を聞いてくれ!5分だけでもいい」
突然立ち上がると、演歌の様な事を言い出した。
王子はバルコニーの中央に立ち、平民の騎士達を見回し話し出す。
「平民騎士達の間に、出征の不満が有る事は知っていた。
知ってはいたが・・私は握り潰して無視してしまった。何故ならば、強い騎士が前線に行けば強い魔獣を倒す事が出来る。そうすれば民も喜ぶし、何よりそれが合理的だと思っていたのだ。それに平民は貴族の、王家の指示に従うのが当たり前の事だと信じ込んでいた。ところが・・ある者が、私にこう言ったのだ・・。
【平民だって、喜んだり、悲しんだり・・感情を持って生きている。貴族と心は何ら変わりはないのだと・・】
それでも実感できなかっのだ、王子と言う立場は喜んだり、悲しんだり、感情を表に出す事は恥ずべき事だと学んでいたから、感情と言うものも良く解らなかった。それに今まで、他の誰かの心配をしたりする事は無かったから・・むしろそう言った感情は、為政者には悪になると教えられて来た」
王子はそこまで話すと下を向き、大きく息を吐いて木本を整えると、ゆっくりと聖女様の方に振り向き顔を見つめた。
「私は、今日生まれて初めて人を心から心配したのだ。こんなにも心が痛く、苦しく辛い事は無かった。無事な姿をこの目で見た時には、どんなにか安堵し神に感謝したことか。そんな思いを長い間、不公平な出征で大勢の平民騎士達やその家族、愛する者達に私はさせて来たのだな」
すまなかった、そう言うと第2王子は平民騎士達に深々と頭を下げた。
平民騎士達は、貴族に、ましてやあの王族に、謝られ頭を下げられた事など無かったので、大変にビックリしたのだが・・何人かの騎士は
『あ、てっぺん・・薄い、ちょいヤバい』と、思っていた。
さらに王子は、罪人の様に(正しく謀反人だが)後ろ手に縛られている神殿騎士ジャンビに近づき、自らの手で剣を取りその戒めを切った。
「すまない騎士ジャンビよ、お前からの嘆願書は私まで届いていなかった。私は軍のトップとして、配下の将軍達の信頼も得てはいなかったのだ。耳触りの悪い報告書や嘆願書の類は、私の怒りと報復を恐れた将軍たちの手によって隠されていた。私は何も知らず、知らされず・・1人お山の大将で、戦ごっこに興じていた幼児と何ら変わりがない」
『お山の大将で、自己中で、我儘坊やで、自意識過剰で自己評価が高すぎる・・➁の悪口はドンドン湧き出すね』
「もう遅いか、今からでは軍も民も、この国も儚くなってしまうのか?」
第2王子は、ジャンビの手を取り願った。
「頼むもう1度だけ、私と共に働いてはくれないか?信頼せよとは言わない、信じてくれとも言わないが、もう1度だけ・・私にチャンスをくれないか?」
『どうしたんだろう②は、気持ち悪いくらい素直だな?』
詩乃はいつにない②の様子にチキン肌を立てていた、居心地が悪くてたまらない。
真面目なジャンビは騎士の最敬礼を取ると、服従を示すため処刑前のように首を伸ばした。
「この命、いかようにもお使いください」
「すまぬ命は預かった、この後は私の補佐官に成るように」
勝手に人事を決めていた。・・・神殿長が怒ると思うぞ?
更に②は、衆人注目の中、真っすぐに聖女様の前まで歩いて行くと聖女の前に跪き、彼女の手を軽く握りると唇を落とした・・うげぇっ。
「聖女よ、混沌の闇の中に一筋の輝きとなって表れた光の女神よ。
どうぞ、この迷える男とこの世界に、異世界の知恵と魔力を貸しては下さらぬか?弱って行くばかりのこの国と民の為に、この私に力と勇気を授け共に悩み考え働き世界を救っては下さらぬか。聖女には何の恩も返せない我々だが、この心は常に貴方の傍に、貴方の犠牲に報いる様な国を創る為に、全力を尽くして生きて行く事を・・私はいま此処で誓う」
『か~っ何だよ、さっきの布団騎士は前振りかよ!そんでもって、こっちが本命か?公衆の面前で、チャッカリしてるよ②の奴』
感動的な場面なのだが、裁縫室での地団駄王子を知っていると嘘臭くて。
それに、隣に立って居る銀ロンから何やら不穏な気配が、恐るおそる見上げたら。
『・・おぉぅ、鬼の形相だよ・・おっかない。でもねぇ~』
「まぁ~素直になれるのと、時間に余裕が有るのは若者の特権ですからねぇ」
小父さんじゃぁ・・そればっかりは、どうしようもないしねぇ~~。
呟いた詩乃に銀ロンが瞬時に反応した。
「私だって、まだ23歳だ!」
「ええぇぇ~~。40歳オーバーだと思ってた・・痛い痛い痛い・・」
銀ロンが詩乃の頭を拳固でグリグリし出した、痛いから!ホントにそれ痛いから。
何だって皆、詩乃の頭で憂さを晴らそうとするのか!
多分、頭の高さがちょうど良いポジションなだろうが・・・迷惑です!
[ドオオオオオオォォォォォォォ・・・・・]
バルコニーの魔術師長とオマケの掛け合いを、拡声の魔術具が拾って流していたのだろう。ヒリヒリとした緊張で押さえつけられていた平民騎士達が、一斉に大笑いし笑いすぎて涙を流している。何がそんなに面白いのか、詩乃にはサッパリ解りかねるし大いに不本意なのだが。明るい顔をして笑っている騎士達を見てると、何故だかホッとした気持ちにもなった。
「あっ!」
防犯カラーボールの洗礼を受け、オレンジ色に染まっていた騎士達の身体から・・オレンジ色の小さいツブツブが、離れて浮かんでタンポポの綿毛の種のように、風に舞って流れて行く。水の中の泡のように、フヨフヨと頼りなさそうに浮かび、空へと・・・上に上へと飛んで行く。
『そういえば、和解するまで色は落ちないって実行しておいたね』
「どこに行くんだろう?元々は<空の魔石>から、造った物だけど」
まぁ、いいや。きっとこの世界の何処かに再び還って、いつか魔石にと戻るのだろう。何千年何万年の時を掛けて、パワーストーンが出来た様に。怒りや悲しみも空に溶けて、無くなれば良いのに・・そんなことを思って詩乃は良いオレンジ色のツブツブを見上げていた。
「聖女様万歳!聖女様万歳!オ~~~!オ~~~!オ~~~!」
平民の騎士達が、腕を振り上げ声を揃えて叫んでいた。
王子の名前がこれっぽっちも出てこない所が(笑)ですけどねぇ~~、聖女様伝説が出来上がった瞬間だった。
「聖女様、平民達にお手を振ってはいただけませんか?」
王妃様が、おっとりと促して来る。
・・・この人最後まで、勝ちそうな芽を見極めていなかったか?なかなか、侮れん熟女の様だ。聖女様は困った様に詩乃に視線を向けたが、詩乃がニコニコ笑って早く早くと手を動かしたので苦笑いしながらバルコニー中央に立った。ニッコリと微笑んで、騎士や王宮の使用人に向かって手を振る。
流石に羞恥心が有るのか、➁王子は隣に並び立つ様な見っとも無い事は自重していた。
[聖女様~~。聖女様~~。万歳!万歳!オ~~~!]
歓声はしばらく続き、夜はさらに更けて行き、貴族へのお披露目は後日にと変更になった。
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やっとバルコニーから解放されて、聖女様は控えの間?とか言う部屋へ王妃に案内された。もちろん詩乃も、②&駄犬&布団騎士、銀ロンも一緒である。王妃が手早くお茶の用意と、軽食をオーダーしていた。ここの女官長も大変そうだね。
疲れた詩乃が端っこのソファに腰かけて、 フゥ~っと、ふと前を見た時だった。
聖女様がスマホを両手で握りしめ、険しい顔で眺めている。
「聖女様?もしかして、バッテリーの残量が厳しくなってたりします?」
此方に来て1年半近く、スマホをずっと開かずに、いつか奥の手に動画を使う時が来るだろうとバッテリーを残しておいたのだろう。今日の事件で、使ってしまったか・・。
聖女様は泣きそうな顔で頷いた、ずっと我慢して見ていなかったのだろう。
「聖女様、マイピク!マイピク見ましょう。もう最後ですよ早く開けて下さい」
「でも、私だけ家族の写真を見るのは・・・あなたは、見られ無いのに」
なにを遠慮しているんだ、もうこれが最後になると言う時に。
「聖女様私も見たいです、聖女様のお父様と呼ばれる人を一目見て見たいです。家にはお父さんしか居なかったから、どんな人だか興味シンシンです。お母様も映ってます?わぁ~見たい見たい」
燥いで見せる詩乃に、聖女様は半笑いで泣きべそをかきながらマイピクを開いてくれた。
『おおおおぉぉぉ・・・・これは・・お父様だわ』
イケオジって言うの?オールバックの髪型に渋いお衣装、背もスラっと高そうだ。
「どれ、私にも見せてくれ」
②が図々しく割り込んでくる、何気に聖女様の腰、引き寄せるように手を回してきた。聖女様は画面に夢中で気が付かない。このムッツリ助平め!
「むぅ~~~っ」
腹が立ったから、手を掴んでペイッと剥がして捨ててやった。
だいたい今日は地団駄踏んで、ウロウロしていただけなくせに、良い気になんなや!どつくぞ!
聖女様を挟んで➁と睨みあう、まったく・・大穴は何している?
銀ロンは、混じりたそうにソワソワしているが、勇気が無いのか無駄に周りをウロウロしていばかりだ。この人コミ障だよね・・40歳オーバーみたいな見た目のくせして。ほら、小父さんも頑張れ!➁に負けるな!しょうがないので銀ロンに≪おいでおいで≫と、手招きしてみる。途端にパァッと顔を輝かせ、駆け寄って来る銀ロン・・うん、そうだね、ブンブン振られている尻尾が見えたよ。あぁ・・うららちゃんを思い出す。聖女様の両側に詩乃と王妃様、後ろから覗き込むように②と銀ロンが画面を見ている。
「これが私の学校・教室・・お家の部屋。家族の写真・・お父様とお母さま、兄が二人・・ペツトのチビ可愛いでしょ」
聖女様の写真はどれも、THEセレブって感じだった。
チビ・・ゴールデンレトリィバーが・・チビ・・デカいのにチビ。
家族の写真はお正月なのか、ご家族と聖女様が和服で笑っていた・・なんて素敵な写真だろう。銀ロンもそう思ったのか、何やら魔術を展開してタイルの様なツルツルした固い石板にその家族写真を焼きつけた。凄いね。コミ障だけど俺様だけど、銀ロンだけど・・やっぱり魔術はピカイチだ。
うぅん~・・でも、こいつが居なけりゃ、此処の世界に来なかったんじゃない?
・・なんとも複雑な心境だ。
家族写真を恭しく手渡す銀ロン、嬉しそうな聖女様、面白くなさそうな②。
「笑っちゃ悪いわよ~~」
扇で顔を隠しながら、鼻から下は大笑いしている王妃様。
無表情に背後に控える駄犬と布団騎士、やっぱり兄弟だね面立ちが似ている。
泣き笑いしながら画面を見ていたが、フッと消えてバッテリー残量が0を示した。
・・・最後のつながりが、いま・・消えた・・・。
涙が溢れそうな聖女様は慌てて隠すように胸に顔を埋めた、詩乃のササやかな胸に。羨ましそうな②と銀ロンに、寄り目にしてベ~~ッと舌を出したのは聖女様には秘密だ。王妃様はソファで悶絶していた、笑い上戸の人の様だ。
・・・詩乃は悪くない、精進したまえ若人よ。
詩乃と聖女様に、お付き合い頂き有難うございました。
次回、オマケ~の最終回です。




